国際食料政策研究所 外国土地投資行動規準 投資相手国からの輸出禁止も

農業情報研究所(WAPIC)

09.4.30

  国際農業研究協議グループ、64ヵ国政府、民間諸財団、国際・地域諸機関の支援を受ける国際食料政策研究所(IFPRI)が4月29日、2007-08年の穀物等食料作物価格の高騰とそれに伴う食料危機が爆発的に増加ざせた「外国投資家による途上国における”土地横取り”(Land Grabbing)」の「リスクと機会」を分析、外国土地投資に関する行動規準を提案する”政策ブリーフ”を発表した。

 http://www.ifpri.org/pubs/bp/bp013.asp#fn1

 それによると、豊かな資金は持つが土地や水に制約がある食料輸入国(湾岸諸国など)、人口規模が大きく・食料確保に不安を覚える国々(中国、韓国、インドなど)による食料生産確保のための海外農地投資が急増している。投資は、主に生産コストが低く、土地や水が豊かな途上国に向けられている。投資先の選定は、地理的な近さや基礎食料作物に適した気候条件によっても左右される。さらに、多くの国がバイオ燃料生産のための土地も求めている。

 多くの政府が直接にか、国家所有企業・半官半民企業を通して、耕地貸借・譲渡・購入契約(協定)を交渉しており、既に結ばれた契約も多い。ブリーフは、マスコミ等のニュースなどから拾い上げた交渉中・締結済み・中断中合わせて60近くの契約の一覧を掲げる。この一覧表から面積が判明しているものだけを取り上げても、対象面積は2000万fを 軽く超える(イギリスの国土面積に匹敵、日本の全耕地面積の4倍以上)。10万fを超える案件を掲げると次のとおりだ(面積単位は1万f)。 

投資国

対象国

面積

作物(企業)進捗状況

中国

コンゴDR

280   

バイオ燃料用オイルパーム(ZTE International

ザンビア

200  

バイオ燃料用ヤトロファ 交渉中

フィリピン

124  

条件・合法性・食料不安による反対で中断(不明)

韓国

スーダン

69  

小麦 締結済み

マダガスカル

130  

トウモロコシ・オイルパーム(大字) 中断

日本

ブラジル

 10

大豆(三井)実施中

ベトナム

カンボジア

    10

ゴム

ラオス

10

ゴム

サウジアラビア

インドネシア

 50  

米(Bin Laden Group)中断

タンザニア

 50  

貸与交渉中

エチオピア

 ?  

1億ドル投資と引き換えに土地貸与(不明)

UAE

パキスタン

 32.4 

購入(Abraaj Capital)実施中

スーダン

 30

実施中

スーダン

 37.8  

 

カタール

フィリピン

 10

貸与

リビア

マリ

 10

米 締結済み

ウクライナ

 24.7 

締結済み

南ア

コンゴ共和国

 1000

Agriculrure South Africa

米国

スーダン

 40 

Jarch Capital)締結済み

イギリス

ウクライナ

 10 

Landkom)実施中

デンマーク

ロシア

10 

Trigon)実施中

スウェーデン

ロシア

12.8

Alpcot Agro)実施中

ロシア

33.1

Black Earth Farming)実施中

  このような大規模な土地の取得は何をもたらすのか。ブリーフによれば、貧しい途上国の農業と農村地域が希求する投資をもたらす可能性があるが、現地の人々の生計と生態系の持続可能性を脅かすリスクもある。

 土地貸借協定が農村開発投資を定める場合にさえ、投資者が格段に強い交渉力を持つために、特にその要求が受入れ側の国や地方のエリートに支持されるときには、地方コミュニティは不平等な条件を押し付けられることになる。移住を余儀なくされる小規模土地保有者は、こういう強力な国家的・国際的当事者との協定に際しては自分に有利な条件を交渉もできなければ、外国投資家が約束の仕事や施設の供給を怠っても泣き寝入りするしかない。

