フランス農業会議所選挙 農民同盟が大敗 生産性至上主義路線に拍車

農業情報研究所(WAPIC)

07.2.6

 フランス農業会議所委員を選出する農業・農村界あげての選挙の暫定結果が明らかになった。開票は完了していないが大勢は決まった。従来の多数派組合である農業経営者連盟(全国連盟=FNSEA、県連盟=FDSEA)・青年農業者(後継者)センター(JA)が2001年選挙で大きく後退させた地歩を回復、環境に優しい”農民的”農業を主張する農民同盟は大敗北となった。2001年に52.48%まで落ち込んだFNSEA・JAが60%以上の得票を得た。他方、農民同盟の得票率は前回の26.8%から18.8%に激減、FNSEAよりも右派とされるもう一つの反主流派グループ・”農村協調”にも追い越された。

 FNSEA-JA en mesure de garder la majorité absolue aux chambres d'agriculture,Le Monde,2.6
 La Confédération chute, la FNSEA confirme,Ouest-France,2.6

 農業会議所はフランス農政、従ってEU共通農業政策(CAP)の今後の方向の決定に大きな発言力をもつ。これにより、フランスは経済効率最優先の大規模化路線、輸出拡大も含めた攻撃的農業拡大戦略を一層強めることになろう。小農民切捨てがますます進む。そして、大部分のフランス的”規模”の大農民も、この”小農”の地位に転落するだろう。EUの改革路線のなかで生き残れるのは、まさにイギリスの王侯・貴族的巨大土地所有=経営者 (EU 個別農場への補助金支払上限設定を提案へー英国では王侯貴族が最大の受け取り人,06.6.8)だけということになりそうだ。

 FNSEA(とそれが支えるフランス中道右派政府)は戦後一貫して生産性至上主義農政を追求してきた。それは、この50年でフランスの農業就業人口の80%、農業経営の4分の3を消滅させることで、労働生産性と農業所得を増大させた。しかし、この前進は今や完全に行き詰っている。

 1月初めに発表された国立統計経済研究所(INSSE)の報告は、1997年に全世帯平均と同等であったフランス農業世帯の生活水準、すなわち世帯員一人あたりの可処分所得が、2003年には平均を10%から15%下回るところまで低下したことを明らかにした。農外賃労働を中心とする非農業兼業所得が大きく増加したが、相次ぐEU拡大とCAP改革、ウルグアイ・ラウンドによる市場開放がもたらした価格低下で農業所得がそれ以上に減ったからだ。

 兼業農業者世帯の生活レベルは1万7200€で、全世帯平均の1万7600€に最も近い。ところが、農業専業世帯の平均レベルは1万1950€にしかならない。農業専業世帯の4分の1以上が7740€以下の最貧世帯となっているが、兼業世帯ではこの比率は9.3%と少ない(全世帯では6.3%)。報告は、南部よりも大規模とはいえ、イギリス等北部ヨーロッパと比べれば中間的な規模でしかないフランスの農家は、もはや賃労働兼業なしでは生き残れないと言う。

 L'agriculture, nouveaux défis - Édition 2007(INSEE,07.1)

 それでも多くの農業者がFNSEA路線を選んだ。こんな状況で環境・食品尊重など言っていられるかというのが本音だろう。農民同盟が言うような価格維持も実現の見込みはない。とことんコスト削減を追求、それでもだめならやめるしかないという覚悟の選択なのであろう。