米国の地理的BSEリスクの評価に関する作業グループ報告(欧州食品安全庁)

農業情報研究所(WAPIC)

document

04.9.4

 EUの食品安全リスク評価機関である欧州食品安全庁(EFSA)が米国の地理的BSEリスク(GBR)に関する意見を発表したことは前に伝えた(欧州食品安全庁(EFSA)、7ヵ国のBSEリスクを評価 米国のリスク高まる,04.8.25)。その際、意見の要点を述べるにとどめ、この意見が基づくデータ・情報を詳述した作業グループの報告(Working Group report on the Assessment of the Geographical BSE-Risk(GBR) of UNITED STATES OF AMERICA,2004;http://www.efsa.eu.int/science/efsa_scientific_reports/gbr_assessments/scr_annexes/574/sr03_biohaz02_usa_report_annex_en1.pdf)の紹介は省略した。

 ところが、日本の食品安全委員会のプリオン専門調査会が現在の検査で発見できないBSE感染牛の月齢を20ヵ月以下と特定する案を決め、米国に全頭検査を求める必要がなくなるから、米国牛肉の輸入の年内再開もあり得るという報道が流れている。だが、これらは、本来まったく関係のない話だ。20ヵ月以下の牛の感染は絶対に発見できないという根拠はないのだから、これらの牛を検査から外すことによるリスクの変化(増加)は、各国のBSEリスクから評価するほかない()。しかし、少なくとも当面、この評価をする気はないようだ。その能力もないのかもしれない。

 我々が当面頼りにできる評価としてはEUの評価しかない。これを裏付けるデータや情報は、政治的にも、科学的にも無視できない重みをもつ「公的」な包括的データであり、情報である。これはすべての人々が知るべき価値がある。従って、この報告の一部(生きた牛と肉骨粉の輸入状況を示す表)を除く全文を紹介することにした。なお、この紹介により、2000年7月の科学運営委員会(SSC)の米国GBRに関する意見の以前の紹介は、取りあえずページから削除することにした(サーバー容量節減のため)。

 なお、EUのGBRは、評価対象国についての、大きく分ければ「外からの挑戦(external challenges)」と「安定性(stability)」の二つの要因とそれらの相互作用を考慮することで評価される。「外からの挑戦」とは、BSE感染牛や肉骨粉を通じて国内にBSE病源体が侵入した可能性または侵入した量を意味する。また、「安定性」とは、BSE病源体の侵入を防止し、その拡散を減らすBSEと牛にかかわる国内システムの能力を言い、システムは、この能力が高いほど安定、低いほど不安定ということになる。これを断った上で、以下、特に注釈を付すことなく紹介する。

1.データ

 ・利用可能なデータはGBRの数量的アセスメントを行うのに十分であった。

 ・利用可能な情報が完全には適切でない場合には無理のない(reasonable)最悪のケースの仮定が使用された。

 データの出所

 ・国の当局から提供された1997-2004年の情報からなる国の書類(CD、Country dossier)。これには「ハーバード・リスク・アセスメント」と題する研究も含まれる(以後、これをHRSと記す)。

 その他の出所

 ・1980年から2003年までの「生きた牛」と「人間の消費に不適な肉または内臓の細粉(flour)、粗大粉(meal)、球粒(pellets)」(関税コード:230110)の輸出に関するEUROSTAT(EU統計局)のデータ。

 ・1980年から1996年までの「生きた牛」と「哺乳動物の細粉、粗大粉、球粒」=MBMに関する英国輸出データ(UK)。

 ・その他のBSEリスク国からの利用可能な輸出データ。

2.外からの挑戦 

2.1 BSEリスク国(注)からの牛の輸入  

 (注)既にGBRVまたはWと評価されたすべての国及び少なくとも1頭のBSEのケースが確認された国。

 生きた牛の輸入に関するデータの全体像は表1(略)に示されており、CDにおいて提供されたデータと米国に輸出したBSEリスク国からの利用可能な輸出に関する対応するデータに基づく。リスク期間(科学運営委員会=SSCの意見に従い、BSEリスク国からの輸出が既に外国からの挑戦となっていた期間)からのデータのみが示される。

