EU:反芻動物由来の有機肥料の安全性に関する科学運営委員会の意見

と動物副産物の肥料としての利用の規制をめぐる動き

document

農業情報研究所(WAPIC)

01.11.1

 農水省は牛の「肉骨粉類(血粉等を含む)」の「製品在庫」を「複合肥料の原料に利用」することを認める方針を打ち出している(注1)。牛由来の「蒸製骨粉類(原料在庫)」の使用も停止を解除するという。「放牧地施用禁止指導(?)、保管・使用制限の表示」という条件付きではあるが、在庫品となれば、潜在したかもしれない狂牛病(BSE)感染牛を原料とするものが含まれると考えざるを得ない。これで安全は確保されるのだろうか。EUの科学運営委員会(SSC)は、1998年9月に「反芻動物由来の有機肥料の安全性に関する意見」を出しているが、その結論は次のようなものであった。

 a)有機肥料は、BSE高リスク国原産の牛から生産されてはならない。
 b)人間・動物・環境にとってBSEリスクがゼロか無視できる地域・国原産の哺乳動物由来の有機肥料は肥料として使用できる。
 c)その他の国については、@BSE病原体を保有する可能性のあることが知られている哺乳動物組織由来の有機肥料は、安全な肉骨粉または加水分解蛋白を生産するための科学運営委員会(SSC)が定める基準に従って生産されるならば、肥料として使用できるが、人間または反芻動物の摂取は防がねばならない。ABSE病原体に感染すると認められていない哺乳動物組織(血液・角・蹄)由来の有機肥料は肥料として使用できるが、人間または反芻動物の摂取は防がねばならない。

 しかし、EUの現在の見解はこれにとどまらない。

 欧州委員会は、その後、@工業コンソーシアムにより提出された動物組織加水分解により得られる土壌改良材の安全性に関する質問、A最近のSSCの意見(特定危険部位=SRMのリストの拡張)・30ヵ月以上の牛のEUレベルの検査計画・BSEの環境からの伝達経路に関する新たな知見に照らして、かつての有機肥料に関する意見を見直す必要はないのかというベルギー政府の要請を受け、以前の意見の有効性の評価を諮問した。

 それに対する回答となる意見書(Opinion on the safety of organic fertilisers derived from ruminants animals)が今年5月に出ているので、日本の今回取ろうとしている措置の妥当性を判断するための一材料としてここに紹介しておこう。

 「A.有機肥料の安全性に関する98年の意見の有効性を評価するに際し、@2000年12月18日にドイツ連邦環境・自然保護・原子炉安全省によりボンで組織された「土壌中でのBSE/TSEプリオンの発現と挙動に関する国際専門家会議」に関する報告、A動物起源のミールとファットの様々な使用とそれらの加工・排除の条件に関連した安全性リスクに関するフランス食品安全機関(AFSSA)の2001年4月7日の意見を考慮に入れた。

 B.BSEに感染した動物の組織または器官から生産される有機肥料中のBSE感染性の存在は、ある程度までは製造技術と原料の当初の感染性レベルに依存する。そのようにして得られた肥料が作物、及び/または、土壌に使用されると、次のリスクが生じる。

 1.人間または動物による感染性をもつ肥料残留物の摂取のリスク。ただし、この方法で摂取される量は少ない(人間が消費する場合には、通常は洗い流されて肥料残留物は減るが、動物の消費量はより多くなる)。

 2.土壌と水の汚染のリスク。これには長年にわたり感染性が蓄積される可能性も含まれる。この可能性は、TSE病原体の非常に過酷な処理に対する抵抗性と、スクレイピー病原体が土壌中で3年間感染性を保持した(ただし、感染性は99%失われた)という実験結果に基づいている。さらに、いくつかのスクレイピー根絶計画の失敗からもこの結論を導くことができる。土壌、地下水または地表水中でのBSE病原体の挙動(蓄積も含め)について利用可能な情報はないが、それが環境中に放出され、それによりさらなる感染性のリサイクルの源泉を作り出す可能性は排除できない。

