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猛暑と干ばつが穀物・食糧需給を直撃

農業情報研究所WAPIC)

03.9.4

 ヨーロッパを中心とする今年の猛暑と干ばつが世界の穀物・食糧需給に影響を与え始めたようだ。国際穀物理事会(IGC)の8月28日のリポートによると、主要生産国における減収の予測が世界穀物価格を押し上げている。焦点は、米国のトウモロコシと大豆の減収、ヨーロッパとウクライナ・ロシアの大部分の穀物の減収にある。

 米国の小麦価格は7月始め以来急騰を続けたが、最近になって輸出販売の動向を見極める動きから若干の低下に向かっている。EUの小麦価格は、6月始め以来、騰勢が続いている。フランスのパン用小麦価格は、6月始めにはトン当たり95ユーロであったが、7月始め108ユーロ、8月始め116ユーロ、9月1日には123ユーロにまで上がっている(フランス穀物業界資料)。米国トウモロコシ価格も、7月最終週以来上昇が続いている。大麦価格は、EUが介入在庫放出を認めたにもかかわらず、EU内の飼料需要の強さから、騰勢はもっと激しい。

 小麦については、ヨーロッパの猛暑と干ばつで世界の供給と在庫が大幅に減少する。世界小麦生産は、2000/01年、01/02年の5億8千200万トンから02/03年の5億6千600万トンと減ってきたが、8月27日現在の03/04年予測では5億5千700万トンにまで減る。EUの400万トン減(ドイツが最大)を始め、中東欧、ロシア、ウクライナの減少が大きく響いている。消費量に関しては、ロシア、ウクライナの飼料需要の減少し、米国の食料としての小麦消費もダイエット志向などのために減少すると予想されているが、EUでは、減収にもかかわらず、他の穀物の供給が少ないために、飼料として利用される小麦は41千100万トンと高水準になる。全体としては、昨年の6億200万トンから5億8千800万トンに減ると予想されるが、00/01年の2億100万トンから年々減少してきた在庫は、1億3千万トンにまで落ち込む。1995/96年以来の低水準である。

 雑穀類については、猛暑と干ばつにより、米国のトウモロコシ、ソルガム、ヨーロッパのトウモロコシが大きく減少し、需給は逼迫する。2003年の世界の生産は、前回(7月30日)予測より2千500万トン減少、9億200万トンとなる。それでも前年を21千900万トン上回るが、消費の減少は800万トン減るだけで、9億2千300万トンとなる。在庫は00/01年の1億9千500万トンから減りつづけており、今年は1億3千200万トンになる。

小麦(100万トン)

雑穀(100万トン)

  00/01 01/02 02/03

03/04予測

00/01 01/02 02/03 03/04予測
        7.30 8.27       7.30 8.27
生産

582

582

566

568

557

871

903

873

927

902

貿易

102

107

103

99

97

108

106

107

104

104

消費

584

587

602

591

588

892

913

904

931

923

在庫

201

196

161

135

130

195

185

154

150

132

 レスター・ブラウンは、今世紀、世界は年々生産される以上に食べているから、利用可能な在庫は安全レベルを大きく下回り、記録が保存されている40年来で最低になっており、穀物価格は、今後、高いレベルが恒常化すると警告している。これは穀物増産を促すであろうが、世界の飢えた人々が手にできる食料は減り、環境を犠牲にした農業集約化を促すだろうと言う(*)。今年の猛暑と干ばつが地球温暖化という長期的傾向と関連しているとすれば、世界規模の食糧危機が迫っていると容易に予測できる。食糧価格は世界規模で上昇、とりわけ貧しい国の飢餓が加速するであろう。アフリカ南部のエイズ禍と飢餓でさえ満足に救えない世界の危機管理体制下、この危機に対処できるとはとても考えられない。貿易戦争で角突き合わせている時代なのだろうか。

 *Hot summer sparks global food crisis,Independent,03.8.31