 ・CDによると、英国からは、80-89年に323頭を直接輸入、90、91、92年にカナダを経由して10頭を輸入。EUROSTATによると、英国から327頭が輸入された。これらの牛の96%は肉用繁殖牛で、乳用牛は4%。89年以後、英国牛の輸入は実際には停止。

 ・英国からの輸入牛は95年にトレースバックされた。このトレースバックの成績は、HRSの評価の基礎をなす詳細を提供した。95年に生きていた牛(117頭)は購入され、診断サンプルが採られ、屠体は焼却された。これらの牛は外からの挑戦として考慮されない。これらすべての牛はBSE陰性であった(組織病理学検査及び免疫組織化学検査)。117頭のうち52頭は、後に1頭またはそれ以上がBSEを発症した英国牛郡からの牛であった。

 ・HRSによると、80年代に英国から輸入された173頭については最終利用に関する情報が欠けており、何頭かはレンダリングされた可能性がある。HRSでは、これらの牛が病気蔓延のピーク以前に輸入されたもので、後にBSE発症のケースが出た出生コーホートからの牛はいないことにも注意している。しかし、現実的な最悪のケースの想定に基づけば、飼料用にレンダリングされたと仮定、リスクを生み出したと想定せねばならい。

 ・EUの輸出データでは、80年以来、英国を除くEUから1,633頭が米国に輸出された。CDによると、この数字は460頭にすぎない。

 ・CDによると、80-88年にアイルランドから162頭が輸入された(EUROSTATでは233頭)。これらの牛のトレースバックは、22頭が米国でのレンダリングから除外され、4頭が検疫所で焼却されたことを示し、外からの挑戦には計算されない。

 ・CDによると、ベルギーから6頭(EUROSTATでは6頭)、ドイツから46頭(同、430頭)、オーストリアから3頭(同、0頭)、イタリアから8頭(同、21頭)が輸入された。96年と98年にこれらの国から輸入された40頭の繁殖牛はすべてトレースバックされ、1頭もレンダリングに入っていない。

 ・EUROSTATによると、デンマークからの12頭、オランダからの558頭が米国に輸入された。CDではこれらの輸入は示されていない。

 ・加えて、CDによると235頭(EUROSTATでは403頭)がフランスから、103頭(別のソースでは48頭)がスイスから輸入された。

 ・EUの輸出データとCDの輸入データの違いは、一部はCDにおける財政年度(10月から9月)データの利用で説明できる。

 ・カナダからは、年に23万5,000頭から170万頭が米国に輸入された(CD及びその他のデータ)。CDによると、典型的にはカナダからの輸入牛の80%が肥育・屠畜用の牛である。従って、輸入牛の20%だけが計算に入れられてきた。

 ・日本からは、特定肉用種の242頭が輸入された。これらの牛はトレースされ、大部分は米国のレンダリングから排除された。最大39頭がレンダリングされた。

2.2 肉骨粉または肉骨粉を含む飼料のBSEリスク国からの輸入 

 肉骨粉(MBM)輸入に関する全体像は表2(略)に示され、CDにおいて提供されたデータと米国に輸出したBSEリスク国からの利用可能な輸出に関する対応するデータに基づく。リスク期間(科学運営委員会の意見に従い、BSEリスク国からの輸出が既に外国からの挑戦となっていた期間)からのデータのみが示される。

 ・CDは英国からのMBM5dの輸入を報告する。EUROSTATによると、80年から96年の間に、英国から米国に63dが輸出された。しかし、英国の見直された統計(01年8月)では、これは24dとなっている。89年に輸出された39dは英国の見直し統計では確認されず、従って計算から除外される。さらに、97-98年に38d、99年に39dが輸出された。哺乳動物の肉粉、骨粉及びMBMの英国からの輸出は96年3月27日以来違法であるから、この日付以後に示された輸出は非哺乳動物のMBMを含むものだろう。従って、これらの輸入は計算から除外される。

