G8農相会合 富裕国による貧しい国の土地・資源収奪を助長?

農業情報研究所(WAPIC)

09.4.20

  この困難の折りに何事かと批判されて、土曜日朝9時半からお昼にかけてのマルカ・トレヴィギアナでのワイン・テイストを含めた饗宴を大慌てで2時間に短縮することを余儀なくされたG8農相会合の報告案が、曖昧とはいえ、”土地収奪”、バイオテクノロジー、バイオ燃料といった”微妙”な問題にも言及するということである。

 World lags on poverty goals: G8,Reuters,4.19
 http://www.reuters.com/article/worldNews/idUSTRE53I1Z520090419
 当初会議プログラムと変更後の会議プログラムについては、次を参照。
 http://www.ft.com/cms/73e6398c-2b84-11de-b806-00144feabdc0.pdf
 http://www.ft.com/cms/4999f632-2b84-11de-b806-00144feabdc0.pdf

 諸国政府や民間企業の国境を越えた農業プロジェクトへの投資が急速な広がりを見せており、それが被投資国に社会的・環境的に大きな損害を与える恐れがあると、このホームページでもたびたび指摘してきた(→海外農業投資)。しかし、この報道によると、食糧農業機関(FAO)と国際農業開発基金(IFAD)の二つの国連機関は、国境をまたぐ農地協定はお互いの利益となり、世界食料安全保障を助けることができると言ったそうである。

 IFADのカナヨ・ウワンゼ総裁は、「それは”土地収奪”と呼ぶこともなかろう。ウィンウィンになる可能性がある」と言う。外国投資家が参入するときには、貧しい農民の自国農地へのアクセスを奪うリスクがある。しかし、協定が双方の利益を斟酌すれば、農業生産、輸出を増やし、雇用を提供するのを助けることができるという。

 しかし、問題は、「双方の利益を斟酌」したとは考えられない交渉や協定が叢生しつつあることだ。だからこそ、”独裁者”と呼ばれることもあるジャック・ディウフFAO事務局長も、「いくつかの交渉は不平等な国際関係と短期的な利益本位[mercantilist、重商主義的]農業につながった」と警告した(FAO事務局長が食料”新植民地主義”に警告,08.8.25)。FAOは、どうしたら農地投資が投資者とホスト国の両方に利益をもたらすことができるか、08年末前に勧告を出す計画とも報じられた(韓国大字のマダガスカル農地投資 ”明らかにネオ・コロニアルに見える”―FT紙,08.11.20)。

 ところが、このような勧告は未だに出ない。恐らくは、生産性引き上げのために遺伝子組み換え技術も含む農業科学の利用を支持するように今回の会合でも要請した米国(US urges food output boost to avert unrest,FT.com,4.19;)をはじめとする途上国も含む多くの国の指導者が、自らの政治的・経済的利害を賭けた巻き返しの動きに出ているためであろう。国際機関が立ち往生する間に、多くの途上国の貧しい農民の権利が踏みにじられ、環境、農業の持続可能性が回復不能な損傷を受けていく。

 G8農相会合が(特に途上国で)農業生産を大きく増やす必要性で合意しそうなことに対し、国際農業生産者連盟(IFAP)のエリザベス・ゴーフィン副会長が、サウジアラビア、韓国、中国などの富裕国による自国の食料確保のための海外農地取得の動きには、”第二世代植民地主義”の脅威がある、「それはまさしく資源の収奪で、貧しい国を一層貧しくする」と警告していることも付言しておく。

 G8 farm ministers plot world food strategy,Reuters,4.17
 http://www.reuters.com/article/worldNews/idUSTRE53G4PM20090417