中国は食料生産アウトソーシングの流れに乗らない 世銀は海外農地投資行動規範

農業情報研究所(WAPIC)

09.4.21

  中国は、海外農地投資、特にアフリカの農地への投資によって食料生産をアウトソーシングする世界の”トレンド”には乗らない、そのような協定で食料安全保障が改善できるかどうか疑わしい。中国農業部の危朝安副部長が4月20日、イタリアでのG8農相会議の傍ら、フィナンシャル・タイムズ紙に対してそう語ったそうである。

 副部長は、中国政府は海外の土地に投資しているサウジアラビア、韓国などと距離をおき、自国の農地で穀物自給を維持する方を選ぶ、「我々は、自身の食料安全保障を他国に依存することはできない」と語ったということである。

 China rules out pursuit of African farmlandm,Financial Times,4.20,p.3
  または
 China rules out pursuit of African farmland,FT.com,4.20
 http://www.ft.com/cms/s/0/9d2cdee8-2dcf-11de-9eba-00144feabdc0.html  


 アフリカに関するかぎり、中国(政府・民間)が確保している穀物生産用地は、(筆者=農業情報研究所が把握しているかぎりで)ウガンダに4,046f(米・トウモロコシ)、タンザニアに300f(米)、カメルーンに1万f(米)と少なく、これらの契約も高収量稲作技術の移転の色彩が強い。ラオスの70万5000fは主としてエタノール生産用キャッサバ、フィリピンの124万fはエタノール関連のトウモロコシ・サトウキビ・ソルガムがかかわり、これらも穀物のアウトソーシングが狙いとはいえない。従って、副部長の言明は現状にもかなっているように見える。

 しかし、ロシアの8万400fやカザフスタンの7,000fは、中国が大量の輸入(世界総輸入量の半分にも達する)に頼る基礎食料資源である大豆を生産するためのものだ。中国は、今もブラジルを含む世界中に大豆生産用地を物色している。

 この基礎食料(食用油)の輸入と加工のほとんんどを世界市場―従ってカーギル、ADM、ブンゲ、ルイ・ドレイヒュスの4大穀物メジャー―に頼ることが食料安全保障をいかに危うくさせるか、最近の大豆(及びパームオイル)の国際価格の暴騰で、中国はいやというほど知らされた。

 とはいえ、その国内生産による自給は不可能だ。それを達成しようとすれば、現在の穀物生産用地を大量に犠牲にせねばならず、今度は穀物自給が不可能になる。

 (中国が穀物自給率を100%に維持できているのは、大豆を大量に輸入しているからだ。日本はトウモロコシ・小麦のほとんどを輸入に頼ることで穀物自給率が30%を割るほどに落ち込み、その上、大豆もほとんどすべてを輸入に頼っている)

 つまり、海外農地なしで穀物自給は維持できるかもしれないが、食料安全保障は維持できないということだ。


 ともあれ、副部長の言明にもかかわらず、中国の海外農地漁りは今後も続くし、世界の農地争奪はますます激しくなる恐れがある。

 フィナンシャル・タイムズ紙の同じ記事によると、世銀のユルゲン・フォーゲル農業部長は、海外農地投資の行動規範を来月にも発表すると語ったそうである。その狙いは、そうした協定を支持することでも批判することでもなく、ホスト国と投資家が最高の利益を得るように助けること、それは長期的持続可能性と社会・環境影響に関する指針を提供するという。「これは白黒の問題ではない」というわけだ。

 同時に、国連食糧農業機関(FAO)も、今年7月ごろ、この問題を論議する会合を召集すると表明したということである。

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