日本政府も”世界農地争奪”に参戦 国内耕作放棄地の回復など愚の骨頂?

農業情報研究所(WAPIC)

09.4.22

  農水省と外務省が、「食料安全保障のための海外投資促進に関する会議」を発足させた。

 「国際的な食料需給が長期的にひっ迫基調にある中、食料を安定的に国民に供給するためには」、「国土資源の制約から」、「海外農業投資の促進のための施策の検討が急務である」、「民間企業の一部で海外農業投資を行う動きが見られるものの、個々の主体の活動には限界があり、官民を挙げて総合的に取り組む必要がある」という。

 ただ、「国際的な批判を受けることがないよう、投資受入国も十分に裨益する等、国際的に推奨し得るかたちで進める必要がある」のだそうである。

 「食料安全保障のための海外投資促進に関する会議」の発足について 農林水産省 4.21
 http://www.maff.go.jp/j/press/kokusai/renkei/090421_1.html

 とうとう、日本も”世界農地争奪”に国を挙げて参入することになった。これで、国内に存在する大量の耕作放棄地の回復に国を挙げて取り組むなど、愚の骨頂ということになるだろう。日本の農業と農村はますます荒れ果てる。

 貧しい国の農民は既存農地・開発可能地と死活的に重要な水を外国企業に取り上げられる。導入される近代的大規模機械化学農業は、農業の持続可能性と生態系を破壊する。生産される食料は日本に持ち帰る(そうしなければ投資した意味がない)のだから、貧しい国の食料安全保障もますます脅かす。

 中国も言うように、「自身の食料安全保障を他国に依存することはできない」、「海外の土地に投資しているサウジアラビア、韓国などと距離をおき、自国の農地で穀物自給を維持する方を選ぶ」必要がある(→中国は食料生産アウトソーシングの流れに乗らない 世銀は海外農地投資行動規範,09.4.21)。さもないと、(例えば中国から)「新植民地主義」の非難さえ受けかねない。

 ちなみに、今年4月5日(日)付の日本農業新聞に掲載されたこの問題に関する筆者の見解の一部を再掲しておく。

 「世界穀物・食料品価格が高騰、高止まりする中で国の食料安全保障に不安を抱く豊かな食料輸入国や農業生産資源不足国の海外農地・農業投資熱」が高まるなか、「一部のマスコミや識者は「日本の出遅れ」と声を上る。その背後には、食料自給率40%の国が食料争奪にも農地争奪にも敗れたのでは、食料安全保障が危ういと危機感がある。しかし、世界農地争奪戦への参入は慎重を要する。投資国のしばしの食料安全保障に貢献するかもしれないが、被投資国の食料不安、農村の貧困、環境破壊をますます助長する恐れがあるからである。

 国連食糧農業機関(FAO)のジャック・ディウフ事務局長も、こうした動きは、「植民地的主義的」な不平等 な国際関係と短期的な利益本位の農業につながる恐れがあると言い始めた。投資国が取得し、巨大規模農業を営もうとする土地は、多くの自給的小農民が生計を頼む既存の農地である。外国投資は、この土地を取り上げ、彼ら追い払うか、せいぜい賃金労働者に変えるだけである。これらの土地は、遊牧民が生活の場とする広大なサバンナ(草地)でもある。その大規模農場化は、彼らの生活の破壊だけでなく、遊牧文化の消滅にもつながる。サウジアラビア企業が進出するインドネシアの米生産団地は、熱帯雨林を破壊して開発される。それは生計を森林に依存する多くの先住民の生活の場を奪い、大洪水・土砂崩れ・干ばつなどの大災害と地球温暖化をますます助長する。

 日本の食料安全保障にもほとんど貢献できないだろう。日本の食料自給率を40%にまで引き下げている最大の要 因は、毎年1600万ッ(米の倍)にも及ぶ飼料用トウモロコシの輸入だ。これだけのトウモロコシを生産するためには、アメリカ並みの1f当たり10トンの高収量を想定してさえ、160万fの農地が必要だ。日本の現在の平均収量な ら、さらに多くの農地が必要だ。国内の耕作放棄地40万fを全部動員しても全然足りない。海外にこんな農地を確保するのも非現実的だ。確保できても、その社会・環境悪影響は測り知れない」。

 食料自給率が心配ならば、何よりも1600〜1700万トンものトウモロコシの輸入を必要とする工業畜産と食生活を改めねばならない。