 ・CDによると、デンマーク、フランス、イタリア、オランダからMBMが輸入された。これらの輸入は反芻動物由来ではなく、米国のBSEリスクの理由とはならないと主張されたが、この主張は実証されない。

 ・EUROSTATの輸出統計では、さらにベルギー、ギリシャ、アイルランド、スペインからの輸出がある。

 ・年に1万8,000dから4万4,000dの非常に大量のMBMがカナダから輸入された(CD及びその他のデータ)。

2.3 外からの挑戦の全体的評価

 外からの挑戦のレベルは、SSCによる2000年7月のGBRに関する最終意見で与えられた指針に従って推定される。

 生きた牛の輸入

 全体として、カナダ以外のBSEリスク国から2,038頭(その他のデータ)または1,128頭(CD)が輸入された。そのうち327頭(その他のデータ)または323頭(CD)は英国からの輸入である。カナダからは年に50万頭以上が輸入された。表1に示された数字は生の輸入数であり、外からの挑戦の評価のために調整された輸入は反映していない。5年ごとに分けられた外部からの挑戦は表3に示される。この評価は、一定の輸入牛は国内のBSE-牛システムに入らなかった、すなわち飼料にレンダリングされなかったという想定を許す上で議論された様々な側面を考慮に入れる。米国のケースでは、トレースの情報がレンダリングされなかったことを示すすべての牛が外からの挑戦から除外された。

 肉骨粉の輸入

 全体として、カナダ以外のBSEリスク国から689d(CD)または2,230d(その他のデータ)が輸入され、そのうち5d(CD)または101d(その他のデータ)が英国からであった。カナダからは年に3万dほどが輸入された。表2に示された数字は生の輸入数であり、外からの挑戦の評価のために調整された輸入は反映していない。5年ごとに分けられた外からの挑戦は表3に示される。この評価は、一定の輸入牛は国内のBSE-牛システムに入らなかったか、他の理由で外からの挑戦にはならなかっという想定を許す上で議論された様々な側面を考慮に入れる。96年3月27日以後の英国からの哺乳動物肉骨粉の輸出は違法だったから、この日付以後に示された輸出は非哺乳動物のMBMを含むものだったであろう。米国のケースでは、89年と97-99年の英国からの輸入MBMは考慮されない。

 

 

表3 米国が経験した外国からの挑戦

外からの挑戦

外からの挑戦の理由

期間

全体的レベル

牛の輸入

肉骨粉の輸入

コメント

1980-85年

中位

中位

無視できる

カナダの輸入データが評価から除外されると、全体的レベルは「低」から「高」までの変異がある。

1986-90年

無視できる

低い

1991-95年

非常に高い

高い

高い

1996-00年

極度に高い

非常に高い

非常に高い

2001-03年

極度に高い

3.安定性

3.1 BSE感染性が加工に入ったとして、そのリサイクルを回避する能力の全体的評価

 給餌

 牛飼料への肉骨粉使用

 ・97年まで、反芻動物肉骨粉(RMBM)は合法的に牛の飼料に含まれ得たし、実際にも様々な年齢とタイプの牛に普通に与えられていた。フィードバン以前、米国当局はすべての肉骨粉(MBM)の10%が故意に牛に与えられてきたと推定した。

 フィードバン

 ・ (いくつかのタイプの)哺乳動物肉骨粉(MMBM)を反芻動物に与えることの禁止が97年8月に行われた。専用の(単一種)レンダリング工場からの純粋の豚と馬の蛋白質(MBM)が許される禁止の例外が与えられた。このMMBMは、現在も牛に与えられている可能性がある。従って、このフィードバンは反芻動物→反芻動物の禁止である。

