欧州食品安全庁(EFSA)、7ヵ国のBSEリスクを評価 米国のリスク高まる

農業情報研究所(WAPIC)

04.8.25

 EUの欧州食品安全庁(EFSA)が20日、オーストラリア、カナダ、メキシコ、ノルウェー、南アフリカ、スウェーデン、米国の地理的BSEリスク(GBR)評価の結果を発表した。これらはすべて、EFSAのウエブサイトで見ることができる。

 GBR評価は特定国・地域のBSE発生または潜在のリスクの大きさをランク付けるもので、EU諸国だけでなく、EUへの動物・動物産品の輸出を望む域外諸国についても行われ、輸入規制措置決定(リスク管理)の基礎をなす。この評価は、従来は科学運営委員会(SSC)の仕事であり、99年3月に採択された評価方法に基づき、99年3月にEU11ヵ国の評価が実施された。以来、2001年までに51ヵ国の評価が完成した。

 しかし、01年に採択された「一定の伝達性海綿状脳症(TSE)の予防・コントロール・根絶のためのルールを定める欧州議会及び理事会規則(EC)No.999/2001」は、GBRについても評価方法を改善、リスクのランク付けも従来の4段階から5段階に改めた。そして、EU諸国やEUへの関連品輸出を希望する国や地域はこの評価を受けねばならず、01年7月1日から6ヵ月以内に評価を申請しなかった国や地域はリスクが最高レベルのXにランク付けると規定した。

 ところが、SSCのこの再評価の作業は遅れ、昨年4月15日まで評価を完成した国は28ヵ国にとどまり(再評価が終わらない国については、以前の評価を暫定的に適用)、この作業は新たに設立されたEFSAに引き継がれた。20日に公表された7ヵ国の評価は、EFSAの手による最初の評価となる。

 オーストラリアは引き続きリスクレベルTと評価された。ノルウェーのリスクは引き上げられ、従前と同レベルと評価されたスウェーデンとともにレベルUに分類された。カナダと米国のレベルはVに引き上げられた。メキシコと南アフリカもレベルVと評価された。

 これにより、これまでに評価された国のリスクレベルは次のようになった。

 

国名

T

(新評価)オーストラリア、アルゼンチン、バヌアツ、ブラジル、カレドニア、チリ、アイスランド、ニュージーランド、シンガポール、ウルグアイ
(旧評価)ボツワナ、エル・サルバドル、ナミビア、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、スワジランド

U

(新評価)コス・タリカ、ノルウェー、スウェーデン
(旧評価)コロンビア、インド、ケニヤ、モーリシャス、ナイジェリア、パキスタン

V

(新評価)アンドラ、オーストリア、ベラルーシ、ブルガリア、カナダ、クロアチア、キプロス、エストニア、フィンランド、旧ユーゴスラビア・マケドニア共和国、ギリシャ、イスラエル、ラトビア、リトアニア、マルタ、メキシコ、サン・マリノ、スロベニア、南アフリカ、トルコ、米国
(旧評価)アルバニア、ベルギー、チェコ、デンマーク、フランス、ドイツ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、日本(評価中断)、ルクセンブルグ、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スペイン

W

(旧評価)ポルトガル、イギリス

X

 

 
 旧分類では、T:国産牛のBSEは高度にありそうにない。U:国産牛のBSEはありそうもないが、まったくないとはいえない。V:国産牛のBSEはありそうであるが確認されていない、または低いレベルで確認されている。W:高いレベルで確認されている。
 新分類では、T:国産牛中のBSE存在は高度にありそうにない。U:BSEが暫定的に存在しないか、国産牛のBSEのケースが報告されていない。V:BSEが暫定的に存在しないか、国・地域産動物のBSEの最低1ケースが報告されている。W:低レベルのBSE発生がある。X:高レベルのBSE発生がある。

 なお、このリスクレベルの決定は、次に掲げる基準によるリスク分析・リスク管理の実施状況、実施期間(最低7年間)、BSE発生状況(確認数)などを考慮して行われる。

 (a)肉骨粉か反芻動物由来の油粕の牛による消費、TSE(伝達性海綿状脳症)に汚染された可能性のある肉骨粉か油粕または肉骨粉か油粕を含む飼料の輸入、TSEに汚染された可能性のある動物または卵子・胚の輸入、国または地域の動物のTSEに関連した疫学的ステータス、国または地域における牛・羊・山羊の個体群の構成に関する知識の程度、動物廃棄物源・そのような廃棄物の処理・飼料生産方法などのすべてのBSE発生要因を確認するリスク分析の成果、

 (b)獣医、繁殖業者・牛の輸送・取引・屠殺を行なう者に成牛の神経症すべての報告を求める教育プログラム、

 (c)BSEの症状を示すすべての牛の義務的な報告と検査、

 (d)適切な(EU規則に定められたような、または国際基準に従う)継続サーベイランスとモニタリングのシステム。実行された検査の数の報告とその結果の最低7年間の保存、

