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フランス:ブドウ・ワイン産業の構造変化ー国際競争激化で「品質」に賭け

農業情報研究所(WAPIC)

02.11.19

 長い間世界第一級の地位を維持してきたフランスのブドウ・ワイン産業は、ここ数年、オーストラリア、チリ、米国などの新興産地の激しい追い上げに遭い、かつてない苦境に追い込まれてきた。それでもなお、ワイン生産では世界第一位の地位を維持しているし(2001年、約20%の生産シェア)、輸出においてもイタリア(約27%)に次ぐ第二位の地位(約23%)を維持している(OIVによる)。

 2001年、フランスの農産食料品全体の貿易収支は75億3,200万ユーロであったが、その64%に相当する48億7,200万ユーロはワイン部門が稼ぎ出したものである。それはフランス経済全体においても、なお重要な地位を占めている。これにかかわる農業経営は、全体の13%であり、これら経営の保有する農地面積は全体の3%にすぎないことからすれば、これは驚くべきことである。これら経営に対して支払われる補助金は、他部門の経営に比べれば極めて微小である。それにもかかわらず、これら経営の収益は、他のどの部門の経営よりも群を抜いて高い。この3年、原産地呼称ワイン部門の経営所得は連続して大きく低下した。それでも、1経営当りの課税前所得は、第二位の豚・家禽部門経営の1.7倍、穀物等大規模耕種部門経営の1.9倍となっている(2000年、以上の数字は、いずれもフランス農水省・Agresteによる数字)。

 グローバルな低価格競争の驀進により、世界中の農民が息も切れ切れに喘いでいる。そのなかで、フランスのワイン産業は「品質」に賭けた。課題は、この部門の経営を消費者ニーズの変化に合わせて再編成(構造再編)することであった。成果はどうであったのか。それは、上に述べたこの部門のパフォーマンスが示唆している。1988年と2000年の農業センサスの結果を詳細に分析したフランス農水省の最新の研究(Agreste Cahiers:Spécial Viticulture n° 3 - octobre 2002)は、その背後にある構造変化をはっきりと確認した。以下は、この研究を要約、紹介するものである。

 1.概観

 ブドウ経営は農業経営の17%を占めるに過ぎないが、50億ユーロ近い農産食料品貿易黒字に寄与している。呼称ブドウ園を発展させることで、ブドウ栽培者は消費者の要求に適応することができた。呼称ワイン()生産者は、平均して、農業界で最高の所得を得ている。ブドウ園面積は12年間で5%減少したが、呼称制度下のブドウが増加した。

 2.経営

 経営数は1988年から2000年の間に3分の1減少した。しかし、30ha以上の経営は41%増加、多数の小規模ブドウ園が活動を停止したために、平均面積が増加した。また、専門化・会社化という形で経営の「プロ化」が進んだ。ブドウ栽培に専門化した経営が88%のブドウ園を耕作、2000年には、これらの経営がほぼ90%のワインを生産している。また、会社形態(民事・商事会社、協同組合)の経営が発展し、ほぼ半数を占めるに至った。

 収穫の機械化は、品質維持のために問題があるが、急速に進んだ。1988年には19%のブドウ園が収穫機械を利用していたにすぎないが、2000年には半数のブドウ園が利用している。面積では、61%が機械収穫されている。この利用が特に多いのは南西部とラングドック・ルション地域で、丘陵地帯では物理的に利用できない。ボジョレーやシャンパーニュでは機械収穫は禁止されているが、呼称制度下のブドウ園の半数は利用している。

 このように、フランスワイン生産の伝統は急速に崩れつつあるが、自家消費の伝統はなお残っている。製品をまったく販売しない3万4千のブドウ栽培者が残っており、ブドウ園の1%を保有する。これらブドウ栽培者の半数は「農業者」として登録されていない。

 3.人口と労働力

 ブドウ栽培者は、他の経営者よりも高齢化しており、経営主中の女性の比率も高い。夫が引退した後に経営を継ぐものも多い。教育程度は、若い者でも、他の農業者に比べて低い。賃金労働者が多いのもブドウ栽培の特徴となっており、経営拡大とともにその数(大部分は季節労働者)は増加している。

 4.ブドウ園

 テーブル・ワイン向けのブドウの抜根が進んでいるが、30年以上のブドウ樹面積が40%を占め、必ずしも若返りしていない。赤ワインの品質改善のために、ボルドー原産のメルロ種の植栽が増え、43%も面積を減らしたラングドック・ルション地方に伝統的なカリニャン種に置き換わっている。カベルネ・ソーヴィニョンとシラーは、それぞれ44%、88%増えた。白ワインについては、シャルドネとソーヴィニョンが急増している。

 品質改善は、有機ブドウ栽培の発展という形でも進んでいる。それはブドウ園の1%にまで拡大、呼称または地方ワインを生産している。その70%は個人のカーブで醸造されている。

