食料危機、独農相が域内優先で仏農相に呼応 英のCAP解体要求は”たわごと”

農業情報研究所(WAPIC)

08.5.12

 フィナンシャル・タイムズ紙によると、ドイツのホルスト・ゼーホーファー農相が、米国や中国、インド、ラテンアメリカなどの新興経済国は、EUに食料品を輸出したいならEUなみの高い環境・健康基準を採用せねばならないと語った。

 先月、フランスのバルニエ農相は、世界的な食料需要の増大への対応として自由貿易への新たな障壁を設けるべきだと主張したが(→米議会 補助金削減なしの新農業法に合意 ドーハ・ラウンドで食料危機は止まらない,08.4.29)、ドイツ農相の発言はこれに呼応するものだ。これは保護主義ではなく、世界の他の国でもEU基準を適用することを望むものものにすぎない、WTOで先進国・新興経済国の間の新基準に合意すべきだと語ったという。

 Germany urges higher EU food import standards,FT.com,5.11
 http://www.ft.com/cms/s/0/edcb7be4-1f88-11dd-9216-000077b07658.html
 Germany calls for higher health standards for food exports to EU,Financial Times,5.12,p.1

  他方、イギリスのアリスター・ダーリング財務相は12日、EU共通農業政策(CAP)をめぐってフランス、ドイツと戦端を開く。彼は、CAPが世界食料危機を増幅していると主張する。EU諸国財務相に対し、ヨーロッパの消費者に高い食料を強要し、他方では途上国農民を傷つけていると、イギリスの年来の主張であるCAPの解体を支持するように要請するという。

 しかし、ゼーホーファー農相は、”完全なたわごと”だと、この主張を退ける。途上国が必要としてきたのは政治の変化と農業の効率改善だ。「途上国は自分自身のための食料を生産する能力を必要としている。また政治改革、教育の改善、汚職減らしも必要としている。利潤を最大にすることだけを考え、国民を養うことなど考えていない大土地所有者[例えばフィリピンのアロヨ大統領など―農業情報研究所]に対抗する手段が必要だ」と言う。

 欧州委員会はEUよりも低い基準で加工される米国鶏肉製品の輸入禁止の解除を提案しそうだが(注)、彼によると、ドイツ政府はこの提案を拒否することになりそうだ。

 彼は、「EUは”環境、水、健康、社会問題に関する”非常に高い基準を持っており、その実施のために農業者が大きな費用を払っている。EUは、第三国も、EUへの輸出を 望むならばこれらの基準を満たさねばならなくするように順を追って動きくべきだ」、このアイデアはフランスの提案に概ね沿うもので、もっと貧しい国は別として、米国、中国、インド、ラテンアメリカなどはEUと同等の基準を満たさねばならないと言う。

 注)EUのルールでは、域内消費用の鶏肉は人間の飲料としての基準を満たす水で洗浄されねばならないが、米国の鶏肉は塩素水で洗浄されている。従って、EUの米国からの鶏肉輸入は、”事実上”の禁止状態にある。ただし、EUが第三国に輸出する鶏肉 は塩素水で洗浄しても構わない。実際、フランスからサウジアラビアに輸出される鶏肉は塩素水で洗浄されている。

 これでは、去年4月にブッシュ米大統領とメルケル独首相が大西洋経済統合に向けて創出に合意した大西洋経済評議会(TEC)への信頼も危機に瀕する。 ディマス環境担当委員が反対するなど、欧州委員会内部の意見はなお対立しているが、”事実上”の禁止の解除(つまり、EUルール変更)への動きが強まっている。

 EU using ‘banned’ poultry cleaning,FT.com,5.11
 
EU using ‘banned’ poultry cleaning,Financial Times,5.11,p,4