構造改革のトレッドミルを走り続けるスイス小農民 財政的・精神的破綻で1980年の半分に

スイス小農民農業情報研究所農業・農村・食料欧州ニュース:17年3月6日

 今はどこのフィットネスクラブでも見られるトレッドミル(ランニングマシン)だが、トレッド(歩く)ミル(製粉機・水車小屋)とはそもそも、囚人たちに(ハツカネズミのように)踏ませ続けることで穀物をひいたり、水を汲み上げたりする「刑罰」器具としても使われた「踏み車」に由来する。歩いても歩いても元に戻ってしまう。運動不足解消とかダイエット、何の目的もなくただ歩き続ける、人間にとってこんな苦痛はない。

 こんな刑罰は、今ではこの世から消えただろう思っていた。ところがどっこい、現代にも生き残っていた。スイスの小農民、近代化の階段を上ったと思ったらたちまち落下の繰り返し、トレッドミルの階段を懸命に駆け上がっているのも同然という。 

 スイスの小農民の数は1980年以来半減した。毎年何百もの農家が仕事をやめていく。今(2015年)は53000の農家残るだけだ。2015年だけでも800の農家が消えた。多くは酪農に特化した中小規模農家だ。対照的に、50㌶以上の大規模農家は増えている。農業のエンジニアであり専門家であるGianluca Giulianiは、「あらゆる産業分野と同様、農業も構造改革の最中にある。農家は生産性を上げ、持続的であるために成長することを強制されている。さもなければ、農場ツーリズムや直接販売のようなニッチなマーケットを見つけねばならない。しかし、みんながそんなビジネスの機会にありつけるわけではない」と言う。

 彼によれば、農業の構造変動は経済的手法で分析できる。構造変動は農業技術の「トレッドミル」と呼ばれるものに刺激されている(アメリカの農業専門家の理論)のだという。

 技術革新のおかげで過剰生産と価格崩壊が起きる。これは技術に投資した農民の財政破綻に結果する(フランス農業の近代化過程で起きた現象だ→「農業成長産業化という妄想」  世界 2016年9月号)。彼らはギブアップ、生産が減り、価格が上がる。こうして、同じサイクルが再スタートする、というわけある。

 こんなトレッドミルを走り続ける農民、精神的にも疲れ果ててしまう。過去2年、ヴォ―州(人口77万)だけでも12人の農民が自殺したという。

 No country for small farmers,swissinfo,17.3.5

 どこの国の話かと見過ごさないで欲しい。日本でも全く同じようなことが起きようとしている。構造改革一変倒の安倍農政のためにである。