 3.肥料の取り扱いの際に人間と動物が病原体に曝されるリスク。

 感染性をもつ残留物の摂取の可能性は別にして、上記のリスクは肥料の施用方法で変化することはない。肥料または土壌改良材の無機化された残留物を除き、植物がTSE病原体を吸収することはありそうもない。

 C.以上のすべてのリスクを防止するためには、有機肥料はTSE病原体のキャリアであると疑われる、または確認される動物から生産されてはならない。

 地理的BSEリスクのレベル(注2)と無関係に、BSE病原体の宿主とならないことが分かっている牛の組織または器官(角・蹄・毛・・・)は、BSEに感染している組織または器官に接触がないと想定できる限り、有機肥料の製造に使用できる。

 地理的BSEリスクがレベル1の国で生まれ・育てられた牛が起源のものから生産される有機肥料の使用には、いかなる制限も課す必要はない。

 他の国については、SRMが除去され、また原料が適切な処理をされたのちに、人間の消費に適していると分かる動物からの物質は使用できる。適切な処理のタイプは原料により異なる。

 ・骨やSRMを除去した臓器などは「133℃/20分/3気圧」の標準的処理その他の適切な処理により原料として使用できる。

 ・血液は反芻動物血液の安全性に関するSSCの意見(1999、2000)で提出されたリスク評価の制限内で使用できる。

 ・反芻動物の皮は、コラーゲンの安全性に関するSSCの意見(2001)で提出されたリスク評価の制限内で安全に使用できる。

 D.リスク物質(部位)との接触のリスクや追跡可能性の欠如のために、下水汚泥はリスクレベル1の国からのものだけが有機肥料生産の原料として使用できる。他のすべての国のものが環境に散布されてはならない。

 5月22日に採択された欧州議会及び理事会規則(EC)999/2001のの第1条(適用範囲)は、「この規則は動物における伝達性海綿状脳症(TSEs)の予防・コントロール・根絶のためのルールを定める。それは生きた牛、動物起源の製品の生産と市場への出荷、並びに一定の特定のケースではその輸出に適用される」と述べ、この規則の適用を免れる製品の一項目として「人間食料、動物飼料、または肥料に使用するためのものではない製品」を挙げている。つまり、「肥料」もこの規則が定める規制の対象をなしている。 農水省は、10月15日付けの「飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する省令の改正について」と題する「プレスリリース」において「肥料やペットフードについては、EUにおいては規制されていないが・・・」と述べているが、これは不正確な表現である。

 また、6月19日のEU農相理事会は、欧州委員会による「人間の消費を目的としない動物副産物に関する保健ルールを定める欧州議会及び理事会の規則のための提案」を承認したが、ここでは動物副産物(肉骨粉)の肥料としての利用について一層明確に述べられている。すなわち、SSCの意見に従い、TSE病原体のキャリアとなることが疑われるか、確認されている動物からのものは肥料生産に適さないということである。これは、この規則案でカテゴリー1に分類されるTSE感染が疑われる家畜・ペット・動物園の動物・サーカスの動物・一定の実験動物・(人畜に伝達し得る病気への感染が疑われる場合の)野生動物の皮・皮膚を含むボディのすべての部分、特定危険物質(それを含む反芻動物死体も)などは肥料に利用してはならないことを意味する。肥料として利用できるのは(それも牧草地での使用は禁止)、カテゴリー2に分類されているもの(厩肥、消化管内容物、一定のと畜場スラッジなど)とカテゴリー3(カテゴリー1、2以外)の動物副産物だけである。

  (注1)牛由来の肉骨粉等の停止措置の解除については、当初案では肥料用途の「肉骨粉類(血粉等含む)」は「継続検討」の対象であるが、「製品在庫のみ」は解除するとされていた。しかし、11月1日付けの「飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する省令の改正について」では、牛由来の肥料用途の肉骨粉類すべてが「継続検討」の対象とされている。取りあえず、「製品在庫」の解除は見送る方針に転換したようである。

(注2)EUの狂牛病地理的リスク評価

HOME 狂牛病