地球温暖化防止、旬の地場産食料の消費が重要―英国の研究

農業情報研究所(WAPIC)

03.11.13

 イギリスの環境に優しい輸送に関するキャンペーンを展開する団体・「Transport 2000」が、2050年までに温室効果ガス排出を60%削減するという勧告された目標を達成するためには、食料システムから排出される二酸化炭素を削減することが不可欠という報告書を発表した。報告書は、政府と食品産業は現在の食料システムが持続不能だという事実に正面から対処する必要があり、消費者は家に近い場所で作られる季節の食品を食べ、季節外れの輸入食品や温室栽培の食品の消費を減らすことを考えるべきだという。

 この報告書は、この団体と食品産業、政府部局の共同研究の成果で、食料と輸送と二酸化炭素の関係に初めて光を当てた。イギリスの食品流通と食品購入のための車の移動だけで、イギリスで排出される二酸化炭素の3.5%を排出する。これには海外から輸入されるまでに排出される分は含まない。イギリスは食料の純輸入国であり、輸入のためのトラック・飛行機・船から排出される量は相当なものになるであろうという。輸送に加え、食品のライフサイクルの他の段階での排出がある。農業だけで12%、食品チェーン全体では22%を排出することになる。

 食料の遠距離輸送が排出量を増やすのは明らかだが、同時に農業・食品製造・冷蔵などのライフサイクルの段階で相殺されることもある。冬季、スペインの屋外で栽培されるトマトを輸入すれば、イギリス国内で温室栽培するよりも排出量は減るという。7月にニュージーランドのリンゴを食べるのと、12月にイギリス・ケントの温室栽培リンゴを食べるには、二酸化炭素排出の観点からは同じことになる。結局、季節外れの輸入食品や温室栽培食品を食べるよりも、国内で栽培される旬の食品を食べるのが食品から排出される二酸化炭素を最小限に抑える最善の選択となる。

 報告書は、遠距離輸送は一層の包装や冷凍によっても二酸化炭素排出を増やすことになるとも指摘する。また、輸送については、距離だけでなく、輸送効率も問題となるという。小規模の独立小売業者の流通効率の改善のための手段が講じられねばならない。地方で大きな役割を演じているこれらの店舗は、この観点からは非常に不効率である恐れがある。地方小売店も流通システムの協同化を強め、半分空のトラックでの輸送を減らし、二酸化炭素排出の削減に貢献できるという。

 食料システムの「グローバリゼーション」が恐ろしい勢いで進んでいる。わが国でも、ただ安いからと中国を始めとする海外からの食料輸入は増えるばかりだ。季節外れの野菜などの西半球や南半球からの輸入も増えた。途上国は遠隔海外市場への進出に躍起になっている。中国の食料輸出入の恐るべき拡大が地球環境に与える影響の大きさを考えると、そら恐ろしくもなる。輸送だけではない。ブラジルのアマゾンや東南アジアの森林は、輸出農産物の生産の拡大のために破壊の速度を増している。農産物・食料の貿易自由化は、地球環境の観点からも深刻な反省を迫られるだろう。同時に、「改革」の名による国内農業・食料生産の大規模化・施設化も、この観点から反省されねばならない。株式会社参入による「インテグレーション」が支配的になれば、個別農家の創意を生かす土地に根ざす生産方法はますます後退、生産方法の画一化・「工業化」が進んで、自然のサイクルに従った食料生産はますます存続の余地が狭められるだろう。イギリスの研究は、わか国の農業とその改革のあり方にも根本的な反省を迫る。

農業情報研究所(WAPIC)

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