食糧安全保障のための外国農地”収奪” FAOが待望の報告発表へ

 農業情報研究所(WAPIC)

09.5.25

 国連食糧農業機関(FAO)が5月25日、昨年来予告していた(1)食料輸入国や自国の食糧安全保障に不安を抱く国々の政府や企業による外国農地取得の動きに関する初めての報告を発表する。

 (1)G8農相会合 富裕国による貧しい国の土地・資源収奪を助長?,09.4.20;FAO事務局長が食料”新植民地主義”に警告,08.8.25

 フィナンシャル・タイムス紙が事前に入手したこの報告は、FAO、国際農業開発基金(IFAD)、国際環境・開発研究所(IIED)の共同執筆になるもので、昨年10月のNGO・GRIANの報告(2)、今年四月の国際食料政策研究所(IFPRI)の報告(3)に倣い、このような最近の外国農地取得を、やはり「土地収奪(land grab)」と呼んでいるようだ。報告書のタイトルは、「土地収奪、それとも開発機会?」(Land Grab or development Opportunity?)だそうである。

 (2)Seized: The 2008 landgrab for food and financial security;http://www.grain.org/briefings/?id=212

 (3)国際食料政策研究所 外国土地投資行動規準 投資相手国からの輸出禁止も,09.4.30

  GRAINにしても、IFPRIにしても、外国農地取得に関する交渉過程や約定の内容が公式に発表されることは皆無という状況のなかで、これに関する情報をすべてマスメディアに頼るほかなく、これらの農地取得の合法性(4)や社会・環境影響を確たる・詳細な事実に基づいて分析し、評価する術を持たなかった。FAO等の報告がこの問題をどれだけ克服しているかは、これを書いている報告書の正式発表が未だない現時点(日本時間:5月25日:11.00)では分からない。ただ、執筆機関の顔ぶれからすれば、恐らくはマスメディアの情報以上の経験的現実を把握していることは間違いないだろう。

  (4)国際持続可能な発展研究所(IISD)の最新報告が、とりわけ水に焦点を当ててこの問題に取り組んでいるが、何よりも、国内法・国際投資約定・国際投資協定(二国間協定、地域協定などによる)に照らして合法・非合法を評価できるほどの約定内容や現実に関する情報が欠如していると言う。
 Carin Smaller and Howard Mann,A Thirst for Distant Lands:Fereign investment in agricultural land and water,IISD,09.5
  http://www.iisd.org/pdf/2009/thirst_for_distant_lands.pdf

 フィナンシャル・タイムズ紙によると、報告は、アフリカ諸国は、ほとんど無料で、雇用確保とインフラ投資の曖昧な約束と引き換えに、広大なの農地を外国と投資家に譲り渡していることを確認している。「事実上、ほとんどすべての約定」は、「取引の経済的現実に比べて驚くほど短く、単純」であり、雇用やインフラに関する投資家の約束の遵守を監視あるいは確保するメカニズムを強化する、「政府収入を最大限にする」、あるいは(双方の)「食糧安全保障の釣り合いを取る」などの問題は、無視されているわけではないが曖昧な規程で処理されている」というのが結論だそうである。 

 報告は、貧しい人々が農地と水へのアクセスを失うリスクも指摘しているという。

 African nations giving away land almost for free,says UN report,Financial Times,5.25,p.1
 Africa almost giving land away, says UN,FT.com,5.24: 22:05
 http://www.ft.com/cms/s/0/612aa510-488c-11de-8870-00144feabdc0.html?nclick_check=1

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  African land grabs for food security not profit,says UN,Financial Times,5.25,p.3
  Riyadh paves way for foreign ventures,Financial Times,5.25,p.3
  Riyadh paves way for foreign ventures,FT,5.24
  http://www.ft.com/cms/s/0/1dc63c04-488b-11de-8870-00144feabdc0.html
 

 土地を差し出す側の国の利益が必ずしも保証されないばかりか、取得される土地で暮らす貧しい人々は、生きていくために欠かすことのできない資源―土地・水・草木など―を、何の補償もなく、(取得国政府・企業とこれを受け入れた国の政府や有力者により)一方的に「収奪」される恐れがある(というより、そうなる場合がほとんどだ)ということであろう。

 そうであれば、このような「土地収奪」はどのようにして防ぐのか。報告書の正式発表が待たれるが、IPFRIのような「行動規範」の提唱に終わらないことを期待したい。このような行動規範はどうしたら遵守できるのか。あるいは、「行動規範」を遵守した・食糧安全保障に意味あるほどの貢献をする大規模(数千〜数百万f)な土地取得など、そもそもあり得るのか、それが問題だ。

 ”不毛”とされてきたブラジル・セラードでさえ、今や比類のない豊かな生態系を持つことが明らかにされている。これを一面の大豆畑に変えるとすれば、IPFRI行動規範が回避すべきと言う「土壌劣化、生物多様性減少、温室効果ガス排出増加・・・」などの環境影響は避けがたい。日本政府の「食料安全保障のための海外投資促進に関する会議」が、日本の進出先としてブラジル・セラードに照準を定めようとしていることには( 第2回「食料安全保障のための海外投資促進に関する会議」(幹事会)の開催について 農林水産省 5.21)、重大な懸念を表明せざるを得ない。