農業情報研究所農業・農村・食料欧州ニュース:18年2月23日

  有機農業、食品安全、青年農業者・・・ マクロン大統領がフランス農業“文化革命”

  毎年恒例の農業サロンを訪れたフランスのマクロン大統領が22日、参集した青年農業者を前に、農業部門への50億ユーロ(6600億円)の投資計画を発表、農民が“文化革命”を受け入れ、EU(欧州連合)の補助金と集約的農業方法(機械化、化学化、購入飼料利用などに支えられた土地・労働の集約的利用)からの離脱を要請した。さらに、近年の中国投資家による土地購入をめぐる農民の懸念に応え、外国大投資家への農地販売を抑制する対策を取ると約束した。

 農民は今、彼が来るべきブリュッセルでのEU予算をめぐる協議で、EU共通農業政策(CAP)の見直しを推すことを恐れている。だが、大統領が望んでいるのは“現状維持”の考え方を覆すことだ。彼がめざす改革は、専ら大規模化・効率化を目指す日本の安倍政権とは真逆の方向を向いている。「農業を守れと大声で叫ぶ人がいるが、彼らは“現状維持”のために働いているのだ。現状維持は農業をゆっくりと、しかし確実に殺す」と言う。

 「かつてヨーロッパ一の農産物輸出国であったフランスは、近年はオランダやドイツに主座を奪われた。農業は今やフランス労働力の3%を用するだけだが、農民の政治力はなお強力だ」。フランス農民はCAPの受益者でありながら、ブリュッセルを苦痛の種と責めている。食肉加工業者、酪農協同組合、小売業者は彼らの利幅を減らし、多くの農民を破産に追い込んでいる。

 農民は20日、安価な牛肉の大量輸入につながるEUと南米共同体(Mrecosur)の自由貿易協定交渉に抗議して道路封鎖を行った(Les agriculteurs manifestent contre le projet d'accord,18.2.21)。EUの援助に与かる条件不利地域を減らす”改悪”プランに抗議する大規模デモも起きている(Contre le déclassement des zones défavorisées, les agriculteurs en colère ne désarment pas,Le Monde,18.2.12)。

 この状況下、大統領は50億ユーロの投資で、農民が環境に優しい農業に転換し・青年農業者への10億ユーロの譲与で農地継承者を見つけ出し・新世代の農業企業者を生み出すのを助ける、これには動物福祉・食品安全・有機農業に投資するための国家支援クレジットラインも含まれると表明した。現在6.5%に過ぎない有機農地面積比率は、2022年までに22%に高め、現在10億ユーロにのぼる有機産品貿易赤字を埋め合わすという。

 Bio, bœuf aux hormones, aides aux jeunes… Ce qu’a dit Macron aux agriculteurs,Le Monde.18.2.23

 Macron pledges €5bn ‘revolution’ for French farming,FT.com,18.2.23

 しかし、主流派農業組合の全国農業経営者連盟(FNSEA=大規模農業経営者で構成される)は、あくまで“現状維持”―面積に応じたEU支払をせしめる―にこだわり、改革に抵抗を続けるだろう。農業文化革命の道は茨の道だ。青年農業者(農業経営者子弟)や農民同盟家族経営者同盟農村協調等少数派農民組合、消費者団体等の後押しのみが茨の道を切り開くだろう。