欧州委、干ばつ減収を受けて減反緩和へ

農業情報研究所(WAPIC)

03.11.12

 欧州委員会は11日、2004年(2004/05販売年度)の穀物義務的減反率を1999年以来固定されてきた10%から5%に引き下げる提案を採択した(Drought: Commission proposes lower set-aside to stabilise EU grain market,11.11)。農家は来年1月から8月まで、この率を適用できる。

 これは、この夏の厳しい干ばつのためにEU主要生産地域の穀物生産が大きく減ったからである。EU市場への供給を確保するために、欧州委員会は既に公的介入在庫からの放出販売を行ってきた。干ばつは来年にもEU加盟が見込まれる10ヵ国でも深刻で、10%の減反率を維持すれば、平年作であっても、輸出あるいは域内消費が通常よりも大幅に減少いないかぎり、拡大EU25ヵ国の穀物在庫の大幅な回復は見込めない。来年も不作となれば、域内市場は深刻な危機に見舞われると判断した。欧州委員会の推定によれば、減反率の5%の削減によって700万dほどの増産を期待できる。提案は欧州議会の意見を聴いたのち、閣僚理事会が採択せねばならない。

 2003/04販売年度の軟質小麦の生産は、前年度の9,400万dから8,400万dに減少した。トモロコシ収穫量の予測も週ごとに低下しており、最新の予想では3,100万d、前年度より25%も低い。穀物全体の生産は、前年度の2億800万dから1億8,360万dに減る。この状況では、2003/04年度の期末在庫は非常な低レベルに落ち込むと推計される。EU加盟候補10ヵ国の収穫も前年の5,350万dから4,640万dに大幅に減った。これら諸国の消費は5,000万dほどだから、来期の期末在庫は、やはり大きく減少すると予測される。

 世界的に見ても、2003/04年の小麦消費は5億8,500万dと予測されるが、生産は5億5,600万dにしかならない。期末在庫は前期の1億6,100万dから1億3,200万dに減ると推計される。トウモロコシも、米国の記録的増収にもかかわらず、2003/04年の生産は8億9,300万d、消費の9億2,300万dに及ばない。期末在庫は前期の1億5,800万dから1億2,800万dに減ると予測される。

 EUの減反緩和が来期限りで終わるかどうかは予測の限りでない。しかし、世界の穀物需給と価格が今後ますます不安定化する傾向は否定できないように思われる。最大の不安定要因は中国だ。1998年、中国の穀物生産は5億1,300万dの記録的高さに達したが、その後5年続きで減少、今年は小麦、米、コーンの主要三作物の収穫が軒並み減少して4億5,000万dにまえ落ち込むと予想されている。他方、2000年以来の消費は4億8,000万dから4億9,000万dのレベルにある。このままでは穀物在庫を急速に食いつぶし、2005年、あるいはそれより前に不足が起きる可能性も指摘されている。10月始めからは6年ぶりの穀物価格高騰が起き、食用油、肉、卵、飼料の価格も急騰している。中国の動向が世界市場に及ぼす影響は巨大である。長年続いた減反政策にも転機が訪れているのかもしれない。

農業情報研究所(WAPIC)

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