 ・すべての哺乳動物と鶏の蛋白質の反芻動物飼料への利用の禁止と、歩行不能な牛及び死亡家畜からの物質のすべての動物飼料への利用の禁止が計画されている。

 交差汚染の可能性とこれを防止するために取られた措置

 ・米国の動物生産と関連部門は大規模産業であり、高度の専門化が可能、多くの農場と屠畜・レンダリング・飼料生産工場は一つの種に専用化されている。これは大規模な交差汚染のリスクを減らすが、多くの混合農業をもつ地域にはこれは適用されない。

 ・非反芻動物MBMのRMBMとの交差汚染は、理論的には、レンダリングから飼料工場へのこの物質の輸送がバラ積みで、同じ輸送手段で行なわれるときには、いつでもあり得る。これが排除できるかどうかは不明。

 ・多くの飼料工場が同じ生産ラインで様々な種のための配合飼料を生産しているから、飼料工場での交差汚染があり得る。80-01年の混合飼料工場で生産される牛飼料の量の推定を可能にする米国における飼料産業の構造に関するデータは、米国当局が提供しなかった。飼料工場検査に関する情報は、03年までに、産業の非常に小さな部分でこの問題が発見されたことを示している。

 ・97年以来、食品医薬局(FDA)は、反芻動物飼料生産における分離したラインの使用か、生産一回ごとに使用される詳細な洗浄手続を定めた。しかし、ヨーロッパの経験は、このような洗浄等が交差汚染を減らしはするが、排除できないことを示している。要求された措置の効果は、詳細なコントロールのデータがなく、この目的でサンプルが採られていないから、評価できない.

 ・RMBMを含む飼料には反芻動物に与えてはならなという表示があるが、農場での交差汚染があり得ると見なされる。

 ・従って、無理のない最悪のシナリオとして、牛、とくに乳牛は、RMBMが飼料連鎖に入る以上、今なおRMBMに、従ってBSE感染性に曝されていると想定される。

 ・CDによると、レンダリング工場と飼料工場は、規則の遵守を全国的に定期検査されている。

 ・交差汚染を防止するために、製造及び輸送中に飼料を扱い、貯蔵するための専用設備または施設を要求することが計画されている。

フィードバンと交差汚染のコントロール

 ・97年以来、RMBM使用が許され、また(RMBM以外の)牛飼料を生産する飼料工場が毎年検査されており、その他も検査されることもあり得る。二つのタイプの違反が記録されている。一つのタイプはRMBMに関係せず、他はこれに関係するが、これは主として交差汚染の問題にかかわる。これら企業はすぐに再検査される。いくつかのケースでは、製品がリコールされ、販売が停止され、あるいは廃棄された。違法なMBMの存在を検査するための牛飼料のサンプル採取は行われていない。

 ・飼料生産者により99/00年に提供された情報による米国当局の想定では、遵守率は、98年以来70%から90%、それ以前は30%から70%。レンダリング工場と飼料工場に関する公的検査データが提供されたが、生産過程の欠陥対策が03年初めから厳しくなったことを示している。しかし、反芻動物飼料のサンプルのMMBM含有の検査は定期的に行われていない。00年と01年の飼料産業からの報告は、この期間のフィードバン実施の重大な欠陥を示している。これは、このようなフィードバンの実施と執行の周知の困難を確認するものだ。

 ・牛飼料に入る蛋白質(例えば非反芻動物MBM)のRMBMとの交差汚染を評価する調査は実行されていない。

レンダリング

 ・国内のMBM生産は平均して年300万d。

 ・生産されるMBMの60%は反芻動物由来(牛59%、羊0.6%)。豚と鶏由来がそれぞれ20%。

 レンダリングに使用される原料

 ・ほぼ半数のレンダリング工場で、反芻動物物質が他の種の動物の物質と一緒にレンダリングされている。これは特定危険部位(SRM)が含まれるから、とくに重大。「フリー・レンダラー」(屠畜場から独立)が死亡牛を加工していることも知られている。