 現在、テーブル・ワイン向けのブドウは全面積の7%にまで減っている。地方ワイン(21%)、呼称ワイン(62%)向けが急速に増加した。面積では最大部分を占め(フランス全体の3分の1、28万ha)、周期的な過剰生産危機に直面してきたラングドック・ルション地方でも、地方ワイン向け面積が増加、エロー県では60%、オード県でも40%を占めるに至っている。総面積は12年間で17%減ったが、呼称ワイン向けブドウが面積の4割を占める。他の大生産地域(シャンパーニュ・アルデンヌ、ジロンド、アルザス、コート・ドール、ソーヌ・エ・ロワール、ジュラ、シェール、ドルドーニュ)では、大部分がこのようなワインになっている。ローヌやプロヴァンスの谷でも、AOCワインの開発が進んでおり、ジュラやアルプスの山岳地域のブドウ園も、ほとんどすべてがAOCワイン向けのものとなっている。

 
(エロー県のブドウ畑、筆者撮影)

 最後に、このような変化は、品質改善を促進するための公的援助に助けられていることも指摘しておきたい。

 いくつかのマイナス面は否定できないとしても、今までのところ、「品質」に賭ける戦略は成功を収めつつあるようである。左翼政権下、1999年のフランス新農業基本法は、世界市場における安売り競争の流れに乗っていてはフランス農業は自滅すると、「量」から「質」への方向転換を打出した。ブドウ・ワイン産業は、この方向転換を最もよく体現しているようである。これは、地方の伝統に依拠しつつ「オリジナル」な商品を生み出そうとする地方住民の営々たる努力と、これを支える「品質政策」というフランスの伝統を基盤としている。どこででも簡単に実現できることではない。しかし、その基本思想は十分に学ぶ必要があるように思われる。

 )呼称ワインを含め、フランス・ワインは次のように分類される。 

 (1)テーブル・ワイン(vin de table):いかなる特別の品質基準もない。フランス(の一地域または複数地域)だけが原産のものについて、「フランス・テーブル・ワイン」と表記される。EU諸国のワインを成分とすることもできるが、その旨表示しなければならない。

 (2)地方ワイン(vin de pays):その名称に関係する生産地域だけで生産されたものでなければならない。政令で定められた最大ワイン収量(一定量のブドウからできるワインの量)、最低アルコール濃度など、厳格な生産条件を満たさねばならない。「地方ワイン」の表記は義務。

 (3)限定高級ワイン(VDQS):国立原産地呼称機関(INAO)が管理する。表示・生産地域・品種・最低アルコール濃度・最大収量・耕作技術が政令で定められる。

 (4)統制原産地呼称ワイン(AOC):地方の特性を尊重してINAOが定める生産条件を満たすワイン。最も名声のある土地で生産されるワインである。生産規則はVDQSより厳格。ただし、AOCは、あくまでも原産地と生産条件を保証するものであり、品質を保証するものではない。品質は年々の気候条件などにより、必ずしも一定しない。

 関連文献・情報 

 Agreste Cahiers:Rica 2000 : situation financière et disparité des résultats économiques des exploitations (décembre 2001)
 Agreste conjoncture:Un excédent de 7,5 milliards d'euros en 2001 (21/02/2002)
 Agreste premier:Les résultats des exploitations agricoles du Rica : Nouvelle baisse du résultat courant avant impôts en 2000 (n° 111 - mai 2002)
 Agreste premier:Les exportations reculent en 1999 et 2000 après de fortes hausses de prix - Vins français : une suprématie fragile (n° 95 - juin 2001)
 Agreste premier:Les résultats 1999 des exploitations agricoles du Rica : la viticulture est épargnée par le repli (n° 86 - janvier 2001)
 Agreste premier:Les résultats courants avant impôts des exploitations du RICA en 1998 : 547 000 francs pour la viticulture sous AOC et 62 000 pour le hors sol (n° 70 - mars 2000)
 Agreste premier:Le vin de table cède la place aux vins de pays : entre deux vins, la viticulture a choisi la qualité (n° 65 - novembre 1999)
 AgresteRecensement agricole 2000:Les cédéroms Viticulture France métropolitaine et les 5 interrégionaux,2002
 Ministere de l'Agriculture et de la Pêche(当時),DOSSIERS DE PRESSE:François PATRIAT , ministre de l'Agriculture et de la Pêche, annonce un plan structurel pour poursuivre et achever la modernisation de la viticulture méridionale - Paris, le 13 mars 2002
 Ministere de l'Agriculture et de la Pêche(当時),COMMUNIQUES DE PRESSE:LE PLAN D'ADAPTATION DE LA VITICULTURE FRANCAISE SE MET EN PLACE CONFORMEMENT AU CALENDRIER- Paris, le 4 décembre 2001
 (マスコミ情報)
 La viticulture poursuit son évolution vers la qualité,Le Monde,11.13
 La singularité des vins d'Alsace garantit leur succès,Le Monde,11.13
 Les vins australiens disputent aux français leur hégémonie,Le Monde,7.9
 Les fins palais asiatiques préfèrent les crus français,Le Monde,7.9
 Louis Latour, bourguignon, n'a "jamais cru à l'évangile de l'appellation",Le Monde,7.9
 A Bordeaux, les Américains ont boudé le millésime 2001,Le Monde,7.9
 L'étiquette ternie du vin francais,Libelasion,7.2
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