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メキシコ:農民援助に合意 構造改革の行方は?

農業情報研究所(WAPIC)

03.5.3

 NAFTAの北米自由貿易協定(NAFTA)による関税撤廃で米国農畜産品の洪水のような流入に直面、この数ヵ月、見直しを要求して激しい闘いを繰り広げてきたメキシコ小農民が、日、政府との協定に調印、長い闘いに一4月28応の終止符を打った。メキシコ政府は農民への援助を増額を約束、NAFTA見直しは拒否したが、農産物に対する一時的関税または割当を許すホワイト・コーンの生産者の保護を求めNAFTAの条項に基づくドライ・ビーンとることを約束した。

 援助計画のための新た財源はなく、他の予算から78億ペソ(7億5千600万ドル)を転用する。援助計画には、保健支出増額、住宅補助金、夜間電気料金引き下げ、ジーゼル燃料補助金、債権放棄、高齢農民・土地購入・土地紛争解決の支援、一時的雇用基金、女性のための開発計画や農産物販売の支援などが含まれる。7月の中間選挙を控え、農村社会の不安定化は現政権の危機につながる。これを放置するのはフォックス政権の自殺行為であろう。新たな援助計画はそれを回避するための緊急避難措置であろう。いつまでも財源が確保できるはずもない。従って、NAFTAの締結にもつながった80年代以来の経済自由化・構造改革路線の転機と評価するには早すぎる。

 しかし、補助金を削減、競争により非効率な農民の他作物・他産業への転換を促すことで農業構造の改革を図るという目論見は破綻に瀕していると言えるであろう。今後、農村社会の安定化のための何らかの永続的措置が死活的に重要な政治的要請となるであろう。メキシコの経験は、WTO貿易自由化交渉が行き詰まるなか、とりわけ国際テロ防止を最優先目標に自由貿易協定(FTA)に走り始めた米国との協定に活路を見出そうとしている多くの途上国にどう受け止められるのであろうか。

 途上国を含め、世界の多くの国にとって、米国市場から締め出されることは死活問題である。米国市場へのアクセスの確保のために、多くの途上国が米国とのFTA交渉に乗り出している(米州全体を包含するFTAA、米国-中米5ヵ国、米国−モロッコ、米国−南部アフリカ関税同盟等々)。しかし、その見返りに民主主義と自由経済を強要される。イラクに対して武力で強要されたことが、米国市場からの「締め出し」という経済的強制によって強要される。メキシコの経験は「オールターナティブ」な道の発見が急務であることを示していないであろうか。少なくとも、二国間貿易自由化交渉への奔流には、何としても堰き止める必要がある。

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