日本 モザンビーク農業開発協力を本格化 アフリカ農地争奪戦で一角確保?

農業情報研究所(WAPIC)

10.3.18

 日本農業新聞(3月18日 第3面)によると、日本、ブラジル、モザンビークの3ヵ国の関係者でつくるモザンビーク農業開発プロジェクト調査団や国際協力機構(JICA)、3ヵ国政府が連携し、2015年からモザンビークの農業開発を本格的に進めるそうである。JICAが17日、都内で開いた食料問題に関するシンポジウムで、同調査団の松本計司団長が報告した。世界規模で農地争奪が進む中、アフリカの食料自給率向上、農家所得の増大に取り組むという。

 日本はブラジルのセラード開発に協力、ブラジルを世界有数の農産物輸出国にのしあげるのに貢献した。セラード開発の経験を同様な自然条件のモザンビーク熱帯サバンナの開発に生かすということのようだ。「食料の需要増に伴い世界各地で農地の争奪が進み、日本の食料の確保も課題になっているため、モザンビークでの農業開発に着手することになった」という。

 「アフリカの食料自給率向上、農家所得の増大」を目指した農業開発協力を本格化させることで、将来の日本の食料安定確保のための農地をアフリカに確保しておこうという戦略に見える。まごまごしているとアフリカ農地争奪戦から完全に締め出されてしまうという焦りがこういう行動に走らせたのだろう。

 ただし、セラード開発に倣ったブラジルと組んでの農業開発となると、その方向性は決まったようなものだ。つまり、モノカルチャー大規模プランテーションによる輸出農業開発だ。それがアフリカの食料自給率向上、農家所得の増大(農村の貧困軽減)に本当に役立つかどうか、大問題だ。逆に、現地社会・食料・環境に破滅的影響を及ぼす危険性もある。

 自国の食料を確保するための海外農地争奪が始まってまもなく、世銀は、公的国際機関としていちはやく、多くの途上国指導者にとりついた「農業近代化とは小規模農家から大農場への移行」という「神話」に警鐘を鳴らした。彼らは、機械化され・化学化された大規模農業だけが、途上国の農業生産性を引き上げ、食料安定確保と貧困軽減を可能にする考える。金持ち国の農地農業投資は、それが自国の食料確保を目的とするものであれなんであれ、これを実現する絶好のチャンスと捉える。

 他方、投資する側も、自国の食料安全保障や世界市場での販売を目的に穀物等の大量生産品を最も効率的に生産するためには、機械化・化学化大規模モノカルチャーしかありえないと考える。必然的に、巨大規模の土地を取得し、木や草はすべて刈り払い、モノカルチャー巨大農場の造成が目指されることになる。

 ところが、世銀は、「世界全体を見れば、家族農業のほうが賃労働によるプランテーションよりはるかに効率的」で、「小規模生産は大規模機械化農業では見られない大きな雇用効果がある、貧困軽減には雇用効果は決定的に重要だ」と述べる。そして、小規模農業に基づいて成長した中国は貧困人口を減少させることに成功したが、大規模機械化農業を基礎に成長したブラジルでは農村の貧困人口が増加したではないかと言う。

 Foreign Investment in Agriculrure Production:Opportunities and Challenges,World Bank,January 2009
  http://siteresources.worldbank.org/INTARD/Resources/335807-1229025334908/ARDNote45a.pdf

 さらに、西アフリカ・セネガルからスーダン南部、ウガンダ、タンザニアを通り、南アフリカまで南下する6億ヘクタールのギニアサバンナ地帯には4億ヘクタールの農業適地があり、大量生産商品作物の世界的生産地域になる能力があるとした最近のFAO(国連食糧農業機関)と世銀の共同研究は、公平な開発と社会的紛争の回避を目指すならば、ブラジルで起きたような富裕な農業者が主導する大規模農業よりも、タイで起きたような小規模土地保有者が主導する農業変革の方が望ましいモデルとなると結論している。

 Awakening Africa's Sleeping Giant: Prospects for Commercial Agriculture in the Guinea Savannah Zone and Beyond,June 2009, Food and Agriculture Organization , World Bank
  参照:
アフリカ・ギニアサバンナの4億fに商業農業の機が熟す 大規模集約農業には要注意,09.6.26

 そのうえ、このような農業の開発は、小農民が多様な作物を作る既存農地、現地住民が生活手段を調達し、水源涵養・洪水防止・土壌保全・炭素貯留などの自然のサービスを提供する森林や原野を一面のトウモロコシ畑、大豆畑、小麦畑に変えることを意味する。これら農地が住民や環境から水を奪い、汚染し、洪水を頻発させ、土壌侵食を促し、これまで地上・地下に貯留されてきた炭素の放出で温暖化を速める。その環境影響は測り知れない。

 そうなれば、FAO/世銀の共同研究が指摘したような、この地域の農業開発の可能性も潰れてしまう。取り返しがつかなくなる前に、計画は中止せねばならない。

  関連情報
 Japan International Cooperation Agency development model to encourage increased agricultural production in Africa,JICA News from the Field,10.3.17
 http://www.jica.go.jp/english/news/field/2009/20100317_01.html

 (「アフリカの農業生産増進を助長するJICA開発モデル、JICA 現場からのニュース、2010年3月17日」、何故か、この日本語版は見当たらない)
  Japan, Brazil sow seeds of hope in Mozambique,The Japan Times,09.8.22
  http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/nn20090822f2.html