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新型コロナ ドイツが外国人季節労働者の入国禁止を解除 失業者等では代替できず

 フィナンシャル・タイムズ紙が報じるところによると、ドイツ政府が新型コロナウィルス蔓延防止措置として先週導入したばかりの季節農業労働者入国禁止措置を解除した。農業団体の要求と、この禁止は食料供給に打撃を与えかねないという小売部門からの警告に応えた。

ドイツ農相、内務相は、「我々はパンデミックにもかかわらず、国と経済を立ち行かせねばならない。今日、収獲を確保すると同時に国民の健康も護ることも可能にする方法を見つけ出した」、「新しいプランの下、ドイツ農家は4月と5月、総計8万の季節労働者を受け入れることを許される。さらに、失業者、学生、亡命希望者、一時帰休(解雇)労働者から2万人を雇うこともできる」と言う。

農業省は先月、春の収獲を確保するためのボランティアの募集を始めたが、42000人しか集まらなかった。ドイツ農民協会のJoachim Rukwied会長は、ドイツ政府に対し、東欧の農業労働者にできるだけ早く国の門戸を開くように要請した。難民や失業者は必要な技能を欠いており移住労働者の代役は果たせない、かといって果物や野菜の供給不足は、南欧諸国も同様な労働者不足に直面しているのだから、輸入を増やすことで解消することもできないと言う。

Germany lifts coronavirus ban on seasonal workers,FT.com,20.4.3

しかし、何か変だ。「収獲を確保すると同時に国民の健康も護ることも可能にする方法を見つけ出した」とどうして言えるのか。コロナ対策としての入国禁止がそもそも間違っていたというなら話は簡単だが、それでは政府のコロナ対策そのものに傷がつく。作物収獲の問題は国民のボランティア活動で片が付くと踏んでいたのなら、政府は農業労働者の「技能」を見くびっていたことになる。政府は猛省せねばならない。

フランス農相も、新型コロナ危機で仕事を失った男女に対し、農業労働者、特に外国人季節移住労働者を移動制限で雇えなくなった農業者の援助に馳せ参じるように要請した(フランス政府 新型コロナで仕事をなくした人に農業者支援を要請 時評日日 20.3.24)。しかし、それで80万は必要とされる季節移住労働者の代役を演じる国民がどれほどいるか、今のところ全く情報がない

家族農民で構成する“農民同盟”は、農相の要請は農民と農業雇用者の技能を見くびり、単なる生産手段と考えられ・低賃金と劣悪な労働環境にある農業労働者の搾取に依存する工業的農業モデルの弱点を露呈するものと批判、ボランティア農業援助を希望する人は各自自分の場所にとどまり、ファーマーズマーケット等食品ショートサプライチェーン、直販、地方産品を重視することで農民を支援する地方連帯グループに加わるように要請している(Emploi saisonnier : Affaiblir le droit du travail ne sauvera pas les paysan.ne.s,La Confédération paysanne,20.3.26)。

新型コロナ、戦後の近代化過程を主導した工業的農業モデルの見直しの契機を提供しているのだろうか。フランスでは既に多様な代替農業モデルが模索されてきた(農業成長産業化という妄想――「安倍農政」が「ヨーロッパ型」農業から学ぶべきこと  世界 20169月号)。

<なお、新型コロナ対策には未だ不確定な要素が多く、例えば新型コロナで食料供給難も 労働力不足で米欧警戒日本経済新聞 20.4.3)が報じるような世界的食料供給難は一過性の問題、あるいはエピソード に終わる可能性も排除できない。従って筆者は、これを新型コロナがもたらした「長期的」あるいは「構造的」問題としてとらえることを、なおためらっている>