農業情報研究所>農業・農村・食料>食糧問題>ニュース:2,011年月8月3日
食料価格高騰の元凶は米欧のバイオ燃料 「中国・インドの爆食」神話を打ち砕くFAO報告書
主要食料商品の価格のこの4年来の歴史的高騰は、多くの途上国、とりわけ中国やインドの動物性食品−飼料消費の増加がもたらす天井知らずの需要増加が引き起こしたものである。こうした見方が広く受け入れられている。このような見方を明示的に否定するわけではないが、これは誰かが作り上げた”神話”ではないかと疑わせるようなリポートを国連食糧農業機関(FAO)が発表した。
2010年10月、国連食料安全保障委員会(CFS)から価格高騰に関するリポートを用意するように要請された「食料安全保障および栄養に関するハイレベル専門家パネル」の手になるこのリポートは、天井知らずの需要増加のトレンドを精査した部分を含む(31頁以下)。そこで示される数字は、天井知らずの需要増加の元凶は、言われるような途上国、中国、インドなどの食料需要増加ではなく、むしろ米国やEUのバイオ燃料用需要の増加であることをはっきりと示している。
第8表(32頁)に示される穀物消費量の増加率の推移を再掲すると下表のとおりである。
世界穀物消費量の増加率(%)
1960−69年 | 1970−79年 | 1980−89年 | 1990−1999年 | 2000−2011年 | |
総消費 | 3.5 | 2.6 | 1.7 | 0.9 | 1.8 |
飼料用消費 | 4.5 | 2.5 | 1.5 | 0.4 | 1.1 |
非飼料用消費 | 2.4 | 2.7 | 1.9 | 1.3 | 2.2 |
バイオ燃料用抜きの非飼料用消費 | 1.4 | ||||
バイオ燃料抜きの総消費 | 1.3 |
途上国の所得向上に伴って消費が急増していると言われる今世紀10年ほどの穀物消費の伸びは、実は1960年代、70年代よりももずっと少ない。それでも90年代に比べての伸びは大きいが、バイオ燃料用消費を除くと、この伸びは大きく縮む。しかも、過去10年の飼料用需要の伸びは旧ソ連の回復によるもので、アジアの食肉需要の増加にもかかわらず、旧ソ連以外での飼料用消費は加速しておらず、むしろ減速気味だという。
第9表には、1990−99年と2000−2009年の植物油の世界消費増加率と世界消費における工業利用のシェアが示されている。総消費の伸びは4.5%からの5.1%に加速しているが、食料用消費の伸びは4.4%から3.3%に減速さえしている。工業用消費の伸びは5.6%から15.4%へと3倍にも増えた。2000−2009年のバイオ燃料用利用の伸びは23.0%にもなる。工業用利用のシェアは、2000年には11%だったが、2009年には24%と倍以上になった。
リポートは、「2000年代のバイオ燃料ブームをわきにおけば、世界の穀物・植物油消費の増加は実際には減速している。これは・・・世界消費の現在の加速は世界経済発展の自動的(メカニカル)で、不可避の結果とは言えないことを示す。それは、米国とEU諸国政府が実施する公共政策の結果である」と結論づける。米国、EUのバイオ燃料生産は急増してきたが、これは補助金、免税、利用の義務づけなどの巨大な公的支援なしにはあり得なかった(32頁)。
世界食料価格を高騰させたのは中国やインドだ、こういう神話を作り上げたのは誰だろうか。
なお、最近は投機マネーも価格つり上げの元凶と非難されることが多いが、投機も需給逼迫が見通せないないところでは起きようがない。バイオ燃料が投機マネーを呼び寄せているのである。原因と結果を混同してはいけない。
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