ブラジル 綿花補助金紛争で対米報復措置発動へ WTO農業交渉阻害要因は積み重なるばかり

農業情報研究所(WAPIC)

05.9.24

 ブラジル政府筋の情報によると、ブラジル政府は綿花補助金貿易紛争にかかわる米国に対する報復措置ーWTOに保護された米国委の特許やその他の知的財産権な無視などと噂されているー発動 の承認を30日以内にWTOに申請することになりそうだ(Brazil to seek retaliatory rights against US at the WTO,Agencia Brazil,9.23)。

 WTOは今年3月、ステップ2と呼ばれる米国輸出または紡績企業に支払われる補助金(米国産綿購入を促す)、マーケット・アシスタント・ローン(収穫時に市場価格が予め定められた価格=ローンレートよりも低いときに生産者に暫定的に支払われるもので、生産者が商品販売なしで収穫時の現金の必要性を満たす)、カウンターサイクル支払い(CCC、補助金も含めた様々な農業の[ 品目横断的]全体所得が一定の目標を下回った場合に生産者に支払われる)などの補助金が国際市場価格を著しく歪曲するとして、WTO農業補助金ルールに違反するという最終的裁決を行った。

 米国はこれら補助金の6ヵ月以内の廃止を義務付けられ、米国農務省(USDA)は今年7月、WTO裁定に従って補助ルールの一定の変更を行うと発表した(USDA PROPOSES LEGISLATIVE CHANGES TO COTTON AND EXPORT CREDIT PROGRAMS TO COMPLY WITH WTO FINDINGS)。

 しかし、価格が下落するほど支払いが増え、価格下落の悪循環を呼ぶCCCに手をつけるつもりはない。ブラジルだけではなくEUやオーストラリアを始めとする多くの国・地域がWTO現行農業協定における削減約束の対象[イエローボックス]に含まれるとみなし、WTO裁定もそのようにみなしたこの補助金を削減約束の対象外と認めさせるために、ボックス規定の変更を現在の農業交渉で画策している。米国では2007-12年の農業支出の枠組みを決めるための関係者の広範な議論が展開中であり、有力ロビーの意を受けた議会がその廃止や削減を俎上に乗せることはあり得ない。政府の態度も当然だ。

 そのうえ、このような変更ルールさえも、議会に送られただけで、未だにその承認を得られない[ポートマン通商代表は、ハリケーン・カトリーナの為に議会の手続きが遅れているなどと弁明している]。そのために実施が期限切れとなり、ブラジルが報復実施の当然の権利を獲得した。

 ブラジル農相は、1999年から2002年までの米国の綿花生産総額は139億ドルだが、生産者に支払われた補助金の総額は125億ドルに上る、すなわち米国で生産される綿花の価額の90%が政府補助金だったと説明 する。

 米国政府は、ここでも議会に縛れらて補助金改革を実行できない。WTO農業交渉の大詰めを迎え、ブラジルが主導するG20は、国連における今月のブッシュ大統領の補助金撤廃の約束(他の国が市場アクセス改善を約束するかぎりでの)などますます信用できなくなるだろう。ブラジルが報復実施に踏み切れば、先進国 の国内助成の実質大幅削減、あらゆる形態の輸出補助金の5年以内の撤廃を農業交渉妥結の絶対的条件とするG20に対する米国議会の反発は一層強まろう。農業交渉はこれによってさらに前進が阻まれるだろう。

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