農業情報研究所農業・農村・食料北米ニュース:2015年12月18日

米国で急増する非GM・有機食品需要 国内供給体制が追いつかない 日本は何を目指す?

  フィナンシャル・タイムズ紙の報道によると、非GMO食品、有機食品、化学肥料・農薬不使用など「クリーン」な食品を求めるる米国消費者が急増している。2014年の有機食品販売額は360億ドル(4.3兆円)で2007年から倍増している。非GMO認証食品販売額は2013年以来3倍増、今年は9月までに150億ドルに達した。

 しかし、米国にはこうした需要増加に応える供給体制ができていない。食品店で売られる卵、肉、乳製品のほとんどがGMOで作られた飼料で育てられた鶏、七面鳥、豚、牛からの産物だ。米国で生産されるトウモロコシ、大豆などの飼料主原料は、ほとんどがGM作物だ。

 こうした需要を満たすために、インド、アルゼンチン、東欧などからの有機飼料用コーンや大豆の輸入が急増している(下図)。カーギル、ADM、ブンゲなど穀物メジャーも対応に乗り出した。

 供給不足で有機飼料用コーン・飼料用大豆・食品用大豆の価格は通常品の2.5-3倍に跳ね上がっている(下図)。

 価格暴落の折(穀物・大豆等先物(期近)価格の長期推移)、米国農民には有機への転換の好機に見えるが、有機認証は転換後3年経たないと受けられないという米農務省のルールのために、そんな長期投資にはなかなか踏み切れないという。

 Traders catch the natural foods bug,FT.com,15.12.17

 US cosumers catch the natural foo0ds bug,Financial Times,15.12.17,p.17

 ヨーロッパでもアメリカでも、農業・農政の潮目は変わりつつある。人口減やエンゲル係数低下で食品需要の伸びが頭打ちとなった先進国では、「近代化」(アメリカ化)が目指した安価な標準的産品の大量生産では農業の成長は見込めない。高価でも消費者が歓迎する安全や環境を重視した特別な品質を持つ産品の生産を重視する流れが定着してきた。

 今、先進国では日本だけが、なお「近代化」の夢を追いかけている。政府・与党は、野菜・果実の「産地パワーアップ事業」、「畜産クラスター事業」、農地・草地の大区画化などの「農業農村整備事業」など、要するに「近代化」のために大枚をはたくそうである。環境に優しい生産方法で生産される安全で高品質な産品の促進、そんな発想は微塵もない。それでいて輸出は大幅に増やすという政府の「成長戦略」は、まさしくヨーロッパの正反対を行っている(センサスに見る日本農業 仏の成長戦略に倣うべき)。農家も、飼料用米を作るぐらいなら(生産量は減るかもしれないが)有機米を作る、そういう発想の転換が必要ではないか(飼料用米ほど巨額な国の助成はないが)。生協もこめ豚なんかでなく、有機米をこそ応援すべきである。大規模化・コスト削減ではなく、それこそが稲作の未来を拓くであろう。有機食品市場は世界にも開けている。

 関連ニュースと注釈

 有機栽培が拡大 15年面積10%増 消費伸び 追い風 フランス 日本農業新聞 15.12.13

 フランス 有機農業が大躍進 有機農地面積は英独を抜いて欧州第3位に,15.2.19(農業情報研究所)

 Organics only bright spot for German farmers,Deutsche Welle,15.12.10(ドイツ農民 有機農業だけが希望の灯)

  EU及びEU諸国では有機農業をはじめとする環境に優しい農業には「環境支払」などの特別な支援がある。また、フランスのように、 公共食堂や給食に一定の有機食材使用を義務付ける等の消費市場拡大策を講じている国もある。

 日本でも最近、「環境保全型農業」に対する直接支払が導入されたが、支払の対象は、基本的には「自然環境の保全に資する農業の生産方式を導入した農業生産活動の実施を推進する農業者団体」に限られる。個別農業者がこの支払を受けるためには当該活動の「実施面積が自身の耕作する農業集落の耕地面積の概ね1/2以上又は全国の農業集落の平均耕地面積の概ね1/2以上」でなくてはならないという、ほとんど禁止的な制約がある。これが近隣の農地・農家に配慮した「日本型」直接支払と言われる所以である。

 しかし、実のところ、有機農地の隣の普通農地が有機農地で発生した病害虫に襲われたり、有機農地に普通農地で撒かれた農薬が飛来したり、GM作物とのコンタミが起きたり、そんなトラブルは外国でもよくあることだ。それで有機農業禁止など、聞いたことがない。日本の有機農業発展を阻んでいるのは、ことなかれ主義の「日本的」お役人のかたくなな発想に基づく「日本的」規制かもしれない。