東アフリカの干ばつ ”人道的破局”の恐れ WFPとアクサが世界初の干ばつ保険契約

農業情報研究所(WAPIC)

06.3.8

  国連食糧計画(WFP)が6日、干ばつが続く東アフリカのジプチ、エチオピア、ケニア、ソマリアの625万人と推定される人々を養うための緊急援助を受け取らねば、人道的破局が地域を飲み込む恐れがあると警告した。

 East Africa Crisis
 http://www.wfp.org/english/?ModuleID=137&Key=1987

 国際社会の反応は相変わらず鈍いが、国連統合地域情報ネットワーク(IRIN)が7日付で伝える東アフリカ諸国の現状は、まさに「人道的破局」を予想させるものだ。その一端を紹介しよう。

 East Africa: Millions Face Hunger, in Urgent Need of Aid,IRIN,3.7

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 シェイク・イサが北部ケニアの砂嵐地帯を横切り、60kmほど先の一番近い水源に最後に残った家畜を歩いて連れて行こうと家を離れたとき、かつて85頭いた牛は23頭しか残っていなかった。昼夜、ジーゼルエンジンで貴重な水を汲み上げている井戸のあるアルバジャハンに着くまでに、さらに9頭の牛と1頭のラクダが死んだ。汲み上げられた水を蓄えるおけのまわりでは、十数頭の死骸が朽ち、死臭を放っていた。61歳の彼は、”我々の家畜は、草地がまったくない村から離れれば死ぬ、我々が水場まで連れて歩くから死ぬ、あるいは休息の後に立ち上がれなくなるから死ぬ、井戸のまわりでさえ死ぬ”と言う。

 父やその先代と同様、彼は牧畜民である。彼や彼の村の他の人々は、4季連続で雨季にほとんど雨が降らなかったケニアの苛酷な北部国境地帯で辛うじて生き延びている。一年中流れが絶えないはずの川も干上がった。緑の草地は枯れた褐色の荒地に変わった。食べられる植物の すべてのかけらも、からからの藪から取り尽くされた。

 この絶望的状況は、ジプチ、エチオピア、エリトリア、ケニア、ソマリアの1100万の人々が現在の干ばつに襲われた”アフリカの角”全体に広がっている。WFPによれば、これらの人々のうち、700万人が深刻な人道的危機の勃発を止めるための即刻の援助を必要としている。干ばつ による死者は今のところ60人にとどまっているが、家畜が次々に死んでいるから、状況はに悪化する。

 牧畜地域社会は専ら乳と肉ー彼らが頼みの綱とする食事ーを得るための、あるいは市場で販売され、トウモロコシ、砂糖、茶、その他の必需品を買うための現金を得るための家畜に依存している。

 オックスファム(国際開発NGO)は、ケニア北部のソマリア人は、一部の場所では70%の牛と羊を失ったと推定する。干ばつに強いラクダさえも、15%減った。国連食糧農業機関(FAO)の食料安全保障・分析ユニット(FSAU)によれば、ソマリア南部の国境地帯では、すべての家畜の3分の1が既に死んでおり、、残りの半分も4月前に死にそうだ。

 なお生きているやせ細り・衰弱した家畜の地域家畜市場の値段は暴落した。ナイロビから北へ400マイルの州都・ワジールでは、成牛1頭の値段は7000ケニアシリング(96ドル)から800ケニアシリング(11ドル)に、ラクダ1頭の値段も2万ケニアシリング(274ドル)から5000ケニアシリング(68ドル)にまで下がった。オックスファムのケニア救援コーディネーターは、”危機は死につつある人の数で測られることが多いが、牧畜民については別の考え方が必要だ。家畜なしでは死んだも同然だ”と言う。

 家畜が死ぬから、栄養不良の人の数も急増している。ワジール周辺の急性栄養不良の子供の数は、慢性的な10%のレベルから27%に跳ね上がった。ソマリアのゲド、低・中ジュバ地域とベイ・バクール地域では、このレベルは世界保健機関(WHO)が危険レベルとする15%の倍になっている。WFPを指揮するジェームズ・モリス氏は、栄養不良のレベルは未だ危機的レベルに達していないとはいえ、即時の食料援助を必要とする人々の数は”破局的”だと言う。

 ケニヤ政府と国の援助機関は、350万の人々、10人に1人が即時の人道援助を必要としていると報告した。この数は、ソマリアでは170万、エチオピアで260万、ジプチで8万8000、エリトリアで50万になる。さらに、タンザニアでは77の地区の370万人が5月の収穫期まで生き延びるための食料を必要としている。このうち、56万は極貧と分類され、食料援助が必要だ。干ばつ と作物病のために、ブルンジ人220万人、ルワンダ人100万人が食料不足に直面している。モリス氏は、我々は、今まさに”本格的危機”のなかにいると言う。

 人道援助機関と政府は、外国の援助の巨大な増額を訴え、死者が急増しはじめるまでに残された時間はほとんどないと警告してきた。

 ケニア政府は今年2月、WFP、国連児童基金(UNICEFF)、FAO、国連開発計画(UNDP)と共同、緊急援助を要請した。今年3月から2007年2月の間の必要に応えるために、2億4500万ドルの援助を求めた。その大部分(2億2400万ドル)は学校児童50万を含む350万の人々ためのの食料・39万5000トンの購入に使われる。残りは、保健衛生プロジェクト、既存の井戸の修復、引水、牧畜民の家畜を適正な価格で購入し・肉を飢えた地域社会の戻し与える家畜再編計画に当てられる。

