ブラジル 気候変動で食料生産が危機に GM技術も「問題を解決しない」とモンサント

農業情報研究所(WAPIC)

09.10.2

 気候変動は世界の穀倉の一つをなすブラジルの食料生産に重大な影響を与えそうだ。専門家は、来るべき数十年の気温上昇や極端な天候異変などで一部地域の作物生産は大きく減り、一部地域では作物が一掃されてしまうこともありそうだと見ている。国立農業研究所(Embrapa)の農学者、 Eduardo Assadは、”もし何もしなければ、食料生産は危機に瀕する”と言う。

 ブラジル国立宇宙研究所(INPE)によると、国の最貧地域の一つをなす北東部では、既に希少な降水がますます減り、平均気温は2050年までに3-4℃と、国と世界全体の平均の2℃を大きく上回る上昇が予想される。高温は、キャッサバなど、地域の数百万の人々の基礎食料を全滅させる恐れがある。

 サンパウロ州カンピーナス大学の農学者、Assad and Hilton Silveira Pintoの研究によると、大豆やコーヒーなどの輸出作物も影響を免れない。2020年までに、大豆生産は20%、コーヒーは10%の減少が予想される。

 近の前例のないトルネードや大雨は、このような気候変動が既に始まっていることを示す。ミナス・ジェライス州では、最近10年のうち、5年が干ばつ年で、コーヒーの葉が萎び、花芽が干乾びるなどの被害が出ている。近年の南部温帯の春季の過剰降雨は大麦や小麦に損害を与え、一部はビールのモルトではなく、家畜飼料に加工された。今年の小麦は、湿気に由来する病害の被害も受けた。気温上昇で小麦や大麦の完全放棄と輸入を余儀なくされることもあり得る。EmbrapaのJose Mauricio小麦研究部長は、”小麦を牧草と樹木に取り換えねばならないかもしれない”と言う。

 技術が気候変動への適応を助けるかもしれない。しかし、今までの実験結果は楽観を許すものではない。

 干ばつの影響の緩和をねらった林の中でのコーヒー植樹の実験では、光が減ったために収量が減り、機械が使えないために労働コストが上昇した。灌漑は高価で、水源も枯渇している。長い根を持つ耐熱性コーヒー品種の育成も研究されているが、新品種開発には10年以上かかる。

 モンサント社は、米国で2014年までに、干ばつ耐性のトウモロコシと大豆を発売する計画で、その5年後にはブラジルでも使えるようになるかもしれない。しかし、これも確かな解決策にはならない。モンサントのブラジル子会社の Rodrigo Santos戦略及び製品管理部長も、”これらは影響を最小限にできるけれども、問題を解決はしない”、遺伝子組み換え(GM)作物でさえ、2℃を超える気温上昇に適応するのは難しいと言っているそうである。

 科学が問題の90%を解決すると信じる企業研究者もいるということだが、大部分の研究は始まったばかりで、研究支出も不適切、さらに農民は作物を移動させるための資本も、加工・輸送のための適切なインフラも必要としている。すべての点で、ブラジルは出遅れているという。

 FEATURE-Climate change threatens Brazil's rich agriculture,Reuters AleretNet,10.2
 http://www.alertnet.org/thenews/newsdesk/N18203584.htm

 FAOは先月23日、人口増加と所得増加で増加する食料需要を賄うために、世界食料生産を2050年までに70%増やさねばならないと発表した。食料と動物飼料のための穀物の生産は現在の21億トンから30億トン、食肉生産は、主に途上国での消費の増大のために、現在の2億トンから4億7000万トンに増やす必要があるという。そのためには、主としてサブサハラ・アフリカやラテンアメリカで耕地を1億2000万ヘクタール増やさねばならないが(先進国では5000ヘクタール減少ーバイオ燃料需要次第で変化)、作物生産成長の90%は、収量増加や密植から来るという。

   2050: A third more mouths to feed,FAO,09.9.23
   http://www.fao.org/news/story/en/item/35571/icode/

 しかし、ブラジルもお手上げ、GM技術開発の旗手もお手上げのなかで、こんなことが本当に実現できるのだろうか。日本政府は、食料安全保障とためと称して、日本企業によるブラジル等での食料生産の後押しを決めたが、これもとんだお門違いではなかろうか。穀物(トウモロコシ)や大豆の大量消費につながる、特に米国を先頭とする先進国の肉食を減らす以外、世界食料問題の解決はないと思われる。

  関連情報
 
ブラジルの大豆輸出 気候変動で2020年までに29%減少の恐れー新研究,08.8.11