食品安全・品質・環境尊重、中小農家保護を求めるEU市民―CAPに関する世論調査分析

農業情報研究所(WAPIC)

04.10.23

 欧州委員会は21日、1995-2003年の共通農業政策(CAP)と食品の品質に関する世論調査の分析結果報告書を発表した(http://europa.eu.int/comm/agriculture/survey/2004/rep_en.pdf)。これは人々によるCAPの便益やその役割・目標の受け止め方がどう変化してきたか、この間のCAPの変化がどう評価されているかを概観しようとするものである。この研究は、欧州委員会の農業総局と報道・コミュニケーション総局が欧州世論調査グループ(EEIG)に委嘱したものである。

 総じて言えば、農業がEUの政策分野であることは大部分の市民が知っており、CAPが環境政策や社会政策とともに必要と考えている。また、大部分人々は、この分野の決定がEUレベルでなされることが統合ヨーロッパ建設に向けて重要と考えている。CAPの役割は十分に認められているようだ。だが、CAPに対する市民の知識はなお不十分で、CAPがその役割を十分に果たしていると考える人も少数派のようだ。ただ、環境・安全重視に向けてのCAP改革の最近の方向は広く支持されている。それにもかかわらず、高品質の食品により高く払うかどうかでは、人々の間に分裂がある。分析が発見した主要な事実は次のとおりだ。

 ・EU市民の半数以上(52%)は農業政策がEUレベルで扱われるべきと考えている(国レベルの政策を支持するのは37%)。また、統合ヨーロッパ建設への前進ののためにどんなEU政策が必要かという点に関して、CAPと応える人は61%(77年)で、環境政策(76%)、社会政策(63%)に次いで多い(共通外交政策は55%)。

 ・しかし、CAPについて聞いたことも、読んだことない人々は半数以上(54%、95年調査)にのぼる。フランス、ドイツ、アイルランド、オランダ、イギリスでは半数以上が知っているが、イタリア、スペイン、オーストリア、スウェーデンでは4分の1以下の人々が知るにすぎない。また、CAPについて知らない人は、とくに女性、15-24歳、54歳以上の人々の間に多く、教育レベルの低い人々も情報を欠いている。

 ・EU全体を通じ、大部分の人々がCAPの中心的役割は農産物の健全性・安全性、環境尊重、中小農家の保護の確保であるべきだと考えている。ところが、これら分野でCAPが十分に役割を果たしているかどうかについては、分からないとするものが多い。また、十分に果たしていると言う人は少ない。下の表に、CAPが優先すべき目標として支持する人々の%(A)と、それがまずまず果たされていると評価するする人々の%(B)を示す。

 

01年

01年

02年

02年

03年

03年

 

A

B

A

B

A

B

農産物の健全性・安全性の確保

90

37

90

42

91

45

環境尊重の促進

89

41

88

41

89

42

中小農家の保護

82

28

81

26

83

27

 このように、EUが農業分野で十分にその目的を果たしていると考える人は半数以下で、とりわけ中小農家の保護が軽視されていると見る人が多いようだ。大規模農家に大部分の直接支払が支払われ、環境・農村開発支払の比率がまだまだ微小なCAP支出の現状を、心あるEU市民の多くが批判的に見ている証左とも取れる。だが、その比率は次第に増えている。最近のCAP改革がこれに寄与しているものと考えられる。実際、最近のCAP改革の方向は広く支持されている(58%)。この比率は、とくにオランダ(71%)、ルクセンブルグ(68%)、ベルギー・英国(66%)、ドイツ(64%)、フィンランド・アイルランド(63%)で高い。

 ・EU市民にとって、とくに北部諸国では、食品の品質が重要関心事である。高品質の食品は、味がよく、自然で、食欲をそそるものでなくてはならず、また厳格な衛生条件の下で生産されねばならない。高品質の肉や野菜には一層高く支払う用意があり、EUが原産地や生産方法を保証すれば、信頼は一層高まる。

 ・しかし、品質に対してどれほど払うかに関しては、結果は微妙だ。半数以上(52%)の人々が、品質と引き換えに5%から10%高く払ってもよいと考えているが、31%の人々はこれ以上払う用意はないと言う。フィンランド、フランスでは、40%の人々がそう考えている。

 CAPは、EU市民が優先目標とする食品安全・品質、環境尊重、中小農家保護を追求する一方、これをできるかぎり低コストで実現するという難しい舵取りを要請されていると言えようか。専ら大規模化を追求する日本農政はこんな悩みとは無縁だが、日本国民(消費者・農家)の意識も急速に変わりつつある。役人・これにお墨付きを与える学者たちも、こんな路線がいつまでも続けられると考えないほうがいいかもしれない。

 なお、最近のCAP改革については、EU共通農業政策(CAP)改革の内容,04.5.8 を参照。