 ・SRMも含む多種の屠畜副産物が屠畜場付属の大部分のレンダリング工場の原料となっている。

 ・一部工場は、豚、馬、鶏など一つの種からの物質を加工している。

 ・CDは、各カテゴリーに分類される工場の数も、それぞれの年生産も提供しなかった。

 レンダリング工程

  ・米国の約280のレンダリング工場で四つのシステムが使用されている。全システムが100-150℃の温度と様々な加熱時間、大気圧下で加工。

  -バッチ煮沸工場(46):115-125℃、45-90分。

  -連続チューブ・デイスク煮沸システム(220):131-150℃、45-90分。

  -連続多段階蒸発システム(10):115-125℃、20-40分。

  -連続予熱/加圧/蒸発システム(4):87-120℃、240-270分。

  これらは大気圧の下で(つまり加圧することなく)加工しているから、BSE感染性が工程に入れば、これを大きく減らすとは考えられない。

特定危険部位(SRM)と死亡牛

 ・人間食料についてのSRM禁止は04年に導入された。しかし、飼料連鎖のSRM禁止はない。

 ・SRMは他の屠畜副産物と一緒にレンダリングされ、独立レンダラーの場合には死亡牛も一緒にレンダリングされる。

 ・ペットフードも含むすべての動物飼料からSRMを排除することが計画されている。

リサイクリングを回避する能力についての結論

 ・97年以前、米国のシステムはBSE病原体のリサイクリングを、いかなる程度でも回避できるものではなかった。

 ・97年のフィードバン導入以後、BSE感染性のリサイクリングを回避する能力はいくぶん改善された。しかし、(SRMと死亡牛を含む)反芻動物物質のレンダリングは不適切(加圧なし)、牛飼料と他の飼料との交差汚染の可能性も残っている。

 ・従って、システムは、BSE感染性が既にシステム内に存在するか、入っていれば、そのリサイクリングを回避することは今でもできない。

3.2 BSEのケースを確認する能力と、感染しているリスクのある動物を加工前に排除する能力の全体的評価

牛集団の構造

 ・米国の牛集団の総数は80年:1億1,100万頭、90年:9.900万頭、95年:1億280万頭、98年:9.950万頭。うち17.6%(1,750万頭)が乳牛、82.4%が肉用牛(95-98年のデータに拠る)。しかし、HRSは、公式の屠畜数からすると、牛総数はおよそ1億4,000万頭に安定していると考えざる得ないと認めた。

 ・屠畜される牛総数の17%から19%が>2歳。乳牛の平均屠畜年齢は4歳から5歳。

飼育システム

 ・米国の専門家によると、米国には混合農業が存在すると想定されたが、低レベルである(かつ減少しつつある)。いかなる数字も提供されなかった。

 ・二つの主要な牛飼育システムは肉牛(82.4%)と乳牛(17.6%)。

 両方のシステムであらゆるレベルの集約度が存在するが、どちらでも大規模・集約的事業で特徴づけられる。乳牛で一層大規模で、効率的な経営体に向かう明確な趨勢が見られる。

 米国の一定の地域で集約的牛・豚・鶏産業のオーバーラップを示す地図が、99年に米国の専門家により提示された。

牛識別・監視システム

 ・既存の識別システムは州と連邦により共同で運営されており、各州について個別に維持されている。集中した全国規模の識別システムはない。

 ・このシステムはすべての牛の約95%が公式にタグを付され、州のデータベースに登録されるのを保証すると米国専門家により推定された。

 ・個別の牛のトレースバックは特定州内で数度の移動がない場合には可能である。州内移動はいかなるタイプのデータベースにも記録されず、追跡は文書(記録)か、オーナーの記憶に依存している。

BSEサーベイランス

 ・すべての外来動物病(エキゾチックな病気)は、連邦法により届け出るべきものとされてきたし、されている。BSEは、エキゾチックな病気として、それが病気と認められたとき(1986年)以来、届け出るべきものとされている。

