フランス:低迷する農村ツーリズム

(document)

農業情報研究所
(WAPIC)

02.1.23

 フランス政府は、特に1999年農業基本法で制定した地方経営契約(CTE)を通じて農業経営の多角化を目指してきた。しかし、フランス農水省の農業統計研究誌の一つである"Agreste Primeur"(Moins de 2 % des exploitations proposent un hébergement,Le tourisme à la ferme reste marginal (n° 107 - janvier 2002))が明らかにした2000年農業センサスの分析によると、農業経営による農村ツーリスムは低迷し、多角化に向けての前進はみられない。以下にこの分析の要点を紹介しておく。

 食堂・宿泊業の低迷とその理由

 前回の1988年センサスでは、経営内で食堂業を営むものは3,080を数えたが、2000年のこの数は3,000でほとんど変化していない。キャンプ・民宿などによる宿泊業は、前回の15,000から13,000に減った。この12年間で農業経営総数は3分の2に減ったから、これらの活動を行なう経営の比率は増加したが、それでも食堂業、宿泊業を兼営するものは、それぞれ0.4%、1.5%にすぎない(下表)。有機農業経営ではこの比率が多少高まるが、それでも7%がこれらにかかわるだけである。

食堂・宿泊業を兼営する農業経営数とその比率

 

1988年

1988年

2000年

2000年

 

実数

実数

食堂

3,077

0.3

2,973

0.4

宿泊

15,080

1.5

12,795

1.9

食堂と宿泊

1,884

0.2

1,878

0.3

総数

1,016,755,

100.0

663,808

100.0

 しかし、農村ツーリズム自体が後退しているわけではない。市町村による農村民宿の数は大きく伸びている。農業経営による農村ツーリズムの停滞の主な理由は、農村における農家人口の比重の低下である。農業経営で生活し・働く経営者とその家族で構成される農業家族人口は、いまや農村人口の15%を占めるにすぎなくなっている。

 農業の変化も農家ツーリズムを困難にしている。一つには、独身経営者が増えていることが食堂経営を難しくしている。独身経営者の比率は、1988年の16%から21%に増えた。同時に、経営で働く配偶者の比重が減った(ほぼ3分の2から半分)。そして、経営で働く配偶者にあっては、農業に専従する者の比率が21%から28%に増えた。配偶者が非農業活動にかかわる余裕がなくなっているのである。その一般的理由は農業経営規模の拡大である。平均規模は、1979年23ヘクタール、1988年28ヘクタールから2000年には42haに急拡大した。

 その他の農外活動

 食堂・宿泊以外の活動も極めて稀になっている。籠細工や皮なめしのような職人仕事も800の経営がかかわるにすぎない。経営見学や乗馬農場のような観光活動にかかわる経営も6,000に足りない。農場生産物の加工を行なう経営も稀になり(9%)、その中心は原産地呼称ワインの製造である。その他の経営では農場加工は一層稀である。比較的重要な地位を占めるのが消費者への直接販売活動であるが、これも1988年以来後退している。

 CTE投資援助の10%が多角化へ 

 しかし、農業者の活動は農業生産だけに限定されると結論するには及ばない。農業はなお国土の半分以上をカバーする。農地は減少したが、1988年から2000年までに失われたのは(およそ3000万ヘクタール中の)74万ヘクタールにすぎない。牧畜、特に牧牛の維持により、荒廃地の増加を抑えることが可能になる。農地放棄は特に中央山塊地方で目立つが、ここでも牧畜は活発で、新しい生産的な草地が古い牧草地に取って代わっている。多くの経営にとって、非農業活動の魅力は小さいが、一部の農業者の関心は引いている。2001年に14,000を数えるに至ったCTEの投資援助の10%が経営活動の多角化に関係している。

 関連報道
 Le tourisme rural ne fait pas le bonheur des paysans,Le Monde Interactif,2002.1.18
 Très peu d'exploitations proposent un hébergement,Le Monde Interactif,1.18

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