欧州委 穀物市場逼迫で今秋と来春の強制減反を停止 最低1000万トンの増産を見込む

農業情報研究所(WAPIC)

07.9.14

  欧州委員会が9月13日、ますます逼迫する穀物市場の状況に対応するために、今秋と来春の作付けに当たっての強制減反(セット・アサイド)率をゼロとする(すなわち義務的減反を停止する)と提案した。7月16日の農相理事会の要請(EU 穀物需給逼迫で強制減反を廃止,07.7.19)に応え、フィッシャー・ボゥエル担当委員が既に示唆していたものである。

 European Commission,Cereals: Commission proposes to set at zero the set-aside rate for autumn 2007 and spring 2008 sowings,,9.13

 EU27ヵ国の2006年の穀物収穫量は、気象条件の影響で予想を下回る2億6550万トンにとどまり、当初は1400万トンあった2006/2007年度公的在庫は、現在(9月)は100万トンにまで減ってしまった。その多くもハンガリーのトウモロコシでしかない。民間在庫についても、すべてのアナリストが大幅減少で一致している。

 さらに、西欧諸国における4月の乾燥と異例の暑さに続く夏の悪天候、南東部の干ばつと熱波のために、2007年の収穫量も昨年を下回ると見込まれるに至った。そのために、2007/2008販売年度末のEU民間在庫はさらなる減少が見込まれる。世界的にみても、主要輸出国の2007/2008年度期末在庫は歴史的低レベルに落ち込むと予想されている。穀物供給をめぐるこのような状況から、穀物価格は既に歴史的高レベルに張り付いている。このままでは、EU市場は重大な危機に見舞われることになるだろう。

 このような穀物市場の状況が、過剰生産解消のために80年代末に自主的ベースで始まり、価格保証・輸入課徴金による域内農業保護を保証価格低下分の直接補助・関税保護に切り換えた92年CAP改革で義務化された減反の停止につながることになった。

 欧州委員会は、これにより、少なくとも1000万トンの生産増加を期待する。現在の強制減反面積は380万fである。義務的減反率をゼロとするということは、農業者の耕作を義務づけるということではない。減反は自主的に継続できるし、環境支払の対象となる義務的減反地もある。しかし、欧州委員会は、380万fのうち、160万fから290万fが耕作に復帰すると見込む。これで最低1000万トンの増産が期待できる。農業者がこれらの土地を油料作物ではなく穀物の生産に当てるとすれば、1700万トンの増産もあり得る。これにより、EU穀物市場の緊張は大きく和らぐことになる。

 世界的には需給が逼迫、価格上昇が止まらない米の減反を続ける日本、本当に世界にも稀な国になりそうだ。 一番頼りになる基礎食料を消費者が棄てるという特異な社会だから仕方がないことではあるが。ただ、EUの減反停止も、あくまでも穀物市場の緊急事態に対応する一時的措置だ。減反政策の将来は、今年11月に始まるCAPの"健康チェック”のなかで議論されることになる。ボゥエル委員は、減反がなお適切な政策手段かどうか精査するが、それがもたらす環境便益の維持は確保したいと言う。

 注 例えば、Euronextロンドンの飼料小麦の先物価格(£/トン)、同パリの製粉小麦の先物価格(€/トン)