 小規模保有者が正式の土地所有権を持たず、慣習的取り決めで土地を利用していること場合には、こういう交渉力の不平等がさらに増幅される。正式には国家が土地の所有権を持つことが多いから、貧しい人々は、何の相談も補償もなく、土地から追い出される恐れがある。非生産的とか低利用とかいった土地の原状を理由に土地の貸与が正当化されることも多いが、こういう土地は貧しい人々が放牧や薪・薬草木の採集のために利用している。これらは、貧しい人々には貴重な生計の糧だが、販売されないために公式のアセメントでは過小評価される傾向がある。大規模な土地取得は、このようなタイプの土地と水の利用が果たすセーフティーネット機能を奪うことで、彼らの福祉をさらに危険にさらす。

 大規模外国投資で導入される集約的農業生産は、生物多様性、炭素ストック、土地・水資源への脅威にもなる。森林や放牧地のモノカルチャー農地への転換は、植物相・動物相の多様性や農業生物多様性、地上・地下の炭素ストックを減らす。多くの熱帯土壌は集約的耕作に適さないし(これは多くの熱帯地域における長期の休閑・耕作サイクルの理由である。土地が”低利用”のわけではない)、集約的耕作のための十分な水もない。肥料と灌漑の利用でこのような制約を克服できるかもしれないが、それは塩化、浸水、土壌侵食などの長期的な持続可能性の問題につながる。

 外国投資家が短期的利益を優先し、あるいは地方のエコロジーの十全な理解を欠けば、このような問題が起きる可能性が高い。外国投資家保有地への灌漑は、地域の他の利用者や環境から水を奪い、化学肥料・農薬の大量の使用は地下水・地表水の水質を悪化させる。

 こうして、

 @交渉の透明性(十分な情報に基づく事前の自発的同意、特に先住民やその他の周辺民族グループの権利の保護)、

 A(慣習的なものも含む)既存の土地に対する権利の尊重

 B利益の共有(地方コミュニティは外国農業投資から利益を得ねばならず、損することがあってはならない)、

 C環境的持続可能性(土壌劣化、生物多様性減少、温室効果ガス排出増加、他の人間と環境の利用からの水の大きな転用を防ぐ健全で持続可能な農業方法を確保するために必要な注意深い環境影響アセスメントとモニタリング)、

 D国家貿易政策の尊重(干ばつなどで国家食料安全保障が危機にあるときには国内供給を優先すべきである。受け入れ国が食料危機の期間、外国投資家は輸出する権利を持つべきではない

 の確保を核とする外国土地取得に関する行動規準を提唱する。 


 先に伝えたように、日本政府も外国農地の”横取り”に乗り出した(日本政府も”世界農地争奪”に参戦 国内耕作放棄地の回復など愚の骨頂?,09.4.22)。

 外国農地を購入、賃借する企業に政府所有銀行からローンを提供することを考えているらしい。

 投資相手国候補はラテンアメリカ(ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ)、中央アジア(カザフスタン)、東欧(ウクライナ、ルーマニア、ハンガリー)、これらの国の農地で、国内耕地では国民の需要を到底満たせないトウモロコシ、大豆、小麦の供給を確保するのだという。

 Japan to Promote Farm Investment Overseas for Food Security,Bloomberg,4.27
 http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601012&sid=akj4F3JyDUrI

 アフリカ諸国は含まれないとはいえ、提唱された行動規準の遵守は至難の業だろう。目的達成のためには、大量の土地が必要になる。多くの土地・水紛争が予想される。森林や草地の開拓もあり得るだろう。大規模集約農業も不可避だ。日本がそこで生産したトウモロコシや大豆や小麦なしではやっていけないような世界的食料危機のときには、これらの国も同様な事態になっているだろう。行動規準に従えば、日本に輸出することは許されない。何のための海外農地取得なのだろうか。生産調整水田のフル利用や耕作放棄地の回復に全力を上げる前に、何故外国農地に食指を動かすのだろうか。