EU:子供の肥満健康リスクが急増、政策見直しと広告規制導入の提言

農業情報研究所(WAPIC)

02.9.18

 わか国では、初の狂牛病(BSE)発見以来、食品の安全性を疑わせる事件が続発している。お陰で、狂牛病、遺伝子組み換え、残留農薬、食品添加物など(実は、現在は実態不明のために大騒ぎはされていないが、ダイオキシン、カドミウムなど環境汚染から来る危険、畜産における抗生物質やホルモンの使用から来る危険など、既知・未知の数知れぬ危険も潜んでいる)、「危ない食品」に関する人々の意識は飛躍的に高まっている。しかし、これらに隠れて実際にはもっと広範な健康被害をもたらしているかもしれない(有害)食品に対する意識は希薄なようだ。いわゆる「ジャンク・フード」である。

 農水省は、無登録農薬を使用した農家を「モラル」がないと厳しく批判したが、「ジャンク・フード」へのお咎めは一向に聞かない。しかし、人口の半分以上、5400万人が肥満とされ、年々の夥しい数の死が肥満関連病に起因するという米国では、「肥満と病気を引き起こす食事をそうと知りながら供給した」マクドナルド、バーガー・キング、ウエンディ、ケンタッキー・フライド・チキンが提訴されるまでになっている(米国:肥満米国人、ファスト・フード企業を訴え)。マクドナルドは、調理油を肥満や心臓への影響が少ないとされる新しい油に切り替えるところまで追い込まれている(McDonald's New Recipe Lowers Goo for Arteries,The New York Times,9.4)。この問題はヨーロッパでも重大関心事となりつつある。

 9月12日、EU各国政府の閣僚や保健関係者がコペンハーゲンに参集、EU肥満サミットを開催した。この会議に提出された「国際肥満タスクフォース(International Obesity Taskforce)のレポートは、肥満はヨーロッパ中で急速に増加しつつあり、慢性的非伝達性病気予防の主要な障害となる汎ヨーロッパ病をなしていると言う。少なくとも1億3千500万人が肥満者であり、これに新たにEUに加盟することになるであろう国々の7千万人が加わる。多くの国で、成人人口の半分以上がオーバーウエイトで、成人の30%までが肥満と診断される。子供の肥満も急増しており、4人に1人が肥満とされる地域もある。

 中でもイギリスの状況は最悪である。オーバーウエイトと肥満はこの20年の間に急増した。1980年のオーバーウエイトの男女の比率は、それぞれ6%、8%であったが、1980年代半ばまでに倍増、現在では男の65.5%、女の55.2%がオーバーウエイトまたは肥満であり、この数はさらに増加中という。1993年から2000年までの間に、16−24歳の肥満と分類される男子人口比率は4.9%から9.3%に、25−34歳では10%から20.3%に増加した。16−24歳女性の肥満率は11.5%から15.7%への増加であるが、靴紐を結べなかったり、バスの一人掛けの椅子に座れない超肥満者が1%から2.4%に増えている。フランスの状況も深刻である。子供(5−12歳)の肥満率は、1980年代には5−6%であったが、2000年には15%にまで増えた。

 タスクフォースは、肥満が問題になるのは、それが高血圧、糖尿病、心臓血管疾患、胆嚢病、一定のタイプの癌、社会心理的問題などを含む重大な健康影響をもつからであると言う。肥満のコストは保健予算全体の8%を占め、病気の個人はもちろん、雇用者・納税者・社会に巨大な負担を課しているという。従って、EUと加盟候補国は、肥満抑制と肥満から来る糖尿病・心臓血管疾患・癌のリスクの軽減のための措置を必要としている。毎年の新たな推定7万8千の癌がオーバーウエイトに帰せられるという。体重管理により糖尿病がどれほど予防されるかについても明確なデータがある。

 しかし、肥満は何故急増しているのか。当面、子供の肥満が重大問題となっているフランスでは、ファスト・フードやテレビが問題にされることが多いが、専門家は、これは多様な要因に関連した病気であり、原因をマクドナルドだけに求めるのでは不十分だと言っているという(L'alarmante augmentation du nombre d'enfants obèses, Le MondeInteractif,9.14)。ル・モンド紙が様々な専門家の意見としてまとめるところによると、生活様式に関連した食生活、身体活動の低下、産前・産後の問題が槍玉に挙げられている。

 栄養学者は、チップス、甘味飲料、ピザ、フリッツ、チョコレート・バー等、子供の食事の嗜好と破壊に警告する。このジャンク・フード嗜好は子供の環境と直接に結びついている。テレビでは、二つのアニメ番組の合間に、広告が街角の自動販売機やファスト・フード店ですぐ買えるソーダやチョコレートで包まれたピーナツの「効用」を誇大に宣伝する。家庭では、時間がなく、仕事を終えたあとの食卓で夫婦喧嘩を避けたい両親がピザを暖めなおし、子供はといえば、学校の帰りに、もう出来合いの高カロリー食品を食べてしまっている。こうして、若者は消費が減りつづける水・果物・野菜の味を忘れてしまう。

 都市的環境が運動を減らす。忙しい両親は、エレベーターに走り、子供を車で学校に送る。余暇はテレビ、ビデオゲーム、コンピュータ。若者はますます動かなくなり、町では野外で遊ぶこともできないし、サイクリングにも出ない。環境と子供・家族の生活様式が肥満を引き起こしていると考えられる。産前期と1歳の期間の分析が必要と言う専門家もいる。妊婦の代謝異常と乳の構成成分が肥満現象の引き金になる可能性があるというのである。 

 しかし、先のタスクフォースは、肥満は、基本的には食事が誘導するという。すなわち、脂肪や炭水化物(砂糖)を多量に含み、果実や野菜を十分に含まない高カロリー食品の摂取の結果だということである。これが、身体活動を減らす生活スタイルや環境により増幅されるのであり、身体的活動の欠乏だけでは肥満の説明はできないと言う。

 それは、特に若い世代の肥満の防止には新たなアプローチが必要だと言う。運動を制限し、高カロリー摂取を刺激する環境の変化のためには、保健省だけでなく、政府全体や民間部門も介入する必要がある。子供は消費者として標的にされており、肥満の増加の大きな要因である高カロリー食品・飲料の洗練されたマーケッテイング技術、強烈で、繰り返される宣伝に弱い。すべての子供に対して、不健康な消費パターン採用への圧力からの解放と、安全に遊び、運動する権利を保証しなければならない。

 こうして、タスクフォースは、子供と成人の肥満を促進している現在の多くのEU政策の健康影響評価に新たなアプローチを適用するように要請している。国連食糧農業機関(FAO)CodexやWTOの食品表示及びその他の貿易関連事項に関する作業、共通農業政策の見直し作業、EUにはバランス建て直しの大きな機会がある。また、輸送政策、都市リニューアルの助成についても熟慮の必要があるという。

 その上で、EUのタバコ広告禁止の実施に続き、就学前児童を含む若者をターゲットとする広告のEUベースでの制限を行なうべきだと提言する。肥満は、今や喫煙以上の脅威になりつつあるという認識がある。