スーパーの追加支払の配分問題で英国農民が酪農工場封鎖の警告

農業情報研究所(WAPIC)

03.10.10

 イギリス・モンマスシャーの農民グループ(Farmers for Action)が、来週から酪農工場への牛乳供給を阻止すると乳価をめぐる抗議を行なっている。今週中に問題が解決されなければ、デーリー・クレスト、ロバート・ワイズマン・デーリー、エクスプレス・デーリー、連合協同組合クリームリー(ACC)などの主要酪農工場と主要スーパーが使う流通センターを数日以内に封鎖するという。ただし、病院や学校への供給は止めない。

 問題は、今年夏、テスコ、センズベリー、アスダ、セーフウェイ、ウエイトローズなどの主要スーパーが酪農民の手取り価格が低すぎることを認め、生産者に還元するという了解の下で、加工業者に1g当たり2ペンスの追加支払いをすることに合意したのに、加工業者がこの了解を守っていないことから来た。

 農民グループによれば、現在の生産者受け取り価格は1g当たり17.8ペンスだが、生産費は20ペンスから23ペンスになり、生産すればするほど損することになる。2ペンスの追加では足りないが、方向はよいと提案を飲んだが、酪農工場はそれさえ払わないという。ほとんどの加工業者は1ペンス以下しか生産者に還元していない。工場封鎖が実行されれば大混乱は必至だが、農民の怒りはもっともだ。

 ただ、問題の根源が酪農工場にあると言えるかどうかは疑問だ。酪農部門―過去8年間に1万以上の農民が離脱している―の基本的問題は、牛乳需要の変化とスーパーの支配力の強大化にある。生乳市場におけるスーパーのシェアは、過去6年で65%から83%に増加した。過去3年間で、スーパーの価格は1g当たり7.6ペンス上昇したが、生産者受け取り価格は3.1ペンス増えただけだ。

 BSE、口蹄疫、ポンド高、過剰生産などが重なり、イギリス農家経済は長期にわたりどん底状態にあった。1995年に2万1千700ポンドであった平均所得は、2000年には7千850ポンドにまで落ち込んだ。その後も目立った回復はない。1997年以来6万5千人が離農、昨年の離農者は1万8千人に達した。今年は他の欧州諸国(ウクライナも含めて)の生産が干ばつで大きく減ったために、作物価格が上昇、イギリスは大豊作だったから、農家の稼ぎは一気に大幅に増えた。先月末に発表された会計事務所・Deroitte & Toucheの報告では、2003年の農地1エーカー当たりの利益は、昨年の17ポンドから70ポンドに飛躍した。これも天候の影響による一時的活況にすぎないが、酪農はこの恩恵に浴することさえなく、1エーカー当たり7ポンドの赤字となった。これでは酪農専業での生活は不可能どころか持ち出しだ。酪農工場への抗議だけでは、根本問題は解決されない。

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農業情報研究所(WAPIC)

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