米国農家 作物価格高騰で保全休耕地を耕作地に 09年までに日本の水田総面積分

農業情報研究所(WAPIC)

08.4.5

 世界的な需要増加で価格が高騰した穀物や大豆の生産を拡大するために、米国農民が600万エーカー(240万f、日本の水田総面積に相当する)もの保全休耕地を耕作地に組み入れることになりそうだ。

 保全休耕地とは、保全休耕プログラム(CRP)の下、農業生産者や土地所有者が政府との契約に基づく援助と引き換えに、土壌侵食が起きやすく、環境的に重要な作物用地や草地を10−15年間生産から引き上げ、草や樹木などを植栽した林野も含む土地のことである。1986年に導入されたCRPは、土壌浸食を抑えるだけでなく、野生生物保護、大気・水質の改善(それに過剰生産抑制も)などでも重要な役割を演じてきたとされる。米国農務省(USDA)によると、2005年、このプログラムのために17億ドルが支出され、対象面積は3,600万エーカー(1440万f)に達した。類似の休耕保全地域には、湿地保全プログラム(WRP)に基づく175万エーカー(70万f)の保全湿地もある。これは、とりわけ洪水防止や絶滅危惧種の保護で大きな役割を演じているとされる。

 http://www.ers.usda.gov/Briefing/ConservationPolicy/retirement.htm

 ところが、価格高騰で、休耕援助よりも作物生産・販売の方がはるかに儲かることになった。作物価格上昇とともに、農業者は契約が満期となる9月30日を機に契約解除に走るようになる。

 オーストラリアのマスコミ報道によると、昨年9月には200万エーカー(80万f)が保全区域から引き上げられたが、ジョン・ジョンソンUSDA農業支援プログラム担当次長は、08年9月には110万エーカー(44万f)、09年には300万エーカー(120万f)が引き上げれることになっていると言う。「これで、トウモロコシ、大豆から米、小麦に至るあらゆるものの価格が下がると期待される」ということだ。 

 US farmers look to forests to ease agricultural land shortage,ABC rural news,4.4
 http://www.abc.net.au/rural/news/content/200804/s2207742.htm

 しかし、こんな土地で耕作を続けるのは、土壌流亡でいずれ不可能になる。先のUSDAのデータによると、CRPをやめると、土壌流亡は年に1億2000万トン(風で60%、水で40%)増える。野生動物減少も避けられないだろう。例えば野鳥の数。1991−1995年、中西部6州のCRP保全地内の数は、作物地内の数の1.4倍から10.5倍だった。アイオワでは、CRPの最初の5年間でシナキジの数が30%増えた。

 WRPがなくなれば洪水も増える。耕作地となれば、それまでなかった肥料・農薬による汚染も起きる。温室効果ガスの吸収・貯留が減り、排出が増える。価格高騰の一因をなすバイオ燃料の利用増大で取り戻せない大気中温室効果ガスの増加が起きる可能性もある(バイオ燃料→土地利用変化で温暖化ガスが激増 森林等破壊防止規制も無効 新研究,08.2.9)。

 大量の戦費をCRP、WRP援助単価の大幅増加に振り向けないかぎり、破滅への道をまっしぐらだ。問題は食料品価格高騰だけではなく、環境と農業・食料生産の長期的持続可能性にかかわる。