EU穀物 大幅増収の予想 近年にない気象条件に恵まれる

農業情報研究所(WAPIC)

08.8.9

  欧州委員会が8月7日、共同研究センター(JRC)の調査に基づく8月5日時点での今年の主要作物収穫見通しを発表した。好天に恵まれたのと、10%の義務的減反の停止や穀物価格高騰による作付面積の増加で、穀物の収穫量は2007年を16%(4300万トン)、過去5年平均を9%上回る3億100万トンに達する見込みという。1ha当たり収量は5トンほどで、2007年と過去5年平均を大きく上回るととも、作付面積も昨年を5%ほど上回る。

 EU27ヵ国全体の作物別平均単収見通し 

作物
1f当たり収量(100kg)
2007年
2008年見通し
5年平均
08/07(%)
08/5年平均
穀物全体
4.53
5.03
4.71
+11.1
+6.7
 軟質小麦
5.10
5.65
5.39
+10.8
+4.8
 デュラム小麦
2.84
3.09
2.74
+9.0
+12.8
小麦計
4.84
5.35
5.04
+10.4
+6.1
 春大麦
3.83
3.89
3.70
+1.5
+5.1
 冬大麦
4.81
5.27
4.96
+9.7
+6.3
大麦計
4.21
4.42
4.19
+5.0
+5.7
トウモロコシ(穀粒)
5.77
6.93
6.33
+20.1
+9.5
その他穀物
3.18
3.47
3.16
+9.3
+6.6
菜種
2.80
2.94
3.00
+4.8
-2.1
ひまわり
1.46
1.65
1.62
+13.1
+1.7
ポテト
28.40
26.52
26.81
-6.6
-1.1

テンサイ

62.97
70.26
59.02
+11.6
+19.0

 この10年ほど低迷していた単収(仏・欧穀物収量の10年来の低迷の原因は土壌有機物欠乏?―フランスの研究,08.6.30)が大きく増えたのは、EU農地の生産力が回復に向かう兆候なのであろうか。そうではなく、滅多にない天候に恵まれたのが単収増加の最大の要因のようだ。

 欧州委員会のPress Releaseによると、冬は、特に中東欧で温暖だったが、例外的な暖冬となった前年の冬ほど暑くはなかった。(猛暑続きだった)フランス、スペイン北部、イギリスの6月、7月は比較的涼しく、作物生育が促された。

 すべて順調だったわけではない。降水はシーズンを通して多く、スペインには恵みの雨となったが、フランスや北イタリアでは過湿となった。他方、ドイツ北部、ポーランド、オランダ、デンマークは春に始まった干ばつと高温が6月まで続き、冬作物の減収を招くことになった。7月末にはルーマニアが洪水に襲われた。それでも、全体としてみれば厳しい干ばつに見舞われた去年よにもずっと好条件だった。

 収量が最も伸びたのはトウモロコシだが、これには昨年干ばつ被害を受けたルーマニア、ブルガリア、ハンガリーでの顕著な収量増加が貢献している(それぞれ122%、193%、94%)。主にヨーロッパ北部で栽培され、ドイツとフランスを主産国とするテンサイの収量の伸びも大きいが、これも好適な気象条件に恵まれたからだという。

 Annual crop yield forecast: European Commission foresees above average cereals harvest for 2008,European Commission.8.7
 http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/08/1251&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=ja  
  Crop yield forecasts for 2008,European Commission,8.7
  http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/537&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=ja 


 近年の干ばつや悪天候の頻発が気候変動という構造的要因によるものであるとすれば、今年の収量増加は一過的なものにとどまることになるだろう。穀物供給のもう一つの構造的要因である減反政策は廃止された。しかし、これは農業による環境破壊・汚染を加速し、長期的にみれば環境と農業自体の持続可能性を脅かす恐れがある。