 (e)(d)のサーベイランスで収集された脳髄またはその他の組織のサンプルの承認された試験所での検査。

 今回の評価は、1980年から03年までの各国が提供するデータとEUが持つデータ(EU統計局及びEU各国の輸出データ)に基づくものである。

 カナダ・米国については、日本の輸入再開問題が直接関係する。両国からの輸入停止に伴い、メキシコから輸入も急激に増えている(下表)。わが国国民の関心は、これら諸国のリスク評価に集中するだろう。EUは、この評価に基づき、米国やカナダには厳しい輸入規制(特定危険部位の除去や肉骨粉禁止の有効な禁止の立証など)を継続するだろうし、メキシコにも同様な規制を課すことになろう。だが、もわが国のリスク評価機関はまともな評価に取り組んでいない。

  2004年4-6月:メキシコからの生鮮・冷凍牛肉輸入数量(MT、6月は速報値)

  4月  

  5月  

  6月  

35

48

137

220(前年同期の27.5倍)

 ここでは、とりわけ関心が高い米国に対する評価に関する報告(http://www.efsa.eu.int/science/efsa_scientific_reports/gbr_assessments/573/sr03_biohaz02_usa_report_v2_en1.pdf)の要点を紹介しておこう。米国については、SSCが2000年7月に最初の評価報告を出しているが(参照:EUによる米国のBSEリスク評価(抜粋)―米国の主張に対抗するために―,04.1.23)、今回はリスクは一層高いと評価している。これを裏付ける詳細なデータを知りたい人は、作業グループの詳細な調査報告(http://www.efsa.eu.int/science/efsa_scientific_reports/gbr_assessments/scr_annexes/574/sr03_biohaz02_usa_report_annex_en1.pdf)を参照されたい。

 EFSAによる米国のBSEリスク評価の要点

T 評価

1.外国から攻撃(BSE侵入のリスク)

 2000年7月の最初の評価のときから状況は大きく変わった。EU諸国中のBSE発生国がその後急増、さらにカナダでも発生したことから、BSE侵入源となる国が急増した。これら諸国からの牛や肉骨粉の貿易状況を仔細に調査した結果、このリスクは80-90年は中位っだったが、91-95年には非常に高くなり、さらに96-03年には極度に高くなったと評価している。

2.国内におけるBSE再生産のリスク

(1)給餌 

 97年8月まで、哺乳動物肉骨粉(RMBM)を牛に与えることは合法だった。従って、給餌に関しては「不合格(not OK)」。

 97年8月にRMBM禁止(フィードバン)が導入されたが、非反芻動物肉骨粉を牛に与えることはなお合法で、非反芻動物(農場動物やペット)にRMBMを与えることも合法だ。様々な哺乳動物肉骨粉(MMBM)はラベルで区別できるだけで、RMBM禁止を維持するのは困難。反芻動物と非反芻動物の肉骨粉の分析的区別は非常に困難だから、フィードバンのコントロールは難しい。

 米国では生産システムが高度に専門化しているから、様々なMMBMの流れは分離できる。従って、このようなフィードバンは、この高度に専門化した地域では「合格」と評価する一定の根拠がある。しかし、いくつかの地域には混合農業・混合飼料工場があり、このような地域ではRMBMの禁止では不十分だ。禁止を遵守させるための牛飼料の公的コントロールは02年に始まった。従って、97年以後の給餌の評価は依然として「不合格」だが、改善されつつはある。

(2)レンダリング

 レンダリング産業は感染性を減らすとは立証されない工程で操業している。従って、レンダリングは「不合格」だったし、今も「不合格」。

(3)特定危険部位の除去

 特定危険部位は飼料用にレンダリングされたし、今でもそうである。これには病牛・死亡牛の部位も含まれている。従って、特定危険部位の除去は「不合格」。

(4)BSEサーベイランス

 89年以前、BSE感染牛を発見(そして排除)するためのシステムの能力は制限されていた。90年以来、一定の(受動的)サーベイランスのお陰で、この能力は改善された。(今年6月から始まった)リスク牛の能動的サーベイランスは、システムを相当程度改善するだろう。

U 結論

1.BSE病源体は多分米国に輸入され、80年代半ばに国産牛にまで達した可能性がある。80年代半ばに輸入されたこの牛は、80年代後半にレンダリングされ、90年代早期のBSE国内再生産につながった可能性がある。米国に輸入された肉骨粉が国産牛に達し、90年代早期のBSE国内再生産につながったこともあり得る。

2.BSEリスク国からの輸入牛が屠殺されるか死に、一部が飼料に加工された80年代後半から90年代早期に加工工程のリスクが高まった。このリスクは引き続き存在し、輸入肉骨粉で感染した国産牛が加工されるようになった90年代半ばに大きく高まった。リスク軽減の国内システムの弱体を考えると、BSEリスク国からの牛と肉骨粉の輸入継続により、このリスクは年々高まってきた。

3.現在のGBRのレベルはVである。

4.この評価は、当時はいくつかの輸出国のあり得るリスクが考慮されなかったために、前回のSSCの評価とは異なる。

5.現在のGBRの結論は、米国とカナダの間の大量の貿易に依拠していないことも注意に値する。ヨーロッパ諸国から米国への輸出により、外部からのBSE侵入のリスクは中位から高位に変わった。これら外部からの攻撃は、BSE感染性が北米大陸に導入された可能性が高いことを示す。

 報告は、レンダリングまたは給餌に大きな変化がないかぎり、牛がBSEに感染する公算は永続的に増えつづけると結んでいる。