米議会 食糧援助改革を拒否 WTO農業交渉妥結はさらに遠のく
05.9.24
ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、米国議会上院が22日、飢餓地域の近辺の途上国から援助食糧を購入することで飢餓に瀕する人々に一層迅速で効率的に食糧を届けようとするブッシュ政府の提案を拒絶した。しかし、カナダ政府は同様の方法の利用を増やつつあると発表したという。
Senate Rejects Bush Bid to Ease Delivery of Food to Poor
Nations,The New York
Times,9.23
http://www.nytimes.com/2005/09/23/international/americas/23aid.html?pagewanted=all
同紙によると、カナダの食糧援助予算の半分までが近隣途上国での食糧購入に利用できるようになり、残りがカナダの生産者から購入される。以前は、このような形で利用できる予算は10%にすぎなかった。カナダ国際協力相・アイリーン・キャロルはインタビューで、新たな政策により、およそ1億ドル(110億円)の援助をこのような形で支出することが可能になり、一層多くの食糧を一層多くの人々に、一層迅速に届けることができると語った。
対照的に、米国国際開発庁(AID)が運用する10億ドル(1100億円)の予算を持つ食糧援助計画の下では、すべての援助食糧が米国市場で購入され、その大部分が米国船籍の船で輸送されねばならない。輸送費用が食糧援助予算の40%から50%を食いつぶし、食糧の引き渡しまでには4ヵ月もかかるのが典型的だという。
ブッシュ政府は、食糧援助予算の4分の1までを近隣途上国からの購入のために支出することを援助機関に許すように求めた。ところが、上院は、22日に通過した農業歳出承認法案からこのような条項を外してしまった。6月には、下院も同様な行動に出ている。農業委員会委員長を務めるサクスビー・シャンブリス共和党上院議員のスポークスマンは、外国で購入される援助食糧は米国で購入される援助食糧と同様に確実に引き渡されないかも知れない、またこのような購入は食糧価格を引き上げ、干ばつ被害を受けている地域の食糧難を悪化させるかも知れないという懸念があったと言う。
この提案は完全に葬り去られたように見えるけれども、歳出承認委員会委員のマイク・デワイン共和党上院議員は、スポークスマンを通じ、法案の両院合同委員会での審議に際してスケールダウンしたバージョンを復活させるように試みると伝えた。彼は昨日、委員会の共和党リーダーに食糧援助予算の10%を途上国で支出することを許すように説得したが、成功しなかったという。
記事によると、南部アフリカで飢餓の危機が迫るなか、カナダは既に地域でトウモロコシを買い入れている。世界食糧計画(WFP)は、とりわけマラウィ、モザンビーク、ザンビアで、1000万人が援助食糧を必要としていると推定している(注1)。そして、南アフリカには大量のトウモロコシが溢れていると付け加える(注2)。
自国の生産者からのみ援助食糧を購入する米国のやり方は、とりわけEUから、食糧援助を過剰農産物の輸出補助の代替手段として利用するものだという強い批判を浴びてきた(EU:欧州委員会、ひも付き援助全廃を提案,02.11.20; 地元供給が南部アフリカの危機を和らげるだろう(02.10))。今年7月には、お膝元の農業貿易政策研究所(ITAB)からも厳しく批判された。
その「米国の食糧援助」と題する報告書(http://www.tradeobservatory.org/library.cfm?refid=73512)は、米国の食糧援助計画は非効率の極みで、途上国の飢餓のや食糧不安の長期的原因に取り組んでいない、そのシステムの主要な受益者は食糧援助契約に応募するアグリビジネス企業、食糧を輸送する海運企業、そして他の援助の仕事のための資金の捻出を途上国での援助食糧販売に依存する民間ボランタリー組織(PVOs)だと批判している。
報告書は、異例の政治的同盟が緊急に必要な米国食糧援助改革を阻止していると指摘する。それは、飢餓に直面する国々での販売あるいは配給のために食糧を送ることは、非効率で、高くつき、援助の遅れにつながるから、米国は食糧援助を必要としている国の内部か近隣諸国で食糧を購入する現金による食糧援助に進むべきだと提言、他のすべての主要食糧援助供与国は商品供与から遠ざかっていると言う。報告の結論は、「貧困な海外の名において、米国海運企業を支援し、米国の食品加工業者やその他のアグリビジネスから市場価格よりも高い食品を購入するために大枚が使われている」、大部分の食糧援助は自身の利益のためのもので、政治化されているというものだ。
