欧州委 世界的食料価格高騰対策案を採択 バイオ燃料利用目標は堅持

農業情報研究所(WAPIC)

08.5.21

 欧州委員会(EU政府)が、世界的な食料価格高騰の影響を緩和するためにどんな政策対応があり得るかを述べた文書を採択した。この文書は、6月19-20日の欧州理事会(EUサミット)で論議される。

 文書は、食料価格高騰の要因を分析し、共通農業政策(CAP)のヘルスチェック(→欧州委のCAP健診 大農場援助削減 気候変動等新課題で農村開発予算大幅増,07.11.22)や小売部門の監視などの短期的措置、持続可能な次世代バイオ燃料の促進を含む農産物供給増加や食料安全保障の確保をめざす長期的措置、貧しい人々に対する価格上昇の影響に挑戦する世界的努力に貢献する措置の三つの柱からなる政策対応を提案している。

 Commission outlines European response to mitigate effects of rising global food prices,European Commission,08,5.20

  まず、最近の価格高騰の要因については、基礎食料と高付加価値食料品の両方に対する、とりわけ新興経済大国からの需要の増大と、世界人口の一般的増加という構造的要因を指摘する。それに加え、エネルギーコストの上昇が、特に99年以来350%も上昇した窒素肥料などの投入財のコストや輸送コストの上昇を通して、食料品価格を押し上げた。作物収量の伸びが鈍化する一方で、農産物の新たなはけ口が出現した。その他、世界の多くの地域における不作、在庫の歴史的低レベル、米ドル下落、世界市場への伝統的供給国の輸出制限などの要因も加わった。そして、投機が価格変動を増幅した。

 EUに関しても、ユーロ高で小売価格への転嫁が限定され、食品生産における原料費の比重がエネルギーや労働に比べて小さく、平均的家計支出における食費の比重も低いとはいえ、商品作物価格の高騰が食料価格を押し上げ、インフレの主要要因になった。一部の国や低所得家族は深刻な影響を受けている。耕種農家は利益を得たが、家畜生産者は高い飼料価格で打撃を受けてきた。

 世界的には、食料純輸入途上国が最も厳しく打撃を受け、食料純輸出国は、一般的には利益を得た。高価格は未だ食料不足にはつながっていないが、貧困と栄養不足を助長し、世界最貧国は外部からのショックにますます弱くなっている。中長期的には、価格上昇は途上国の農家に新たな所得機会を生み出し、農業の経済成長への寄与を高める可能性がある。

 価格は最近のピークから下がり始め、この傾向は継続、市場は落ち着くと予想される。しかし、過去の低価格に戻るとは予想されない。

 提案された政策対応は三つの柱からなる。

 第一は、CAPのヘルスチェック* と単一市場レビューの下での競争と域内市場原則に沿った小売部門の監視からなる短期的措置。

 第二は、農産物供給を増やし、食料安全保障を確保する長期的措置。これには、ヨーロッパレベル、国際レベルでのバイオ燃料の持続可能基準の促進と次世代バイオ燃料の開発、農業研究の強化や、とくに途上国における農業知識の普及が含まれる。

 第三は、貧しい人々に対する価格上昇の影響に挑戦する世界的努力への貢献。これには、食料危機への、とくに国連とG8の下での一層協調的な国際対応、世界最貧国にEU市場への特恵アクセスを提供する開放的貿易政策の継続、短期的な緊急の人道的必要性への迅速な対応、途上国農業を再活性化させる長期プロジェクトに的を絞った開発援助が含まれる。

 なお、2020年までに輸送用燃料の10%をバイオ燃料に置き換えるという目標は堅持する。持続可能なバイオ燃料** の確保、次世代バイオ燃料への”急速な移行”の必要性を強調、バイオ燃料は持続不能な化石燃料に代替できる唯一の輸送用燃料であり、2020年までに二酸化炭素排出量を20%減らすというEUの目標の達成に決定的な役割を持つと言う。 ただし、エネルギー作物に対する奨励金だけは、CAPのヘルスチェックで提案している。

 ところで、持続可能なバイオ燃料の確保、次世代バイオ燃料の量産も、何時になったえら実現するのか、メドはまったく立っていない。

 *Food and farming: Health Check will modernise the CAP and free farmers to respond to growing demand,European Commission,08,5.20

 5月20日の欧州委員会の提案によるその概要は次のとおり。

 @10%の強制減反の廃止

 A牛乳生産割当の段階的廃止。09/07−13/14年の間、年に1%の割当増加、15年4月で全廃、

 B繁殖用哺乳雌牛(サックラーカウ)、山羊・羊奨励金を除く残存生産関連援助の廃止(デカップル)、

 C過去の実績に基づく直接支払の廃止と地域ごとに一律の、面積に基づく支払の導入、

 D環境・動物福祉・食品安全基準を順守しない者への援助を削減する”クロス・コンプライアンスと呼ばれるルールを、農業者の責任と無関係な基準の撤廃によって簡素化する。休耕の環境便益を維持し・水管理を改善する新たな要件の追加する(例えば、河川から一定距離内での耕作禁止、施肥・農薬使用の禁止、野鳥数を維持するための措置等)。

 E国家予算の10%までを特定部門の環境対策か、製品の品質改善・販売促進のための直接支払に当てることができるというルールの緩和。これは部門を限定せず、条件不利地域で牛乳・牛肉・山羊肉・羊肉を生産する農業者の支援にも使えるようにする。また、自然災害保険や家畜病共済などの危機管理措置の支援にも使えるようにする。

 F5000€以上の直接援助を受けるすべての農業者への援助支払を5%減額、これを農村開発予算に移転させる。この減額率は12年までに13%に増やす。年10万€以上を受け取る農業者については、上記減額率に3%追加する。20万€以上、30万€以上を受け取る農業者については、この追加率を6%、9%に増やす。こうして得られた資金は、加盟国が、気候変動、再生可能なエネルギー、水管理、生物多様性の分野でプログラムの強化に使うことができる。

 Gデュラム小麦、米、豚肉の市場介入の廃止。飼料穀物への介入はゼロに設定、パン用小麦、バター、脱脂粉乳については入札の導入。

 H支払を受けられる農場の最低基準として、加盟国は支払額:250€または面積:一f、あるいはその両方を採用すべきである。

 I麻、乾草、蛋白作物、ナッツの支援は直ちにデカップル、単一農場支払(SPS)に移行させる。米、スターチポテト、長繊維亜麻のSPSへの移行については過渡期間を設ける。エネルギー作物奨励金は廃止する。

 **参照:バイオ燃料をめぐる国際動向:日本がとるべき道を探るために(その2)―持続可能なバイオ燃料実現に向けたEUの取り組み グローバル・ネット(地球・人間環境フォーラム) 209号(2008年4月号) 14−15頁。