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EU:会計検査院、輸出補助レート設定の透明性要請

農業情報研究所WAPIC)

03.7.08

 EU会計検査院がEU域内価格と世界価格の差額を輸出業者に支払い、一般的には世界価格を上回るEU産品の輸出を可能にする輸出払戻し金(いわゆる輸出補助金)のレートの欧州委員会による設定に関する特別報告書を提出した。EU価格と世界価格の差の限界内で、また信頼できる最新の市場情報に基づいて健全・透明な方法でレートが設定されているかどうかを監査したものである。

 レート設定のための情報は必ずしも完全でないか、最新のものではないと指摘した。差額が計算されたとしても、これを現実のレートに体系的に結びつけることができない部門がある。従うべき手続を述べる指針ないしマニュアルがなかったり、設定されたレートのチェックの体系的証拠がなかったりする。

 特に問題なのは、価格データの取得の困難である(とりわけ世界価格)。世界価格のデータの性質と出所は部門により変わる。穀物価格は貿易業界や新聞のデータに基づく。砂糖価格はロンドン市場(LIFFE)、乳製品は米国農務省などによる広範な世界相場が利用され、牛肉については世界基準価格がなく、米国やオセアニアからの情報が利用できるが、EUの主要競争相手である南米やインドについての情報は利用できない。域内価格についても同様で、牛肉・乳製品価格は週ベースでEU構成国から報告されるが、欧州委員会がスポットで定期的に検証するのは牛肉価格だけである。一部構成国はまったく報告しなかったり、報告が遅れるから乳製品について利用できる情報は不完全で、最新でもない。牛肉と乳製品について各国が報告する価格は、同一製品について相当大きく、指標価格、域内価格と世界家格の差額の計算を難しくする。レート設定のために使用される域内価格がデータ・ソースからどのように計算されるべきかに関する指針がない。全体的に、レート設定方法は特に牛肉・乳製品で十分に明確でなく、穀物部門は多少ましとされている。

 払戻しのレートは、域内価格と世界価格の差額の範囲内で、域内市場の安定・WTOでの約束・将来の市場動向・輸出の経済的重要度などを考慮して設定されるが、世界価格に対する払戻し金の割合は、普通小麦:46%、砂糖:229%(差額よりも17%多い)、バター:122%(同17%少ない)、脱脂粉乳:46%、チェダー・チーズ:63%と計算されている。この報告は、あくまでも輸出補助にかかわるEU域内の問題を指摘したものではあるが、砂糖やバターの補助率の高さによって、EU輸出補助の国際的影響の重大性が改めて実感される。

 EUの輸出補助の主要な対象は砂糖・穀物・粉乳・バター・チーズ・牛肉で、2000年には56億ユーロ(CAP市場措置のための総支出の約16%)、2001年には35億ユーロ(同9%、)がこのために支出されている。2001年度の部門別支出割合は、普通小麦:8%、砂糖:30%、乳製品:32%、牛肉・子牛肉:11%、豚・鶏肉3%、その他:16%であった。輸出補助金の削減には、ここで問題にされたレートの設定方法ではなく、市場組織そのものの改革が不可欠である。先頃決着したCAP改革は牛乳(脱脂粉乳・バター)部門の保証価格引き下げに合意した。これはこの部門の輸出補助の相当な削減を可能にするであろう。しかし、とりわけ途上国を中心とした国際的批判が厳しさを増している砂糖部門の改革は今後の課題である(欧州委員会は今年中に改革案を提案するとしているが、その中身は未だ見えない)。

 Special Report No 9/2003 concerning the system for setting the rates of subsidy on exports of agricultural products (Export Refunds)