EU農相 有機食品統一表示で意見分裂 一部はGMOゼロを主張

農業情報研究所(WAPIC)

06.5.26

 5月22日に開かれたEUの農相理事会が、有機食品のEU規模の新たな表示計画をめぐる意見の分裂を露呈した。問題は遺伝子組み換え体(GMO)の扱いにもかかわる。

 European Council Press release: 730th AGRICULTURE and FISHERIES Council meeting - Brussels, 22 May 2006 ,5.23
  http://www.consilium.europa.eu/ueDocs/cms_Data/docs/pressData/en/agricult/89691.pdf

  この日の会合は、有機食品・農業に関する現在の法的枠組を簡素化し、規則(法律)とその実施ルールの全体的整合性を確保するためのヨーロッパ行動計画(欧州委員会、EU有機農業アクション・プランを提案、GMO汚染基準は通常農業並み,04.6.12)に関する理事会の05年10月の結論を受けて欧州委員会が12月におこなった二つの提案を論議したものだ(欧州委員会 有機生産に関する新規則案採択 0.9%までのGMO混入を容認,06.1.10)。

 欧州委員会は、新規則は有機生産の目的と原則を定めるが、気候やその他の条件の地域的相違を考慮する一定の柔軟性を許すとしていた。生産者はEUのオーガニックロゴを使うかどうか選択できる、もしこれを選択しない場合には”EUオーガニック”の表示をせねばならず、このように表示するためには少なくとも最終製品の少なくとも95%がオーガニックでなければならないとしていた。

 また、GMOを含む製品は、GMOの偶然の混入のレベルが0.9%を超えない場合にのみオーガニックの表示ができるとしていた。

 さらに、輸入に関しては、EU域外の国の完全に要件を満たすか同等の有機製品のEU市場への直接アクセスを基本とする永久的輸入ルールの開発を目指すが、現在の一定の輸入に関する規程が2006年12月で期限切れとなることからくる国際貿易の混乱を回避するために、個別製品について加盟国が輸入許可を与える現在の制度を新たな制度が設置されるまで継続すると提案していた。

 この日の議題とされたのは、@加盟国は欧州委員会の一般的方針に合意するかどうか、A大規模配膳業・食堂も提案された規則の対象をなすべきか、それとも加盟国のルールに任せるべきか、BEUロゴや”EUオーガニック”表示を義務とすべきかどうかの3点である。

 @に関しては、一部閣僚は、有機生産者の過大な行政負担のリスクに懸念を表明、また表示やロゴのルールを消費者の誤解を招かないように明確にする必要があると主張したが、大多数の閣僚は提案で述べられた簡素化、調和、近代化の目標を支持したという。

 Aについては、大多数は大規模配膳業・食堂も規則の対象に含めることを支持した。しかし、一部は、この部門には特別のルールを適用する必要があると主張、あるいは国家ルールの策定の重要性を強調した。一部閣僚は、この部門を規則の対象から外すこと求め、権限は加盟国に委ねるべき、トレーサビリティーのルールのこの部門への適用は非常に困難だなどと主張した。

 マリアン・フィッシャー=ボエル農業農村開発担当委員は、多数派の意見に配慮しつつも、追加行政負担を作り出さないことが必要だし、この部門はより包括的な食品・飼料の関する規則でカバーできないわけではないと、この規則の適用範囲から除外する意向を示した、さらに加盟国のコントロールの利用も可能としたという。大規模食堂ではEUレベルの統一ロゴ・表示は実現しそうにない。

 Bについては、大多数が義務化を支持できるとしたが、それでもその中の一部は、このようなロゴが消費者の誤解を招いてはならず、製品の中身に関する明確な情報を提供せねばならないと強調したという。また、他の一部は義務的なEUロゴよりも、自主的なロゴか表示を支持した。

 この日予定された議題ではなかったが、いくつかの国(公式には明らかにされていないが、ベルギー、オーストリア、イタリア、ギリシャという情報がある)は、GMOの偶然の混入のレベルが0.9%を超えない場合にのみオーガニックの表示ができるという提案に反対を表明した。これらの国は、有機製品に含まれるGMOのレベルは事実上ゼロとする新ルールを要求した。

 ボエル委員はオーガニック市場は成長を続けており、消費者に確かな品質の製品を提供するためには共通のルールが必要と強調するが、EUロゴやEUレベルの統一表示は、既に自国の表示に馴染んでいる消費者を混乱させるだろう。有機基準も国ごとに異なるのだから、統一表示では消費者は製品の中身を正確に知ることができなくなる。増して、GMOに対して厳しい態度を取り続ける一部の国は、有機製品にGMOが含まれることを絶対に認めないだろう。しかし、統一表示では、GMOが含まれるのかどうかも判断できないことになる。

 この会合では、GM作物と非GM作物の共存問題も議論された。これについてはここでは詳述しないが、議長のオーストリア農相は、閣僚はGMOフリーの方法を続ける農民 を熱意をもって保護 することに合意したと言う。ポーランド、オーストリア、フランス、ルクセンブルグ、ハンガリー、ドイツは、この問題に関するルールの欠如に懸念の声をあげた。欧州委員会に対しては、とりわけ最終製品のGMO混入レベル上限を容易に順守できるような方法で種子のGMO混入レベルの上限を設定するように要請した。最終製品に0.9%までの混入を許すことを前提として種子への一定の混入を許容する欧州委員会の現在の構想では”共存”の確保は難しいし、とりわけGMOゼロを基準とする有機農業との”共存”は最初から不可能になる。

 GM作物がひとたび国の食品生産に入り込めば、様々な農場の作物が食品生産過程に入ることになり、GMフリーを維持することは困難になるか、大変なコストを要することになる。小規模農業が支配的な多くのヨーロッパ諸国では、近隣農場との間にバッファーゾーンを作ることも難しい。

 従って、GMフリーゾーン設立の動きが各地に広がっているが、とりわけギリシャでは、今までに54の県がGM種子の輸入と販売を禁止している。ポーランド政府も最近、16種のGMトウモロコシ種子の輸入と販売を禁止した。これら種子は国土のいかなる地域でも栽培に不適であると、GMフリーゾーンを認めない欧州委員会に対して国家レベルでの禁止を要求している。

 欧州委員会は、有機農業に関する問題の年内決着を望んでいるが、このようなGMOに関連した問題もかかわる以上、早期決着はありそうもない。