 ・BSEと一致し得る症候をもつ牛を標的とするサーベイランスが89/90年以来設置され、97年以来、拡大したサンプル規模(年に900-1,600頭)で実施されている。このプログラムは90年に公式にスタートしたが、このシステムで調査された一部サンプルは86年に遡る。サンプルの由来は次の通り。

 ‐神経病の症候を呈する牛、

 ‐屠畜場における生前検査で神経病症候が認められた牛、

 -保健所試験所に提出された狂犬病陰性の牛(米国の専門家はサンプルは適切に採られ、もし存在すれば、BSE発見を可能にしてきたと確認した)、

 -獣医診断試験所と獣医スクール/教育病院に提出された神経症のケース、

 -サンプルの動物の25%から33%は、屠畜時に歩行できない高齢乳牛(「ダウナーカウ」)であると想定された。これら動物の年齢分布に関する詳細な情報は利用できなかった。

 ・組織病理検査に加え、94年以来、診断が確定できなかった牛を対象に免疫組織化学検査が実施された。97年以来、これはサーベイランス計画に完全に組み込まれ、年900-1,600のサンプルが両方の検査で検査された。2000年には2,870のサンプルが検査された。

 ・01年には検査数は倍増、02年、03年には、それぞれ19,777、20,277になった。04年には4月までに72,500の検査がなされた。

 ・03年12月にBSEの1ケースが発見された。徹底した調査で、それはカナダで生まれ、育てられたと分かり、従って国産牛のケースではない。

 ・加えて04年6月1日以来、リスク牛の拡大検査が始まった。12ヵ月から18ヵ月かけて、できる限り多数(目標は26万8,000頭)を検査することが計画されている。歩行困難な牛、中枢神経組織障害の症候を呈する牛、BSEに関連している可能性のあるその他の症候を呈する牛、死亡牛が検査される。サーベイランス計画には、外見上正常な高齢牛からの限定された数の無作為抽出サンプルも含まれる。

3.3 安定性の全体的評価

 安定性の全体的評価のためには、三つの主要安定要因(給餌、レンダリング、SRM除去)と追加的安定要因のサーベイランスの影響が検討されねばならない。ここでも、00年7月のSSCの指針が適用される。

給餌

 97年8月まで、哺乳動物肉骨粉(RMBM)を牛に与えることは合法だった。従って、給餌に関しては「不合格(not OK)」。97年8月にRMBM禁止(フィードバン)が導入されたが、非反芻動物肉骨粉を牛に与えることはなお合法で、非反芻動物(農場動物やペット)にRMBMを与えることも合法だ。様々な哺乳動物肉骨粉(MMBM)はラベルで区別できるだけで、RMBM禁止を維持するのは困難。反芻動物と非反芻動物の肉骨粉の分析的区別は非常に困難だから、フィードバンのコントロールは難しい。

 米国では生産システムが高度に専門化しているから、様々なMMBMの流れは分離できる。従って、このようなフィードバンは、この高度に専門化した地域では「合格」と評価する一定の根拠がある。しかし、いくつかの地域には混合農業・混合飼料工場があり、このような地域ではRMBMの禁止では不十分だ。禁止を遵守させるための牛飼料の公的コントロールは02年に始まった。従って、97年以後の給餌の評価は依然として「不合格」だが、改善されつつはある。

レンダリング

 レンダリング産業は感染性を減らすとは立証されない工程で操業している。従って、レンダリングは「不合格」だったし、今も「不合格」。

SRMの除去

 特定危険部位は飼料用にレンダリングされたし、今でもそうである。これには病牛・死亡牛の部位も含まれている。従って、特定危険部位の除去は「不合格」。

BSEサーベイランス

 89年以前、BSE感染牛を発見(そして排除)するためのシステムの能力は制限されていた。90年以来、一定の(受動的)サーベイランスのお陰で、この能力は改善された。(今年6月から始まった)リスク牛の能動的サーベイランスは、システムを相当程度改善するだろう。

