牛乳生産割当廃止→価格下落で苦闘するEU農民に包括支援策第2弾 減反廃止後の日本では?

農業情報研究所農業・農村・食料欧州ニュース:16年7月19日

 EUの欧州委員会が18日、乳製品価格の下落で苦闘す農民に対する支援パッケージ(一連の支援措置)の第2弾を提案した。

 EUは昨年4月、1984年以来の牛乳生産割当を廃止した。それによって牛乳生産が急増、乳価は生産費もカバーできないほどに低下した。そのために、昨年9月には5億ユーロ(約600億円)の支援パッケージを打ち出した。それでも状況は改善されず、今年年初以来、農民の抗議の波はEU全域を覆った。

 今年3月には、牛乳計画生産に関する生産者間の自主的協定認可などの諸措置も取られた。4月にはバターと脱脂粉乳の固定価格での公的買入れ量の上限を2倍に引き上げた。それでもまだ足りない。

 こうして、新たな5億ユーロの支援パッケージを追加することになったわけだ。欧州委員会は、移民対策で予算は逼迫するなか、これは大変厳しい選択だが、EU農民を助ける強い意志を表すものと言う。

 追加支援パッケージには、牛乳生産を削減するための1億5000万ユーロのEUワイドの補助―自主的生産削減奨励金―、各国が管理する3億5000万ユーロの条件付き援助(各国が同額を追加する、つまり、援助額は倍になる)に加え、一連の技術的措置が含まれる。

 条件付き援助は、過剰生産危機のなか、現金収支を維持するために生産を減らさないで維持し・増やしさえする農民もいることに鑑み、市場安定の確保に寄与する特別の約束に基づく新たな資金を提供するものである。

 各国が利用できる資金の額は各国の酪農・家畜飼養部門の特徴―生産・市場価格・小規模農民の比重など―考慮して決められる。各国は、生産粗放化・小規模農民支援・協同プロジェクト・一層の生産削減措置など、農民が利用できる措置を柔軟決めることができる。条件付き援助の最大の受益者はドイツで、5800万ユーロのが与えられる。フランスには5000万ユーロ、EU離脱の国民投票にもかかわらずイギリスも3000万ユーロが配分されるとのことである。

 その他技術的措置には、自主的生産関連援助の柔軟化、直接支払や農村開発支払の前払い額の増加を通してのキャッシュフローの救済、脱脂粉乳に関する公的介入や民間貯蔵の延長によるセーフティー・ネットの強化が含まれている。

 European Commission outlines new support package worth €500 million for European farmers,European Commission,16.7.18

 ところで、EUの牛乳生産割当は日本の米生産調整・減反に相当する。生産調整は18年度には廃止され、既に半額に減らされている生産調整協力者への戸別所得補償も全廃される。生産費もカバーできない生産者が続出するだろう。日本政府は、そういう生産者をEUのように支援するのだろうか。「飼料用米増産」、「生産費削減」しか対策を持たない今の安倍農政の下で、それはあり得ない。EUのように農民の激しい(過激な)抗議もない。せいぜい米どころでいくつかの議席を失うだけだから。日本稲作の将来は真っ暗だ。

 EUの政策選択を持ち揚げるわけではない。EUは牛乳生産割当の廃止(規制撤廃)の影響の予測に失敗したことを認め、そのコストを何とか支払おうとしているだけだ(十分かどうかは知らないが)。日本は、自ら実行した規制撤廃(減反廃止)のコストも払うつもりはなさそうだと言いたいだけだ。

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 Finnish farmers receive EU compensation for dairy reductions,YLE,16.7.19