フランス農民の深い悩み 農業に将来はあるのかー大規模アンケート調査結果

農業情報研究所(WAPIC)

06.2.25

 フランス農民に対する大規模なアンケート調査が、現在の仕事と将来に関して彼らが抱く深い悩みを明らかにした。ル・モンド紙は、この深い悩みは経済問題だけでは説明できない、この調査結果は農民の消費者、さらには社会全体との関係の曖昧さを示すと言う。この調査はパリの国際農業サロン(2月25日-3月5日)を機会に行われたもので、質問対象者は7万8000人、回答は8000人から得られた。

 Agriculteurs en mal de dialogue,Le Monde,2.24
 http://www.lemonde.fr/web/article/0,1-0@2-3224,36-744831@51-744924,0.html

 調査結果で驚くべき第一のことは、二人に一人以上(56.4%)が農業者となったことを後悔していることだという。最近就農したばかりの30歳以下の農業者でさえ、47%が、時に、あるいはたびたび後悔する。やり直すとすればまたこの職業を選ぶと言う人は辛うじて半分ほど(48.8%)、30歳以下では、30%にしかならない。

 「フランス社会で農業者の仕事の価値が正当に認められていると思うか」の問いに対しては、そう思うと答えるのは11.5%だけで、28.9%は、彼らの仕事の現実と大衆の受け止め方の間に大きなギャップがあると考えている。フランス社会における農業経営者に対するイメージは悪い。河川の汚染、農薬や動物肉骨粉の利用、大量の補助金に関する論争が、それなしではやっていけないとたびたび主張する農業者のイメージを深く傷つけている。人々は環境を傷つけず、最小のコストで高品質の生産物を作れと要求する。彼らは髪をかきむしることになる。要するに、彼らは自分の仕事を愛している、しかし、この仕事は愛されていないということだ。

 新旧の土地利用をめぐる紛争もますます増えている。ある者は農業公害に不平を唱え、ある者は都市・観光区域における地価高騰に文句を言う。隣近所の関係に問題が生じる。従って、47%の農業者が人々との一層の対話を勧める。狂牛病危機に見舞われた畜産農民では、この比率は51%になる。アン県でカモを飼育する一農民は、「新たに現れた鳥インフルエンザで、消費は低下、財政問題、さらには人道問題が生じるだろう。もし家禽が感染すれば、家禽に接触するのは我々だから、第一に恐れねばならないのは自分自身の健康だ」、「人々が農業者の仕事に疑いを持ち続けるのを止めて欲しい」と言う。アン県で高病原性鳥インフルエンザが発生したことは既報のとおりだ(ドイツの農場家禽に鳥インフルエンザ確認 フランスではH5N1ウィルス感染の疑い,06.2.24)。

 たた、一つのハードルは既に超えられたように見える。63%の農民が環境保全が彼らの優先事項ではなかったと認めている。そして、50.6%が現在の一定の生産方式がなお環境を害していると断言する。しかし、品質問題をめぐる消費者と農業者の和解には時間がかかる。この問題については多数の意見がある。メーヌ・エ・ロワール県の穀物生産者は、誰もが高品質の生産物を要求するが、消費者の第一の関心は価格だ、偽善はやめよと言う。

 農業者の仕事を続けることの困難は、社会的不公正からも来る。今日の農業者は他の職業者と同等な生き方を希求している。全体で43.2%、30歳以下では55%が労働条件の改善を望んでいる。平均して週に55時間近く働いている彼らは余暇とバカンスを要求している。畜産農民の平均労働時間は61%がこの平均を超え、その半分近くは2005年に一日のバカンスも与えられなかった。公正な労働報酬は農業界の一般的要求だ。農業会議所会長は、フランス農業者の平均所得は2005年に19%、この5年間で22%減少した、人々が世界市場価格を強要するから、フランス農業は儲けが出ないと言う。

 平均農業者所得の90%を占める補助金にはほとんどが反対している。72.3%は、いささか非現実的だが、価格上昇を伴う補助金削減が望ましいと言う。2003年の共通農業政策(CAP)改革で、今後は生産に関係なく援助が支払われる。これは”カルチャー・ショック”を生んでいる。

 経済的不安は、年齢に関係なくつきまとっている。半数以上(54.9%)が生活が困難と考えており、この比率はCAP援助の最大の受益者である穀物生産者では63%になる。EU農業予算は潤沢に確保されたが、WTO交渉のお陰で輸出補助金は消える運命にあるからだ。

 記事は、今日、生産至上主義のモデルは過去のものとなったが、他のいかなるモデルも現れていない、農業に将来はあるのかと書く。農業界は農業の多面的機能ー食料確保、グリーンツーリズム、景観整備、エネルギー供給ーに活路を見出そうとしている。石油価格高騰でバイオ燃料がブームを呼んでいる。だが、「現実の出口を確保し、また農業者の家名を再興するためには、それで十分だろうか?」。これが記事の結論だ。