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カナダで狂牛病(BSE)発生確認

農業情報研究所(WAPIC)

03.5.21

 5月20日、カナダ食品監視庁(CFIA)が、アルバータ州の8歳の乳牛に狂牛病(BSE)が確認されたと発表した(News Release - BSE Disease Investigation in Alberta;Backgrounder - Investigation into A Case of  Bovine Spongiform Encephalopathy (BSE) in Alberta )。このケースは通常のBSE監視プログラムによって発見されたものである。同一牛群の150頭の牛は、検査の後、BSE拡散予防のために、すべて処分される。

 516日、アルバータ州農業・食料・農村開発省(AAFRD)により行なわれた検査で、今年1月、屠殺場で病気の兆候のために消費に不適とされていた牛がBSE陽性と判明した。通報を受けたCFIAの動物保健センターによる脳組織の検査でも陽性反応が出て、最終的には、20日、イギリスの世界基準試験所による検査でBSEと確定されることになった。AAFRDの検査が遅れたのは、この牛にはBSEの兆候が見られなかったためとされている。

 カナダでは、1993年に一頭にBSEが発見されているが、これはイギリスからの輸入牛であった。今回のケースが国産牛初のケースとなりそうであるが、現時点では確認はされていない。農相は、テレビ(CTV)で、この牛が国産牛か、輸入された牛か、完全には確認できていないと明らかにした。現在調査中という。

 このBSE確認により、カナダ牛肉輸出の90%を受け入れている米国は、直ちに禁輸措置を取った。昨年、米国は、カナダ産の100万頭以上の牛、10億ポンド以上の牛肉を輸入している。米国の屠殺牛・牛肉生産の5%を占める。米国の牛群の中には50万頭のカナダ産牛が含まれる。マクドナルドは、原料牛肉やハンバーガーを米国での使用のためにカナダからは輸入していないとしているが、ニューヨーク市場でのその株価は、直ち5.56%下がった。キング・バーガーは、CFIAにより検査され・承認された施設からのみ牛肉を購入しており、それも牛の筋肉だけだという。トウモロコシを餌とする牛の肉の需要が鶏肉や豚肉に移ることが予想されることから、シカゴ穀物市場ではトウモロコシ価格に影響が出ている。

 オーストラリアはカナダ牛肉を輸入していないとされるが、カナダからの輸入繁殖牛(種牛)の追跡を開始する一方、牛と牛製品の輸入を禁止した。ソーセージのケーシングは例外とされたが、小売業者はカナダ牛肉を含むすべての製品の撤去を要請されている。1996年までにオーストラリアに入った繁殖牛の数がわかっておらず、不安がある。これらの牛を追跡し、移動を規制、死後は全頭のBSE検査を行なうことで、生涯を通じての検疫体制を敷く。治療薬品当局は牛からの抽出物を含むカナダ薬品を調査している。

 カナダ牛肉の第三・第四の輸入国である日本と韓国も牛肉・牛肉製品の輸入の一時停止措置を取った。韓国は牛乳製品の輸入も禁止した。日本の昨年のカナダ牛肉の輸入量は1万9千700トンで、市場で占める割合は3.7%とされている。外食・食品メーカーは、もともとカナダ産牛肉の使用量は少なく影響は軽微と見てようだが、米国とカナダの牛肉産業は不可分に結びついていることはすっかり見過ごされているようだ。韓国は、昨年1年でカナダ牛肉・牛肉関連製品を5万トン輸入(輸入品の4.6%)、今年の最初の4ヵ月間の輸入量は1万9千トンに達するという。

 カナダは、これまで国産牛のBSEは発見されていないものの、EUの地理的リスク評価では、BSEはありそうもないが、完全には存在を否定できない「レベルU」の評価を受けてきた。カナダは、1990年にBSEの通報義務を課し、1992年にBSEが疑われる牛の脳組織を検査するサーベイランス(パシブ・サーベイランス)・プログラムを設けた。現在までに1万頭ほどが検査されている。牛とバイソンの個体識別システムも設けられ、出生から屠殺までの個体の移動の追跡も可能になっている。1997年には、BSE病原体を宿す可能性があるといわれる反芻動物(牛、羊、山羊、バイソン、シカ)から精製された蛋白質(いわゆる肉骨粉)を反芻動物に与えることを禁止した。ただし、2000年7月のEUのリスク評価報告書(Report on the Assessment of the Geographical BSE - Risk of Canada (July 2000))では、この肉骨粉禁止以前、国産牛にBSEが伝播した可能性が完全には排除できないとしていた。1990年までに僅かながらイギリス牛が入っており、特定危険部位を除去することなく、しかも病源体を十分に不活性化できない不適切なレンダリング過程を経て製造される肉骨粉が与えれていたからである。肉骨粉の輸入もあった。

 今回のケースが国産牛と確認されれば、イギリス牛の導入や肉骨粉の輸入を通じて国産牛にBSEが再生産されていた可能性を否定できなくなる。そうなると、BSEは世界100ヵ国以上に存在する可能性があるという国連食糧農業機関(FAO)の警告も、いよいよ現実味を帯びてくる。

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