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フランス:カンクン、「国の利益を損なうよりもまし」の農相、一息入れる暇はなし

農業情報研究所WAPIC)

03.9.20

 9月17日、カンクンWTO会合から帰ったゲマール農相がフランス第一級の西部畜産地域の中心・ランヌで開かれた国際畜産サロン(Space)で演説、会合の失敗について、「わが国の利益を害する合意よりも、合意がなかった方がましだ」と言明した。会合では、米国の補助金が問題にされることなく、EUの輸出補助金が攻撃されるばかりだったとその立場を説明した。

 西部の牛乳・養鶏生産者は、その額は多年の間に減少したが、引き続き輸出援助を受けられる。カンクンでの合意がなかったことは「WTOの限界」と「ウルトラリベラルな農業ビジョンの失敗」を示すものと言う。第三世界の背後でこのビジョンを防衛しようとしたとして、批難の鉾先を、とりわけブラジルに向けた。

 それと同時に、ここ数ヵ月は一層の警戒を要するとも訴えた。合意がなかったことは、ウルグアイ・ラウンドで合意された、他国の補助金に対する対抗(報復)措置を控える「平和条項」が今年末で期限切れとなることを意味する。それによって起こり得る「貿易戦争」に備え、戦わねばならないというのである。

 このような農相の勇ましい発言にもかかわらず、農民組合指導者の不満は収まらない。農産物市場の開放と輸出補助金の削減で、この地域の畜産の困難は増すばかりであった。ブラジルとの厳しい競争で、養鶏産業は危機の連続であり、今年は猛暑で大量の鶏を失うことにもなった。現在、危機克服のための生産抑制策として、45万uの養鶏場を閉鎖する計画が示されている。しかし、現実には、これをはるかに上回る農家が、国の援助と引き換えの生産撤退を希望している。 困難を抱えているのは農業者だけではない。コート・ダムールの350人の労働者を雇う鶏肉処理・加工工場も閉鎖を発表した。

 農相は、必要なすべての措置は取ると確言したが、3%を超える財政赤字を許さないEUの規律の厳守を求められ、国の聖域であるワインへの課税まで噂される財政状況のなかでは、これもリップ・サービスにしかならないだろう。おまけに、今年の干ばつ被害も甚大だ。その補償さえ満足にはできないだろう。あれやこれやの財政支出を迫る農業者間の対立抗争も深まるばかりである。

 WTO農業交渉は一休止しても、農相や生産者に一息いれる暇はない。