 利用可能な情報に基づき、米国のBSE/牛システムは、現在まで、極度に不安定であった、すなわち、BSE感染性がシステムに入ったとすれば、それがリサイクルされ、急速に増えただろうと結論しなければならない。米国におけるBSE/牛システムの通時的安定性は表4に示される。

表4 米国におけるBSE/牛システムの通時的安定性

安定性

理由

期間

レベル

給餌

レンダリング

SRM除去

サーベイランス

1980−03年

極度に不安定

Not OK

Not
OK

Not
OK

受動的だが、リスクグループの一部検査で改善途上

 この評価は、主として安定性へのBSEサーベイランスの影響とRMBMフィードバンの有効性の受止め方の違いのために、2000年のGBRレポートの安定性評価を修正する。

4.生じるリスクに関する結論

4.1 安定性と挑戦の相互作用

 結論として、過去における米国のBSE/牛システムの安定性とシステムが対抗してきた外からの挑戦は、下の表5に総括される。

 「安定性」と「外からの挑戦」の二つの要因の相互作用から、生じた外からの挑戦に加え、出現し、システムが対抗しなければならなかった「内部からの挑戦」のレベルに関する結論が引き出される。

表5 米国における安定性と外からの挑戦の相互作用

期間

安定性

外からの挑戦

内からの挑戦

1980‐85年

極度に不安定

中位

多分存在する

1986‐90年

1991‐95年

非常に高い

存在し、成長している可能性が高い

1996‐00年

極度に高い

2001‐03年

 牛の輸入から生じる外からの挑戦は、輸入された感染牛が一度飼料用にレンダリングされ、この汚染された飼料が国内牛に達すれば、内からの挑戦につながるだけである。屠畜用に輸入された牛は、通常、輸入前に感染していたとしても、多くのBSE感染性を宿すか、兆候を示すにはあまりに若い。しかし、繁殖牛は、通常、はるかに長く生き、問題のある牛だけが若くて屠畜される。屠畜時に4−6歳であれば、これらの牛はBSE潜伏期間の末期に近づき、BSEの早期の兆候を示すことがあり得る。この場合には、症候が出る前でも、症候が出た牛と同程度の感染性を宿すだろう。従って、牛の輸入は、輸入前に感染していた可能性のある繁殖牛(通常は20−24ヵ月齢で輸入される)の輸入後、およそ3年で内からの挑戦につながった可能性がある。

 米国の場合には、感染した可能性のある少数の牛が英国とその他のBSEリスク国から輸入された。さらに、多数の牛がカナダから輸入された。これは、80年代半ばに輸入された牛が80年代末にレンダリングされ、90年代早期に内からの挑戦につながった可能性があることを意味する。

 他方、汚染されたMBMの輸入は、もし牛に与えられれば、輸入した年に内からの挑戦につながったであろう。この背景の下では、給餌のシステムが最高度の重要性をもつ。輸入され、汚染された可能性のある飼料が牛に達することが排除できれば、このような輸入は内からの挑戦にまったくつながらない。

 米国の場合には、これは、輸入されたMBMが国産牛に達し、90年代初期に内からの挑戦につながった可能性があったことを意味する。

 カナダからの輸入がこの評価で度外視されれば、我々は、80年以来の5年間は中位の挑戦、85−00年は高位の挑戦、以後は低位の挑戦を受けると発見する。輸入による中位から高位までの挑戦を、極度に不安定なシステムに結合すると、内からの挑戦は80年代初期の間に可能性があり、80年代末に生じた可能性が高いと結論される。

4.2 BSE感染性が加工工程に入ったリスク

 加工工程のリスクは、BSEリスク国からの輸入牛が屠畜されたか死に、(一部が)輸入MBMとともに飼料に加工された80年代末/90年代初期に高まった。このリスクは継続して存在し、輸入MBMにより感染した国産牛が加工工程に達した90年代半ばに大きく高まった。システムの安定度の低さを前提とすれば、このリスクは、BSEリスク国からの牛とMBMの輸入が継続した年を通じて高まった。

