フランス社会党大統領候補 高付加価値産品と環境重視の農政提案 GM屋外実験は停止

農業情報研究所(WAPIC)

07.2.14

 フランス社会党のセゴレーヌ・ロワイヤル大統領候補が11日、100項目にわたる政策提案を発表した。農業政策に関しては、@所得を増やし、後継者の自立(経営創設)を促すために高付加価値農産品を助長し、AEU共通農業 政策(CAP)の農業・環境援助に向けての再編成とともに、援助の透明性と公正な配分の確保を促し、B農業への直接援助の管理の権限を地域に移し、C農業のエネルルギー(バイオマス、農産物燃料、バイオガス、風力発電)への貢献を奨励する ことで、高品質の食料品の供給を確保し・環境を尊重する農業を促進するとしている。

 http://hebdo.parti-socialiste.fr/2007/02/11/445/

 これは、概ね従来の社会党の政策路線に沿うもの だ。社会党政権下で制定され、今やシラク政府への政権交代で死文化している1999年農業基本法は、「欧州農業は最も競争力が強い世界の競争者と同じ価格で原料を世界市場に売りさばくことを唯一の目標として定めるならば、破滅への道を走ることになる」として、「欧州、そして世界で商品化することのできる高付加価値生産物の加工を助長する」とともに、「雇用の維持・自然資源の保全・食料の品質の改善に貢献する」することで農業政策に対する”納税者”の支持をつなぎとめようとするものであった(同基本法の提案理由説明)。

 このほか、農業に関連して、ロワイヤル候補は、遺伝子組み換え(GM)作物の屋外圃場実験の停止(通常農業に損害を与えず、また有機農業を発展させるために実施すべき政策を定める国民的論議の結果を待つ)、農薬使用削減国家計画 の実施、一層均衡のとれた市場を組織するとともに途上国農業に真の機会を与えるための”世界共通農業政策”の観念の促進を掲げている。

 これにより、しばらくは鳴りを潜めていたフランス農政の基本方向をめぐる論争が再燃することになる。ただ、左翼路線復活への道は遠そうだ。まさに大規模化・効率化でも大部分のフランス農家は生き残れないことが実証されつつあるのに、依然としてこの路線を貫くFNSEA(全国農業経営者連盟)が農業会議所選挙で勝利を収めたばかりだ(フランス農業会議所選挙 農民同盟が大敗 生産性至上主義路線に拍車,07.2.6))。そのFNSEAは、 早速、大規模経営への援助削減につながるロワイヤル提案は農業者の声を捻じ曲げるものと反発している。

 Michel Masson (FNSEA) - « Si Ségolène Royal reste sur ses positions, les voix agricoles se détourneront d’elle »,Terre-net,2.13

 GM作物に関しては、有力対抗候補のジャルコジ氏は、GM作物が有益とは言い切れないが、社会、農業者、消費者にとって有益という仮説も否定はできないとして、厳格な規制下での実験は進めねばならないと表明している。基本的には多数派農民組合(FNSEA)の立場と同じだ。

 Nicolas Sarkozy défend la recherche sur les OGM,Le Monde,2.9

  農薬使用削減については、左翼政権時代のドミニク・ボワネ環境相(緑の党)の課税による農薬使用削減の試みが、やはり多数派農民組合員の暴力的行為も含む反対運動で葬り去られた経緯がある。

  その上、ロワイヤル候補への票自体も、やはり大統領選立候補を決めているジョゼ・ボベに奪われる恐れがある。ロワイヤル候補の政策提案は、かつてジョゼ・ボベが指導者であった農民同盟、そしてジョゼ・ボベ自身の主張とも多くの点で重なるところがある。政治的中立を掲げる農民同盟が組織的に彼を支持するわけではないが、票が分散、選挙自体が共倒れに終わる可能性も高い。