米農務長官 補助金農政からの脱却を要請 2007年農業法
05.10.15
2007年農業法案の策定を前に米国全土で展開されてきた地方公聴会が一巡した。ジョハンズ米農務長官はワシントンホテルの”商品クラブ”昼食会でその結果を総括、現在の米国農業政策は基本的に変革されねばならないと述べた。
彼によると、現在の農業支援プログラムは生産者のための有効なセーフティー・ネットの創出に失敗しているし、世界貿易ルールによっても危機にさらされている。変革をどう具体化するかについてはこれから検討するが、真のセーフティー・ネットは補助金に頼ることではない、それは外国市場への一層の実質的アクセスの確保だとい言う。WTOにおける市場開放要求が一層強まることが予想される。
Johanns seeks fundamental changes in U.S. agricultural
policy,worldgrain/com,10.12
http://www.world-grain.com/feature_stories.asp?ArticleID=76199
彼は、農業政策の将来に関するこの考え方は、一部は米国綿花補助金に対するWTOの違法判決（ブラジル 綿花補助金紛争で対米報復措置発動へ WTO農業交渉阻害要因は積み重なるばかり,05.9.24）により触発されたものと言う。このような挑戦はコメやトウモロコシについても起きるだろうとし、現に起きていると、国際環境の変化から来る補助金政策の存続の危機を訴える。
現在の補助金政策は、このような外部からの挑戦に直面しているだけでなく、それ自体が米国農業の将来に対する重大な問題を提起しているとも言う。公聴会で表明された主要な懸念は次の3点だったと総括する。
①現在の農場への支払いは土地価格の上昇に帰結している。
②農場助成計画は全生産者の3分の1に向けられているにすぎない。
③最大の受益者は最大規模の農場となっている。
実際、8％の農場がすべての政府支払いの50％を受け取っており、生産価額の4分の1を占めるにすぎない作物ートウモロコシ、小麦、大豆、ワタ、コメーに商品プログラム支出の92％が支払われている、他の作物を栽培する3分の2の農場はほとんど何も受け取っていないが、このような支払いを要求しておらず、むしろ研究開発、衛生・植物保健措置の執行や新たな市場へのアクセスの強化を求めているとも指摘する。
こうして、彼は、農業環境が今とはまったく異なる75年も前に考案された政策構造から、すぐにも脱却しなければならないと言う。
ではどうするのか。彼は、世界の人口の95％は米国の外に住んでおり、他方、米国の農業生産は国内消費をはるかにしのぐペースで増加していると指摘、輸出拡大こそが最大のセーフティーネットと言う。
結局は、「我々は、米国産品に対する市場の開放を強制するためにWTOを利用せねばならない。WTOが次の農業法を書くのではないが、他の国々の市場アクセスを勝ち取るために、補助金削減の分野でリーダーシップを示さねばならない」ということだ。
彼によれば、貿易歪曲的補助金なしでも農業支援は可能だ、公正な機会が与えられれれば、米国の農家と畜産業者は世界と競争できる、綿花補助金に関するWTOの裁定、若者が農業に参入できず、政府支払いが土地価格上昇に帰結し、大規模農場が大部分の支払いをせしめ、3分の2の農家がほとんど支払いを受けていない現状を考えれば、現在のセーフティーネットは重大な挑戦を受けている。「現実の実質的市場開放こそが良い政策だ。真のセーフティーネットは、また適切な税制、貿易政策、衛生・植物保健政策、そして新市場への投資でもある」と強調する。
折りしも、ウォールストリート・ジャーナルは、米国農務省（USDA）が12日に発表した今年のトウモロコシ、大豆、ワタの収穫予想は、多くの農家が昨年よりもはるかに巨額の支払いを受け取るに十分な価格下落を引き起こす、一部政府筋は補助金支出（貿易歪曲的とみなされる）が過去最大であった2000年の229億ドルを優に超えるかもしれないと予想していると報じた。昨年は133億ドルにすぎなかった（Crop Forecasts Grow, Heralding a Climb In Subsidy Spending,WALL STREET JOURNAL,10.13）。米国がウルグアイ・ラウンドで約束した削減対象補助金総額（AMS）の最終的上限は191億ドルだ。
長官ならずとも、こんな政策は持続不能と考えるだろう。しかし、上院農業委員会議長のサクスビー・シャンブリスは、2002年農業法で既承認の補助金支出は、2007年の再承認に際して一切手をつけてはならないと長官に書簡を送りつけている（Don’t touch farm subsidies: Senate panel chief,The Financial express,10.14）。