 エチオピアでは2005年から持ち越された大量の援助食料があるが、1月末にはさらに1億6600万ドルの援助を要請した。その67%は保健、栄養改善、引水、浄水、農業部門に支出される。WFPは今年2月半ば、ソマリアは34万トンの食料援助不足に直面している、ジプチでは4万7500の牧畜民が緊急食料援助を必要としていると報告した。

 しかしながら、国際社会の反応は鈍い。オックスファムは、援助供与国は、3ヵ国のために要請された5億7400万ドルに対して、最大でも1億8600万ドルの供与を約束しただけと推定する。3億8800万ドルが不足することになる。

 WFPの最新の数字では、ケニアの食料危機に取り組むために2億2500万ドルの援助を要請したが、供与国は1870万ドル、必要額の8%の供与を約束したにすぎない。人道問題調整国連事務所は、ソマリアでも要請額に比べての不足は1億4400万ドルになると計算する。

 冒頭に記したWFP の訴えは、ジプチ、エチオピア、ケニア、ソマリアについて必要な緊急援助は3億1460万ドルに上るが、今のところ2億2570万ドルが不足していると言う。

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 アフリカの食料危機に対する国際社会の反応の鈍さは目を覆わんばかりのものである。日本を含めた先進国のメディアは、アフリカが直面する干ばつやそれに伴う食料問題を滅多に報じることがない。そして、いざ決定的危機となると、やにわに、危機が突発したかのごとくに書き立てる。援助はその後にのみやってくる。このときでさえ、援助が必要とする人々に届くのはずっと遅れる。そのときには、すでに”破局”が進行している。早期に対応していれば救われた大量の命が失われ、回復も難しさを増す。

 WFPは耐えかねたのだろう。3月6日、アクサ再保険会社と、世界で初めての干ばつ保険契約を結んだ。これにより、今年3月から10月までのエチオピアの栽培季についてのパイロットプロジェクトが始動する。国連が93万ドルの保険料を支払い、26の測候所で測られた降水量が一定量を下回った場合には、アクサが710万ドルを支払う。これにより、干ばつへの早期対応が可能になるわけだ。

 モリス氏は、「この人道的緊急保険契約は、将来、我々に、[現在アフリカで起きているような]大災害が数百万の家族の赤貧をもたらす前に、それによる大損害に備えて保険をかける方法を提供する」、「 金融関係組織へのリスク移転をカバーする保険が極端な干ばつの結果から人々を保護するために使われるのはこれが初めてだ」と言う。アクサの最高経営責任者のハンス-ピーター・ゲルハルト氏は、「我々のビジネスが途上国の自然災害が引き起こす荒廃に対する戦いに貢献できることを誇りに思う」と言う。

 World's first humanitarian insurance policy issued
 http://www.wfp.org/english/?ModuleID=137&Key=2030

 この契約について報じるファイナンシャル・タイムズ紙は、「これは、長期的には、援助供与者の資金の一層有効な利用を提供するだろう、一層迅速な資金の支出は一層有効であるからだ。それは多くの命を救うこともできる」と言う。また、アクサは、自身で保険料を支払う能力のある他の国の政府と直接交渉しているという。

 UN takes out drought insurance,Financial Times,3.6,p.4

 なお、食料難の現状について補足しておけば、少なくともケニアについては、すべての地域がこのような状況にあるわけではない。西部では食料が溢れ、ナイロビに住む人々の多くは贅沢とも言える食生活ができる。問題は、専ら食生活と生計を専ら牧畜に頼る乾燥・半乾燥地域の人々が余りに貧しく、国内に溢れる食料を購入する力を持たないことだ。この意味では、現在の食料難が専ら干ばつのせいだとは言えない。牧畜の改善や生活レベルの向上を図るこれら地域に重点を移した長期的開発政策がなければ、この問題は解決できないだろう。外国援助は一時的解決策にすぎない。しかし、現状が緊急の援助を必要としていることには変わりがない。

 Kenya pushed into familiar cycle of 'crisis,appeal and aid',Financial Times,3.8,p.4

  関連報道
  KENYA-SOMALIA: WFP warns of catastrophe if donations delay,IRIN,3.6
  Workshop Discusses Drought Insurance Pilot Project,The Ethiopian Herald via allAfrica.com,3.7
  http://allafrica.com/stories/200603070322.html
  Food Aid Program Takes Out Insurance on Ethiopia Weather,New York Times,3.8
  http://www.nytimes.com/2006/03/08/international/africa/08ethiopia.html?_r=1&pagewanted=all&oref=slogin
  KENYA: Livelihood crisis as drought ravages northeast,IRIN,3.8
  KENYA: Is drought killing pastoralism?,IRIN,3.8

  関連情報
 干ばつで飢餓寸前のエチオピア農牧民 FAOが緊急支援を要請,06.2.16
 地球温暖化でアフリカの25%に破滅的水不足ーアフリカの新研究,06.3.4