米国新農業法 年内成立は困難か 2002年農業法1年延長の声も

農業情報研究所(WAPIC)

07.11.19

  2週間のサンクスギビング休会を前にした先週金曜日(11月16日)、米国議会上院が多数派・民主党提案の2007年農業法案質疑打ち切り動議の採択に失敗した。

 2002年農業法は既に9月末で期限切れとなっている。下院は、これに代わる2007年農業法案を7月に採択した(米下院 潤沢な農業補助金を継続する新農業法案採択 与党共和党議員19人も賛成,07.7.28;米国下院農業委 新農業法案採択 貿易歪曲的国内補助金は削減せず,07.7.23)。

 上院農業委員会も、既に独自の農業法案を採択している。これは、直接支払の代わりに毎年1エーカーあたり15ドルを支払い、作物収入が平均以下に下がったならば追加支払をするといった若干の改革を織り込みながら、米、小麦、綿花、トウモロコシ、大豆などの主要作物生産農家には相変わらず大判振る舞いをする上に、バイオ燃料や果実・野菜への援助制度を新設、国内における飢餓人口の増加(ECONOMY-US: Hunger Stalks World's Wealthiest Country ,IPS,11.15)に対応するためのフード・スタンプ計画の拡充、子供の肥満と糖尿病の増加との戦いを助けるための小学校における栄養改善計画(果実・野菜消費の増大)などを盛り込んでおり、大筋では下院法案と変わるところがない。

 ところが、大量の財政支出を強要するこれら農業法案は採択されたとしても拒否権を行使すると脅かすブッシュ大統領の意を受けたものか、上院共和党は、不法移民の運転免許、最低代替税(高額所得者の節税策に歯止めをかけるための米国独特の税制)、再生可能エネルギーなどの農業法とは直接関係がなく、簡単には妥結できない問題に関する条項追加を要求、農業委員会採択案の本会議採択を延々と引き延ばしてきた。会期末が迫るなか、未決の重要法案は目白押し、民主党は、今年中の新農業法成立にはサンクスギビング休会前の質疑打ち切りが不可欠と動議を提出したわけだ。

 ところが、採択のためには60票が必要なこの動議は賛成55、反対42で否決されてしまった。これにより、新農業法案の年内成立が見通せなくなった。一体どうなるのか。

 2002年農業法は9月で期限切れとなったが、2008年の収穫までは、主要作物への補助金支払はこの法律に従って続けられる。しかし、湿地保全、草地保全など、他の小規模プログラムへの支出の法的根拠は失われている。さらに、2008年の収穫までに新法が成立しなければ、支出は1949年の恒久法のレベルにまで戻されねばならず、綿花や小麦への補助金は激増するが、当時は補助がなかった米などへの補助金はゼロとなる。米国農業界は大混乱に陥るだろう。

 一部下院共和党議員は、2002年農業法の1年延長をほのめかしている。しかし、バイオ燃料や果実・野菜への新たな支援やフードスタンプ拡充、果実・野菜による栄養改善計画の支持者はこれには我慢がならないだろう。

 (参考記事)
 Partisanship kills Senate farm bill,latimes.com,11.17
  http://www.latimes.com/news/printedition/asection/la-na-farmbill17nov17,1,6793122.story?ctrack=3&cset=true
 Farm reform fizzles in Congress,csmonitor.com,11.17
  http://www.csmonitor.com/2007/1116/p03s01-uspo.html

 米国農業政策の行方がこうも不透明では、それが鍵を握るドーハ・ラウンドの行方もますます不透明になる。早期妥結を目指すWTO交渉関係者も、そろそろサジの投げ時か。