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欧州委、狂牛病危機時のフランス牛肉価格カルテルに重罰

農業情報研究所(WAPIC)

03.4.7

 欧州委員会とフランス政府・農業者団体はEU共通農業政策(CAP)の改革をめぐって激しく対立しているが、欧州委員会の新たな決定が衝突を一層険悪化させている。

 欧州委員会、フランス牛肉団体の競争制限行為に罰金を決定

 フランスの主要農業者団体・関連業界団体は、2001年10月、狂牛病危機の回避のために牛肉部門の競争を制限する協定を結んだ。この競争制限行為に対し、欧州委員会は、4月2日、これに関連した中心的農業者組合・FNSEA(全国農業経営者連盟)を始めとする六つの牛肉部門団体に、総額1,670万ユーロ(約20億円)の罰金を科したのである。

 欧州委員会によれば(Commission imposes fine on French federations for unlawful agreement in the beef sector)、四つの農業者団体と二つの屠殺業者団体、計6団体が、2001年10月24日に、一定種類の牛肉に最低価格を設定、さらにすべてのタイプの牛肉のフランスへの輸入を停止、あるいは少なくとも制限する協定を発効させた。協定は2001年11月末までの期限付きのものであったが、協定は違法であるという欧州委員会の11月25日の警告を無視、この期限を過ぎても続いた。欧州委員会は、2001年12月の立ち入り検査で、団体がこの行為を違法と認識していたことを示す証拠文書も発見したという。

 価格協定や輸入制限は、EU競争法の最も重大な侵犯とみなされる。従来、農業部門にこのような罰が科された例はない。農業部門におけるEUの競争ルールには多くの例外がある。しかし、欧州委員会は、当該協定はいかなる例外にも該当せず、今回の決定は競争ルールが農業部門にも適用されることを明確に示したものと言う。ただし、欧州委員会は、罰則の適用に際し、当時の牛肉部門の深刻な状況を斟酌し、屠殺部門団体については、協定による利益がないにもかかわらず、農業者の圧力と暴力による脅しで協定に参加したという事実を斟酌したという。

 罰金額はFNSEAに対する1,200万ユーロが最高で、3ヵ月以内に払わねばならないこの罰金は、FNSEAの年間予算の2倍に相当する。次いで青年農業者センター(JA)に60万ユーロ、全国養牛連盟(FNB)と全国牛乳生産者連盟に各144万ユーロ、食肉産業・卸売商業全国連盟に72万ユーロ、家畜・食肉協同組合全国連盟(FNCBBV)に48万ユーロとされている。 

 罰を重くする要因としては、次のような事実が考慮された。第一に、FNSEA、FNB、JAは、屠殺業者に協定締結を強要し、その実施を監視する意図で暴力行為を働いた。第二に、すべての関係団体は、欧州委員会からの警告を受け取った後、協定は更新しないと文書で保証した後にも、秘密裏に協定適用を続けた。さらに、FNBは違法行為の発案者であったという事実も考慮された。

 罰を軽減する要因としては、次のような事実が考慮された。農業大臣が屠殺業者に対して協定に調印するように圧力をかけ、協定を「善意の市民的行為」であるとした事実を考慮して、屠殺業者への罰金は軽減された。農業者団体については、そのメンバーの一部が行なった暴力行為が大臣の行為を促したことから、この考慮はなされない。さらに、屠殺業者については、最低価格設定や輸入停止は何の利益をもたらすものでもなく、農業者の暴力的脅しで協定を結んだものであることが考慮された。彼らの主要な利益は、農民による工場封鎖の解除にあり、この解除の返礼として協定に参加した。

 また、一般的には価格協定は競争ルールの最も重大な侵犯ともみなされ、通常の罰金の基準額は2,000万ユーロで、違反期間の長さやその他の要因を考慮して加算するが、今回のケースでは、1996年の狂牛病危機以来の部門の深刻な状況が考慮されたという。

 農業者団体の反発

 欧州委員会のこのような決定に対し、農業者団体は激しく反発している。FNSEA等、罰金を科された農業者4団体は、4月2日、罰金は農業者組織の存続そのものにかかわり、自由取引と規制緩和がブリュッセル[欧州委員会]の寡頭支配者の唯一のイデオロギーであったが、今後、組合弾圧もその七つ道具の一つになると非難する声明を発表した(RÉPRESSION)。それは、この協定が、2001年秋の第二次狂牛病危機に際して欧州委員会が管理できなかった消費者価格の上昇と並行しての生産者価格の崩壊に対抗するものであったと主張し、職能組織の告発を通しての「経済的・社会的デモクラシーの規則」に対する欧州委員会の攻撃に対して立ち上がるように、組合[サンジカ]組織全体に呼びかけている。

 FNSEA会長は、「経済的・社会的デモクラシーを防衛するために」、その主張を支持するように首相に要請した。ゲマール農相は、関係農業職能・組合組織の存在そのものを問うまったく法外な罰金額に茫然としたと言い、農業者組織への支持を表明した。当時の農相・ジャン・グラバニィーは、自分の意見を聞かれることもなく、説明を求められることもなくなされたこの決定には「まったく唖然とする」、「容認できないのは法と裁きのシステムだ」と言う。FNSEAは、7日、全土での抗議行動を呼びかけた。

 欧州委員会の決定に反発しているのは、これら組合だけではない。企業的農業をめざす「農業経営者」連盟に対抗して「農民的農業」を主張する農民同盟(CP)も、ジョゼ・ボベの名で、農民同盟はFNSEAによる自由主義的農業政策の[政府との]共同管理の慣行を常に告発してきたし、FNSEAと屠殺業者の間の協定の実施の条件や様式を共有するものではないが、それでも欧州委員会の決定は重大な帰結をもたらすという声明を発表した(La Commission européenne sanctionne et condamne la mise en place de prix minimum.,4.3)。農民同盟の声明は、EUの超自由主義政策(市場の自由化、EUの対外的開放、市場管理手段の解体)により、農産物は、ますます生産費を下回る価格で販売されるようになっているのに、欧州委員会は、この決定により、市場法則が他のいかなる関心事にも勝り、決定的に優越しなければならないと通告したのであり、ヨーロッパにおける最低価格設定のあらゆる試みを決定的に否認することになると言う。また、この決定は、組合の自由と農民の所得の防衛に対する重大な障害をなすことにもなる。既に司法の執拗な攻撃の犠牲となっている農民同盟は、このような決定を非難するほかないとも言う。

 ヨーロッパ市場でも、輸出市場でも、生産費に達しない価格での農産物販売の禁止を長年にわたり要求してきた農民同盟は、農産物価格のこの現実を正すように、フランス政府がEU立法の修正に取り組むように要請している。また、農業市場共同組織に生産の枠付けと制御の役割を与えるCAPの即時改革に向けて圧力をかけねばならない、ヨーロッパ農民に酬いある価格を与えることを可能にするのは、この政策だけだと言う。

 今回の欧州委員会の決定は競争政策にかかわるものであるが、論議はそれにかかわるだけではない。CAP改革をめぐる論争にも新たな要素を付け加え、対立を一層深める要因にもなりそうである。さらに、欧州委員会の「決定」の権限とプロセスに関する従来からあるEU制度の基本的問題にかかわる論議を燃え立たせる契機となるかもしれない。

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