4.3 BSE感染性がリサイクルされ、広がったリスク

 BSE感染性がリサイクルされ、広がったリスクは、加工工程のリスクが最初に現われて以来、すなわち90年代初期以来、存在する。このリスクは現在まで永続、米国のBSE/牛システムの極度/非常な不安定のために、急速に高まっている。

5.地理的BSEリスク(GBR)に関する結論

5.1 過去の安定性と挑戦の関数としての現在のGBR

 ・現在のGBRはのレベルはVである。すなわち、国産牛が(発症、または発症前の状態で)BSE病源体に感染している可能性が高いが、確認されていない。

 注1:現在のGBRの結論は、米国とカナダの間の大規模な輸入貿易に依拠していないことも注意に値する。ヨーロッパ諸国から米国への輸出による外からの挑戦は、中位から高位まで変動する。これらの挑戦は、BSE感染性が北米大陸に侵入した可能性が高いことを示唆する。

 注2:この評価は、当時はいくつかの輸出国にあり得るリスクが考慮されなかったから、以前の評価(2000年のSSCの意見)から逸れる。

5.2 過去及び現在の安定性と挑戦の関数としての予想されるGBRの進展

 ・レンダリングまたは給餌に大きな変化がないかぎり、安定性は極度/非常に不安定なままになる。従って、牛がBSE病源体に(発症、または発症前の状態で)感染している確度は高まり続ける。

 ・多くの国でのMBM生産の安全性の最近の改善、あるいは最近のBSE発生率の大きな減少は外からの挑戦の評価で考慮されていないから、01年以後に評価された外からの挑戦は過大に評価されている可能性があり、最悪のケースの想定である。しかし、すべての現在のGBRの結論は、評価されたどの国においても、これらの想定に依拠していない。将来の評価については、また生産・サーベイランス・真の発生率の変化の影響が完全に数量化されるときには、これらの進展が考慮されるべきである。

5.3 将来のGBRを変えるための勧告

 ・システムの安定性を改善する措置は、常に、牛がBSE病源体に感染する確度を減らす。可能な行動には次のものが含まれる。

 -飼料に入る動物副産物のレンダリングからのSRM及び/または死亡牛の除去、

 -レンダリング工程における加圧基準、

 -牛飼料中に反芻動物MBMが含まれないかどうかの定期的抜き取り検査に支えられた、牛飼料への反芻動物MBMの利用の禁止の大幅な改善。

 ・改善された受動的及び能動的サーベイランス、すなわち死亡牛や緊急屠畜牛中の成牛など、リスクの高い牛集団からのBSE類似の兆候を示さない牛の迅速スクリーニングの手段による検査は、安定性強化措置の有効性の監視を可能にするだろう。

(以上)

(注)より精度の高い検査を採用して全頭検査を続けるべきだという声がある。現在の検査よりも本当に精度が高い検査があれば、それは、経験により想定された検出限界月齢で表される精度と本当の精度とのズレを縮め、このリスク増分を小さくするだろう。ただし、よく引き合いに出され、欧州委員会も公認したプルシナー博士等が開発した構造依存性免疫検査法(CDI)も含め、現在広く採用されている迅速検査よりも精度が高いと確認された検査は、今のところ存在しない。欧州委員会の決定も、現在広く採用されている迅速検査よりも精度が劣ることはないという科学評価の結果に基づくもので、この科学的検証は、制度がより高いとか、どれほど高いかを確認するものではなかった。

 従って、少なくとも現在のところ、BSEが存在するのか、存在するとすればどれほどかというリスク評価に基づく包括的なリスク管理の基本的重要性は変わらない。それを軽視ないしは無視し、BSEはどれほどあったとしても、限界ある検査と特定危険部位の除去で安全は確保されるという考えは間違っている。それらの重要性は否定しないが、最も重要なことは、もしBSEが存在するとすれば、その拡散を防ぐ措置(牛の飼育方法の改善や肉骨粉禁止)の徹底である。