農業情報研究所農業・農村・食料海外農業投資ニュース:10年9月2日

東・中部アフリカにおけるランドグラビング(土地収奪) 現地市民・農民団体等による研究集会報告

 世界の貧困問題に取り組む国際非政府組織:Oxfamの地域組織であるOxfam-HECA(Horn,East and Central Africa)が、今年6月10〜11日、ケニアのナイロビで開かれた”地域のランドグラビング研究集会”に関するリポートを発表した。

  Report on the Regional Land Grabbing Workshop, Lukenya Getaway, Nairobi, Kenya, 10-11 June 2010,Oxfam−Horn,East and Central Africa,10.8.24
  http://www.oxfam.org.uk/resources/learning/landrights/downloads/eafrica_regional_land_grabbing_workshop_report_june_2010.pdf

 「ランドグラビング」とは耳慣れない言葉かもしれないが、簡単に言えば、土地の横奪とか、収奪とかを意味する言葉である。アフリカ最東端の半島・アフリカの角(Horn)に含まれるエチオピアや東アフリカ、中部アフリカは、日本でもすっかり馴染みとなった近年の「ランドラッシュ」の主要なターゲットとなっている地域である。このランドラッシュがもたらす地域における土地収奪について、市民・農民・遊牧民団体が理解と対処方法を共有しようというのがこの研究集会の目的であった。

 この集会で”ランドグラビング”という用語が議論され、これは何よりも、「資源の不平等な分配と情報や知識への不均等なアクセスの結果としてのパワーの不均等が可能にした、人々からの土地または土地への権利の故意の取り上げにかかわると信じられた。ランドグラビングは、投資家が得る土地へのアクセスの地域の人々に比べての大きな不均等にかかわり、人々の追い立て、移住、窮乏につながり、合法・非合法の両方の枠組みの中で起こり得る」とされた。

 この研究集会にはタンザニア、ケニア、ウガンダ、ルワンダ、スーダン、ブルンジの土地の権利にかかわる市民団体、農民団体、遊牧民団体、国際NGO、人権・婦人団体など20団体が参加した(参加予定のエチオピ ア代表は出席できなかった)。集会は、タンザニア代表者によるいくつかの詳細なケーススタディの発表からスタートした。これらは、イギリス企業による林地取得、オランダ、ベルギーの企業による3万ヘクタール以上のバイオ燃料原料生産用地の取得、遊牧民が住み・家畜を放牧する広大な土地のUAE企業による取得と狩猟権の施行にかかわる。他のすべての国の代表も似たような経験を報告した。その後いくつかのグループに分かれ、ランドグラビングの基本的問題を深く探求、対応の仕方を探った。

 これによって明らかになったのは次のことだという。それは、政府や企業からの情報開示がないために未だに「メディア」に頼るほかない”ランドグラビング”に関する情報と、それに基づく”ランドグラビング”に対する評価を、改めて確認するものと言える。

 地域における土地収奪の現状

 土地収奪は、参加国すべてで起きている。最も影響を受けているのは小農民と遊牧民である。ルワンダやブルンジのような面積の小さい国でも大きな面積が収奪されている。その結果、多くの人々が土地なし、家なしとなり、貧困家庭が増えている。

 主な収奪者としては、@バイオ燃料生産にかかわる企業(特にタンザニアとルワンダ)、A木材及び炭素排出権取引にかかわる企業(森林保護、植林を口実とした先住民の追い出し)、B・観光にかかわる企業(猟獣飼育、遊覧、狩猟、キャンプ)、C農業、すなわち主に輸出のための作物生産、採塩、園芸にかかわる企業、D投機目的で土地を取得する政府リーダー、国際企業、有力者が確認される。

 タンザニアにおけるバイオ燃料、木材・炭素取引のための土地取得、ケニアにおける民間企業による公共ビーチや沿岸地域の取得、スーダンにおける軍指導者による土地横奪、ルワンダとルワンダにおける政府に支援された国内及び国際企業による土地取得、ブルンジにおける政府官僚と政治家による土地横奪などのケーススタディが報告された。

 これらのケーススタディから、@慣習法、国家土地政策、その他の規則に抜け穴がある、Aコミュニティが土地収奪に対処する知識と能力を欠いている、B政府が土地収奪を容易にすることで重要な役割を演じている、といった共通の問題が浮かびあがった。

 土地収奪の推進者

 土地供給サイドでは、政府が主要な収奪者となっている。これは、ほとんどの場合、汚職に染まり、投資家のために働き、その影響力を投資家向けの土地を取得するために行使する政府役人が土地取得の過程にかかわるからである。貧困削減のために働くはずの投資センター、民間部門促進機関などの政府機関も、「公益」とか「開発」とかの曖昧な名目で人々から土地を収奪している。

 こういう土地収奪の動機としては次のものが認められる。

 ・国に投資家を引きつけ、技術移転や所得源拡大など、外国直接投資から利益を得るために土地を利用する。

 ・投機目的での土地収奪。値上がりや投資家への売却によって利益を得るために、政府役人や有力者が、その影響力を利用して土地を取得する(ルワンダ、スーダン、タンザニアで例証)。

 ・政治の手段としての土地の利用。人々を自分の政治勢力に抱き込むために、取得した土地を分け与える(ケニアの例)。

 土地需要サイドから見ると、世界食料危機気候変動(炭素取引)バイオ燃料需要の増大世界金融危機が多国籍企業を土地収奪に走らせる主要な要因になっている。

 政治的ロビー活動や金融支援を通して母国による支援を受けている場合もある。対外投資の法的障壁を取り除き、投資を容易にするグローバルな規制システムの変化も手伝っている。これに最もかかわっているのは米国とEU、次いで中国やサウジアラビアの金融機関である。

 研究集会に参加した英国やオランダのOxfamの国際的視野から見ると、土地収奪のための投資は次の方法で行われる。

 ・採掘産業、食品企業、バイオ燃料企業などの多国籍企業を通して。これら多国籍企業の母国は、大部分がヨーロッパ、米国、カナダである。

 ・投資ファンドの利用。通常は株式に投資するが、その投資収益が減少、より収益の多い土地、水などの自然資源への投資に向かった。

 ・特に中国や中東諸国による政府系ファンドの利用。これらファンドは、投機目的や生産目的の土地の購入に使われる。

 ・一部の国、たとえばルワンダやタンザニアでは、外国への政府使節団が、土地やその他の自然資源へのアクセスを約束することを通して、外国投資家を呼び込んでいる。