ブラジル大豆生産が急増、アマゾン破壊に拍車

農業情報研究所(WAPIC)

03.9.19

 ブラジルの穀物・油料種子生産が急増する。中国の輸入需要の急拡大に応じて作付面積が急増していることが主な要因と見られるが、それはアマゾン熱帯雨林の破壊を加速する要因ともなっている。政府は、膨大な公的債務の解消を急ぎ、輸出拡大を最優先しているが、環境破壊のツケがどうまわってくるのか懸念される。

 Bloomberg.comの17日付の報道(Brazilian Harvest Jumps 26% as Framers Plant More)によると、7月に終わった2002/03年季の穀物・油料種子の生産は、前季の9,680万トンから1億2,240万トンに飛躍した。農民が中国や国内の牛飼育による大豆需要を満たすために作付を拡大したことから、政府予想の1億2,020万トンを超えた。政府の商品保管機関長のピントは、ブラジリアでの記者会見で、来年はもっと増やす余地がある、ブラジルには耕作可能な広大な肥沃地があり、農民も一層の作付増大を望んでいると語ったという。この報道は、南米最大の経済を再建し、4千億ドルにのぼる公的債務を返済しようとするルーラ・ダ・シルヴァ大統領にとって、農産物輸出促進は決定的に重要だという。

 今季の大豆生産は前季を24.2%上回り、5,200万トンになった。中国への輸出増加と国内食肉産業のための飼料需要の急増が、この増産に駆り立てた。ロドリゲス農相は、ブラジルが今年、米国を抜いて世界第一の大豆輸出国になると語っている。ブラジル南部のヒオ・グランジ・ド・スウ州の6千の農民のグループの会長は、需要はほとんど無限にあると語ったという。

 今季、ブラジル農民は作付を359万ha、ほとんどスイスの面積に匹敵するほど増やし、その58%、200万haが大豆に当てられた。アナリストは、有利な為替レートが農民に高収益をもららし、一層の拡大のために投資されから、天候に恵まれれば、来年の収穫はもっと増えると予測する。今年の大豆輸出は10%増加して2,700万トンになり、うち1,200万トンが中国向けになる。来季の輸出は3,200万トンへの急増が期待されている。

 他方、政府は、コーンと小麦の輸入を減らすように農民を助成している。コーン生産は3,530万トンから34.3%増えて4,740万トンになった。ブラジルは世界第二の小麦輸入国であるが、その生産も76%増えて510万トンになり、国の需要のほぼ半分を満たすに至った。 

 しかし、このような大豆の増産は、アマゾン熱帯雨林の開墾を加速しているようだ。やはり17日付のニューヨーク・タイムズ紙の記事(Relentless Foe of Amazon Jungle:Soybeans)によると、かつてオウムや鹿の保護区であったジャングルが、大豆生産のために次々と切り払われている。現在、大豆はアマゾン森林破壊の最大の要因になっており、昨年の破壊森林面積は40%増加、250万haに達したという。アマゾンの生態系への脅威が迫っている。環境保護団体は森林破壊と闘うように大統領に迫っているが、大統領は輸出促進と都市貧困層を養うために農業生産の増強に力点をおいており、今年7月に現地を訪れ、「アマゾンはアンタッチャブルではない」と述べたという。選挙で大統領を強力に支持したアマゾン南部・マト・グロッソ(これは「深いジャングル」を意味する)州の新知事・マッギは「大豆王」と呼ばれ、大豆をアマゾンの成長と開発のエンジンに据えている。次の10年で大豆作付地を3倍に増やすと言い、彼自身の会社も、今年初め、2倍に増やすと発表した。

 エコノミストは、中国の中産階級の台頭が大豆ブームを引き起こしていると分析する。中国は、数年の間に大豆の純輸出国から世界最大の輸入国に変わった。同時に、狂牛病の勃発が家畜飼料の蛋白源としての大豆への需要を増大させている。

 同紙によると、開拓は、政府が法的にはアマゾン地域としているものの、実際には森林ではないサバンナを中心に行なわれてきたが、いまやそれがジャングル本体に及ぼうとしているのだという。ジャングルの土地保有者は、その20%までで樹を育て、作物を育てることを認められてきたが、マッギは、一定のジャングル地域を「移行地」またはサバンナに再分類すべきだと論じている。「移行地」では50%、サバンナでは65%までが耕作可能とされているからである。

 しかし、森林の大豆畑への転換の急増は、既に目に見える形での環境問題を引き起こしている。昨年は、森林を焼き払う煙で飛行のキャンセルが起きている。大豆生産によってアマゾンの水源が汚染され、孤立した部族の生活が脅かされている。現在は表面化していないとしても、いずれは土壌劣化で農業生産自体に悪影響が及ぶ恐れもある。実際、南部の伝統的大豆生産地域では、長年の大規模モノカルチャーで、土地生産性が落ち始めており、それが遺伝子組み換え(GM)大豆への期待を高め、密輸種子による違法栽培が広がっている。アマゾンは、地球環境の観点からみても重要な役割を担っており、その急速な減少が地球全体に与える影響も懸念される。

 途上国の輸出振興は開発と貧困撲滅のために不可欠であることは否定できないが、このような問題への配慮を欠いた開発戦略は、いずれ行き詰まるのではないかと危ぶまれる。

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