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EU:欧州委員会、ひも付き援助全廃を提案

農業情報研究所(WAPIC)

02.11.29

 欧州委員会が、EUにより管理されるすべての途上国援助を「アンタイド」化(援助受け入れ国に対して供与国からの財やサービスの購入を要求する、いわゆる「ひも付き」援助の廃止)する提案を含む「アンタイイング:援助の効率性の強化」と題する通信を採択した(Commission adopts proposals to further untie Community aid,02.11.19)。これは、援助政策を決定するEU諸国の開発・外交担当相に提案される。

 この通信は、とりわけ、既存協定から除外されていた食糧援助とその輸送の完全なアンタイド化を勧告している。EUが関係する開発援助は年に70億ユーロにのぼり、世界の政府開発援助(ODA)の55%を占める。25年以上にわたるEU開発援助の歴史のなかで、そのほとんどはアンタイド化されてきたが、今回の決定はその完全化をめざす。ただし、開発担当のニールソン委員は、EU以外の他の供与国もこれに従うことが不可欠で、それを期待すると述べている。

 EUの中には、援助ひとたびアンタイド化されれば、米国や日本が、従来はEUが提供していた財やサービスの供給を始めることを恐れ、この提案の採択をためらう国もある。しかし、欧州委員会によれば、アンタイド化がもたらす受け入れ国の利益は大きく、特に入札や調達に関連した透明性、援助の管理と交付のアカウンタビリティ(説明責任)の向上につながるし、汚職、不正管理を減少させることになる。

 「通信」は、EU諸国の二国間援助(EUの管轄外)についても、域内市場(単一市場)ルールはそれぞれのODAにも適用されると喚起、ひも付き二国間援助は、EU法、特に競争法や公共調達指令に違反する可能性があると明言している。

 欧州委員会は、担当相理事会がこの提案を直ちに採択することは期待していないという(Brussels press to end tied aid,Financial Times,11.18,p.2)。しかし、この提案への支持がないわけではない。11月19日付のFinancial Times紙には、7人の欧州議会議員がこの提案を支持する投稿を行なっている(Max van den Berg and other MEPs,Untied aid would have more value,11.19,p.14)。それによれば、EUは世界最大の単一供与国グループとなっているが、援助を国内の商業的利益に結びつけるEU構成国の慣行のために、潜在する入札者の応札が抑えられ、援助の価値を5分の1にまで減らしているという。構成国は、毎年62億ユーロの援助をひも付きにしており、これは開発援助予算のほぼ半分に達する。従って、この提案は、開発援助の価値を高める可能性を与え、入札の透明性を高めることで汚職を減らし、援助の効果を増すと、外相理事会に勧奨している。それだけでなく、これら議員は、援助が与えるビジネス機会を利用できるように、これらの提案に途上国の契約者を支援する提案も含めるように要請している。それなしでは長期的で持続可能な発展のチャンスはないと言う。

 この提案を契機に、これらの点をめぐる論議が本格化するであろう。

 (追記)
 食糧援助のアンタイド化が、EUのみならず、米国についても進められば、現在の国際食糧援助をめぐる問題が大きく改善されるであろう。飢餓に直面するザンビアは、米国からの遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの援助の受け入れを拒み、飢餓を免れるためにはこれを受け入れるほか選択肢はないと国際社会の非難を浴びている。しかし、他に選択肢がないというのは信じ難い話である。ケニア、タンザニア、ウガンダ、南アフリカなどの近隣諸国にはトウモロコシの輸出余力があるというし、ヨーロッパ、ブラジル、インド、中国等からの輸入も可能なはずである。それにもかかわらずこのような事態が生じているのは、食糧援助を自国農産物の輸出市場拡大に結びつけようとする米国の頑なな態度と関係している。そのうえ、他の援助供与国は、多くの場合、世界食糧計画に現金を渡し、可能なかぎり受け入れ国周辺で購入することを選択しているが、米国は自国から現物を送ることに執着している。食糧援助をGM食品の売り込みにさえ利用しようとしていることが、問題を一層重大化させている。米国農民、アグリビジネス、バイオテクノロジー企業は、このようにして得られる利益を、自ら手放すことは決してないであろう。EU自身が内部でもめているようでは大した期待もできないが、提案が採択されれば、多少なりとも米国に対する圧力となるかもしれない。しかし、米国がそうしないならば、EUもそうしないと提案が葬り去られるならば、事態は一向に改善されないことになる。

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