EUの狂牛病地理的リスク評価

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農業情報研究所(WAPIC)

01.10.4

追記(01.10.6

 EUは狂牛病(BSE)の世界的拡散を防ぎ、またその域内諸国への侵入を防止するために、世界各国の狂牛病リスクの評価を行ってきた。ここでは、評価の基本的要素と結果について要約しておく(日本がその公表を阻んだことは周知の事実である)。

 評価の基本的要因となる情報は以下のとおりである。

 1.牛個体群の構造と変遷の型

 牛の頭数と年齢構成、農業システム(肉牛と乳牛の比率、集約農法と粗放農法の比率、乳牛の生産性、牛と豚・鶏を一緒に飼う農場、牛と豚・鶏の個体群及び異なる農業システムの地理的配分)

 2.BSEのサーベイランス

  BSE発見を確保する措置(同定システムとその追跡能力、BSEの通報が義務化された日付とBSEの嫌疑の基準、BSE認識の訓練、補償措置、BSEの嫌疑の通報を確保するためのその他の措置)、BSEサーベイランスの結果

 3.BSE関連の淘汰

 淘汰計画、BSEとの関連で既に淘汰された牛に関する情報

 4.牛と肉骨粉の輸入

 英国とその他のBSE感染国からの牛と肉骨粉の輸入や輸入された牛や肉骨粉の利用

 5.飼料

 肉骨粉の生産と利用、配合飼料の生産とその使用、飼料生産・輸送の間及び農場での牛の飼料への肉骨粉混入の可能性とそれを減らし・コントロールするための措置、その結果

 6.肉骨粉の禁止

 導入の日付と範囲、遵守のための措置・方法とその結果等

 7.特定危険物質の禁止

 導入の日付と範囲、遵守のための措置・方法とその結果等

 8.レンダリング

 使用される原料、プロセスに適用される条件等

 

 これらの情報に基づき、牛または肉骨粉を通して特定期間内に限定された地理的区域(国)に病原体が入る可能性とその量(external challenge)、病原体移入防止と域内での病原体拡散縮減のためのシステムの能力(stability)、特定期間内に特定地理的区域に病原体が存在し・流通する可能性と量(internal challenge)が評価される。

 これらを総合して、最終的に、ある地域(国)のBSEリスクは次の四つのレベルで示される。

 レベル1=BSEが高度にありそうもない(highly unlikely)

 レベル2=ありそうもないが、まったくないとはいえない(unlikely but not excluded)

 レベル3=ありそうであるが確認されていない、または低いレベルで確認されている(likely but not confirmed or confirmed,at a lower level)

 レベル4=高いレベルで確認されている(confirmed,at a higher lebel)

 

 今年5月までになされた国別の評価によれば、各レベルには次のような国々が含まれる(レベル4除く)。

 レベル1 アルゼンチン、オーストラリア、ボツワナ、ブラジル、チリ、コスタ・リカ、ナミビア、ニカラグア、ノルウェー、ニュー・ジーランド、パラグアイ、シンガポール、スワジランド、ウルグアイ

 レベル2 カナダ、コロンビア、インド、ケニア、モーリシャス、パキスタン、スロベニア、米国

 レベル3 アルバニア、キプロス、チェコ共和国(今年1例確認)、エストニア、ハンガリー、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロバキア共和国(今年2例発見)、スイス

 詳細はEU常設科学委員会のレポートまたは意見で知ることができる(http://europa.eu.int/comm/food/fs/ssc/outcome_en.html)。

追記(2001.10.6)

(1)日本が公表を差し止めた報告では、日本のリスク評価はレベル3であったといわれている。

(2)日本では「米国」と「オーストラリア」を実際上同等に扱っているようであるが、EUの第三国(EU域外諸国)に対する牛肉・牛製品の輸入規制はレベル2以上の国すべてをEU諸国と同等に扱っている。つまり、「予防原則」適用の分かれ目は、EUではレベル1かそれ以上かであるのに対し、日本ではレベル2以下かレベル3以上かになっているということである。

(3)オーストラリアはリスクが無視できるレベルAからBSEが確認されているレベルDまでの四つのレベルにわけ、レベルDの国(狂牛病発生国)からの牛肉・牛製品の輸入は禁止、レベルAからレベルCまでのすべての国からの輸入も、輸出国が当該品がBSEと無縁であることを公的に保証しない限り許されないという新たな制度を導入している(オーストラリア:牛肉輸入規制を全輸出国に拡張)。EUよりも厳しい規制といえよう。

 

 

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