ブッシュ政府は多少の改革に動いたようだが、「異例の政治的同盟」がそれさえも阻んでいることを議会の行動がはっきりさせた。これは、WTO農業交渉を破綻させる重大な要因ともなるだろう。米国の食糧援助はドーハラウンドの成否を決する12月の香港WTO閣僚会合の大きな争点の一つになる。それは、一方では、米国生産者が生産費よりも低い価格で海外に販売するとを可能にし、他方ではそれによって途上国の生産者の生産物の国内市場での販売を難しくしているからだ。EUは、WTOの場で、すべての食糧援助を現金ベースのものとすることを要求する 。
輸出補助金撤廃を表明しているEUは、米国が輸出信用や食糧援助の形での輸出補助をやめることを約束しないかぎり、撤廃時期を明示はできないという主張を変えていない。これは、今月開かれた米国でのEU・米国通商・農業担当相会談 (USTR,Transcript of Media Availability of US Trade Representative Rob Portman & EU Trade Commissioner Peter Mandelson,9.15)後のEU閣僚理事会でも再確認されいる(Council of the European Union,2677th AGRICULTURE AND FISHERIES Council meeting - Brussels, 19 and 20 September 2005:http://ue.eu.int/ueDocs/cms_Data/docs/pressData/en/agricult/86285.pdf;そこでの議論の詳細は→Agriculture: des pays de l'UE critiquent la tactique de Bruxelles à l'OMC,Tageblatt ,9.19;http://www.tageblatt.lu/user/default.asp?ArticleId=40089)。
他方、9月10-11日に開かれたパキスタン・ブルバンでのG20閣僚会合は、先進国の貿易歪曲的国内助成の実質大幅削減(現在の助成レベルはウルグアイラウンドでの約束のレベルを既に大きく下回っているから、約束レベルから50%削減しても実質的には何の削減にもならない。ブルーボックスとグリーンボックスの定義の厳格化でボックス・シフトによる逃げ道も塞がねばならない)と、「すべての形態の輸出補助の5年以内の撤廃」の要求が通らないかぎり、12月初めの香港閣僚会合の成功はあり得ないと確認している(G-20’s success hinges on addressing diverse concerns,The Financial Express,9.21;http://www.financialexpress.com/print.php?content_id=103139)。
このなかでで食糧援助の軽微な改革さえ議会が阻止する現状では、香港閣僚会合成功の鍵を握る農業交渉の前進などまったく望めない。難局打開の糸口を探るための18日からのパリでのG4 (ギャング4とも言われる。米国、EU、ブラジル、インド)閣僚会合も、何の具体的成果も得ることなく終わった。それも当然だ。EUの交渉権限をもつ欧州委員会は加盟国閣僚に完璧に手足を握られている。米国通商代表も議会の前に身動きができない。
注1 WFPは8月末、12月の端境期が始まる前に、南部アフリカの少なくとも850万の人々に食糧を供給する計画だと発表したが、恐らくこのことを指しているのだろう。それは、レソト、マラウィ、モザンビーク、スワジランド、ザンビア、ジンバブエでの食糧供給計画の資金が1億8700万ドル不足しているから、援助を必要とする人々のごく一部が援助を受け取るだけだろうと言う。
WFP Press release:Southern Africa's poorest go hungry as WFP
runs short of funds
http://www.wfp.org/english/?ModuleID=137&Key=1808
注2 実際、南アフリカの今年のトウモロコシ収穫量は1980/81年以来の最高水準になるとされ、農民は生産費も償えない価格暴落を恐れている。そのために来シーズンのトウモロコシ作付けが大幅に減ると予想されているほどだ。ここでの購入が食糧難を悪化させるような価格吊り上げにつながるとは考えられない。
Bumper Maize Crop Likely, But Farmers Fear Price Drop,Business Day via
Allafrica.com,05.8.23
http://allafrica.com/stories/200508230270.html
Maize Plantings Expected to Shrink And Prices to Rise,Business Day via
Allafrica.com,05.9.21
http://allafrica.com/stories/200509210156.html
ただし、南アフリカのトウモロコシには遺伝子組み換え品が含まれる。米国からの援助同様、多くの国が拒絶するか、製粉後にしか受け入れない恐れがある(南部アフリカ:飢餓と遺伝子組み換え食糧援助の狭間で,02.8.29)