農業情報研究所

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日韓、輸出牛肉の原産地証明要求、米国には不可能

農業情報研究所(WAPIC)

03.6.23

 日本農水省は、牛肉の対日輸出国に、7月1日からの出荷分に原産地を証明するように求めたという(韓国も米国に対して同様な要請をした)。しかし、米国農務省(USDA)のベナマン長官は、20日、7月1日の期限を延長するように要求、来週、米国の技術的専門家が、カナダの調査を検討し、追加的な「科学的ベース」の安全確保策を探るカナダ・日本との三者会合に参加すると発表した(Statement by Secretary of Agriculture Ann M. VenemanRegarding U.S. Beef Trade Issues- June 20, 2003)。それも当然のことであろう。米国には原産地を証明できるようなシステムはないし、当分はできそうもないからである。

 昨年の米国新農業法は、国産品販売促進を目的に、肉・果実・野菜・魚・ピーナツに原産国表示ルールを導入することを決めた。当初2年間は自主的に導入、2004年9月から義務化するとされている。このルールによれば、精肉業者(屠殺・加工・卸売り業者)や小売業者は、米国内で生まれ・育てられ・屠殺され・加工された肉だけに米国原産の表示ができる。しかし、この制度の導入にはコスト増加を恐れる業界の強い反対圧力がかかっている。議会もこの導入にブレーキをかけている。

 AP通信によると、17日の米国議会下院歳出承認農業小委員会は、このプログラムの実施のための農務省(USDA)の支出を全会一致で拒否した(House Panel Denies USDA Label Money,AP,6.18)。小委員会委員長・ヘンリー・ボニラ(テキサス、共和党)は、「この問題を適切に評価するためには議会にもっと時間を与えることが不可欠である」、「決定に先立ち、生産者・加工業者・小売業者・食肉産業は副次的影響を考慮するための機会を持たねばならない」と語ったという。農務省は動物が生まれ・育てられ・屠殺された場所についての記録の保存に19億ドルかかると推算している。全米食肉協会のスポークスマンは、小委員会のこの決定がこのような表示の義務化の議会による取り消しを期待させると語っている。

 このような現状からすると、日本があくまでも原産地証明にこだわれば、日米間の大きな紛争に発展する可能性がある。日本は米国牛肉の輸入大国だからである。しかし、それほど緊迫した紛争とはならない可能性も強い。カナダのBSE発生に伴い米国に派遣された専門家調査団は、わざわざ米国に出向いて調査するまでもない通り一遍の調査結果を報告している(カナダでのBSE発生に伴う海外調査について、6.11)。米国国内で指摘されているような様々なリスクについてはほとんど考察されていない。ただ、消費者の不安が解消されないかぎり、長期的な緊張関係は続くであろう。

 本日付の「日本農業新聞」(1面)によれば、農水省は、先頃成立した牛肉トレーサビリティー法で公表が義務化された項目ー出生年月日、雌雄の別、品種、所有者の氏名と住所、飼養場所と飼養開始年月日、と畜年月日(何故か、EUでは義務付けられており、安全面では決定的に重要なと畜場・切り分け工場の名称=承認番号は含まれていない)ーに飼料の名称・動物医薬品の名称を加えた情報を公開することを認定の条件とする新たなJAS規格を作ることを明らかにした。その対象には国産牛肉だけでなく、輸入牛肉も含めるという。この認証を受けるかどうかは任意であるが、米国には容易にアクセスできる認証ではない。原産地証明に加え、これも米国との紛争の火種になるかもしれない。

 国産牛にBSEが発見されないかぎり(貧弱な検査体制で、BSEの発見はあったとしても偶然でしかないが)、米国が牛肉のトレーサビリティーやBSE対策の抜本的改革に取り組むことが当分の間はありそうもないことははっきりしている。