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EU:砂糖部門等の改革に着手、多角的貿易システム死守の構え

農業情報研究所WAPIC)

03.9.15

 欧州委員会が6月の共通農業政策(CAP)改革で積み残した砂糖・タバコ・オリーブ油・ワタ部門の改革に乗り出した。23日、砂糖部門についてはあり得る三つの改革シナリオに関する通信を、他の三部門については共通市場組織(CMO)の基本的改革案を提示した。とくにEUの砂糖補助金は、米国のワタ補助金とともに、途上国の集中攻撃の的となっており、ブラジル・タイ・オーストラリアがWTOに提訴し、紛争処理のプロセスも進行中である。これらの改革の行方は、WTO新ラウンドの行方にも影響を与えるであろう。これら部門の現況や現在のEU政策・改革案の詳細は後に報告するが、とりあえず、提示された改革の方向だけを下に記しておく。

 砂糖部門の改革シナリオ

 砂糖部門は、EU諸国にとっても、EUが輸入特恵を与えているアフリカ・カリブ・太平洋(ACP)諸国・インドにとっても、極めて微妙で、複雑な部門である。この部門の改革は非常に困難で、そのCMOは、1968年以来、基本的にはほとんど改革されてこなかった。EUの決定機関である閣僚理事会も、最近は「共同決定」にかかわる欧州議会も、従来、この部門に関する政治的議論を行なう機会さえなかった。そのために、牛乳部門改革においてそうであったように、改革案提示の前段階の議論を進めるために、今回は、予めそれぞれの影響評価を行なったうえで、三つの改革シナリオを示したものである。

 第一のシナリオは、割当・価格支持に基づく現在のCMOの基本的枠組みは維持しながら、既存の、あるいは将来の様々な国際約束に従って輸入数量を増やして行こうとするものである。関税、支持価格、生産割当は削減される。

 第二のシナリオは、生産割当を段階的に廃止、支持価格は非特恵輸入品価格に合わせて調整しようとするものである。このシナリオによる支持価格の引き下げは、ACP諸国等、EUから特恵を受けている国々にとってのEU市場の魅力を減らす。支持価格引き下げのEU生産者への影響を緩和するために、6月の改革で導入された単一農場支払の可能性が評価された。現在のEUへの輸出国の砂糖収入への影響も評価された。

 第三のシナリオは完全自由化である。域内価格支持制度と生産割当が廃止される。輸入関税と輸入数量制限の完全廃止のEU砂糖市場への影響が評価された。第二のシナリオと同様、EU生産者のための所得支持の導入の可能性、世界貿易への影響や現在のEUへの輸出国の砂糖収入への影響が評価された。

 タバコ・オリーブ油・ワタ部門の改革案

 6月改革の方向と同じく、現在の生産関連支払の部分をデカップルされた単一農場支払に移行させるとともに、これらの支払やその他の支払を環境や食品安全基準の尊重と関連づける。

 タバコについては、品質に基づいて調整され、品種ごとの生産割当に従う生産量に関連させた奨励金支給システムによる生産者助成をデカップリング、他作物や他産業への転換を促すための共同体タバコ基金を段階的に廃止、CAPの農村開発措置の枠内で、タバコ生産地域の再編のための予算枠を設ける。

 オリーブ油部門では、生産関連支払の60%までをデカップル、単一農場支払に組み入れる。残りの部分については、生産規模が小さく、あるいは放棄が進めば火災や土壌侵食の恐れが高まる限界地域のオリーブ園や品質改善のために、一定期間の間、追加直接支払が許される。

 ワタ部門では、EU各国ごとの生産者助成支出の60%は単一農場支払に移行、残り40%は、ワタに高度に依存する地域の生産壊滅を防ぐために、一定期間の間、面積に基づく生産者直接支払に当てられる。

 欧州委員会は、これらの改革が、一層の市場志向、環境便益、競争力、農業者所得安定に貢献するとしている。

 欧州委員会は、WTO交渉を成功に導くためには、またそれによる多角的貿易システムの維持・増強のためには、このような「貿易歪曲的」補助金削減のための一層の努力が不可欠と見ている。米国も同様な方向に動くことを切望しているが、これは望めそうにない。22日、イタリアで開かれたナイジェリア・オバサンジョ大統領等も招いての非公式閣僚理事会で、フィシュラー農業担当委員は、WTO交渉での合意は、「貿易歪曲的援助のドラスティックな削減、従って今までは何もなされなかった場所(例えば米国)での農業政策の改革」に導くと、WTO交渉合意の死活的重要性を訴えた。EUは、依然として、多角的貿易システム死守の構えを崩していない。

 日本では、FTAがもつ破滅的側面をすっかり忘れ、構造改革とは何ぞやも分からぬままに、FTAと構造改革に向けての「大政翼賛的」雰囲気が醸成されつつある。真に危機的状況だ。

 関連資料
 Commission opens discussion to reform the EU sugar regime,9.23
 Agricultural reform continued: Commission proposes sustainable agricultural model for Europe's tobacco, olive oil and cotton sectors,9.23
 Overall outlook of the raw tobacco, olive oil and cotton common market organisations (CMOs),9.23
 Dr. Franz FISCHLER Member of the European Commission responsible for Agriculture, Rural Development and Fisheries Agriculture and Developing Countries Informal Council of Agriculture Ministers Taormina, 22 September 2003,9.22