EUによる米国のBSEリスク評価(抜粋)

―米国の主張に対抗するために―

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農業情報研究所(WAPIC)

04.1.23

 米国でのBSE発生に伴う米国・カナダのBSEをめぐる状況を調査してきた日本調査団の調査結果が1月19日に発表された(米国でのBSE発生に伴う海外調査について)。それは、米国のBSE対策の現状について、とりわけ反芻動物由来蛋白質を反芻動物飼料に利用することを禁止する97年8月以来の飼料規制(フィードバン)の遵守状況に問題があり(飼料の自家配合を行っている多くの小規模農家が検査対象から漏れている、レンダリング工場・飼料工場で交差汚染の可能性はある)、今回のBSEのケースがカナダ生まれで、カナダのBSE汚染飼料により感染したものであるとしても、米国とカナダでBSEに関する汚染状況には大差があるとは考えられず、今後も米国でBSEが発生しないという保証はないと結論している。

 これは、米国牛肉の早期の輸入再開を求める米国政府の主張に反論する有力な根拠となるであろう。だが、発表された調査結果が指摘する事実は、上記の点も含めて、ほとんどが既に指摘されてきたことをである。このような既存の指摘は一顧だにせず、BSE発生にもかかわらず米国牛肉は「世界一安全」などと豪語するほどに「危機意識」が薄い米国に対抗するためには、米国のBSE対策の「危うさ」のさらなる証拠固めが必要であろう。そのための強力な「援軍」は、EUが2000年7月に発表した米国のBSEリスク評価である。それは、基本的には今回の調査結果が指摘するような事実と問題とともに、米国のBSE対策の様々な領域における問題点を詳細な事実調査に基づいて指摘している。その骨子についてはずっと前に紹介したが(米国の牛海綿状脳症(BSE、狂牛病)防御措置とEUによるその評価,01.10.8)、ここで一層詳しく紹介しておきたい。

 目次

T BSEのケースの発見と感染しているリスクのある動物を加工前に排除する能力

 1.家畜集団の構造

  1)米国における牛の総数

  2)生体牛及び屠殺時の牛の年齢配分

  3)飼育システム

  4)牛識別と監視のシステム

 2.サーベイランス

  1)サーベイランスのシステムとその発展

  2)サーベイランス・システムの質(評価)

 3.淘汰

 4.BSEのケースの発見と感染しているリスクのある動物を加工前に排除する能力の全体的評価

U BSE感染牛が加工に入り、感染性がリサイクルされるのを回避する能力

 1.国内肉骨分(MBM)の生産と利用

  1)MBMの国内生産

  2)MBM飼料禁止とその遵守状況

  3)MBMの利用

 2.特定危険部位(SRM)の禁止とSRMの処理

 3.レンダリングと飼料生産

  1)レンダリングに使用される原料

  2)レンダリング工程

  3)原料のあり得るBSE感染性を減らすレンダリング・システムの能力

 4.交差汚染

  1)あり得る交差汚染のタイプ

  2)交差汚染防止のために取られた措置

  3)あり得る交差汚染レベルの評価

 5.BSE感染牛が加工に入り、感染性がリサイクルされるのを回避する能力の全体的評価

 総括

 

T BSEのケースの発見と感染しているリスクのある動物を加工前に排除する能力

[これを評価するための要素には、家畜集団の構造、サーベイランス、感染リスクの高い牛を排除・廃棄する淘汰が含まれ、@BSEに曝される牛の数(→感染牛数→加工されるBSE感染牛数→レンダリングされるBSE感染性の量→BSE汚染国内肉骨粉→感染牛数)、A加工されるBSE感染牛の数(→レンダリングされるBSE感染性の量→BSE汚染国内肉骨粉→感染牛数→加工されるBSE感染牛数)の評価に関係する。]

.家畜集団の構造

1)米国における牛の総数

8011100万、909900万、951280万、98年9千950万。このうち17.6%(1750万)が乳用牛(屠殺される乳用牛と肉用牛の比率は牛総数における比率と同じと仮定)

2)生体牛及び屠殺時の牛の年齢配分

(生体牛)

95-98年(0-1歳、1-2歳、2歳以上の区分)と89年(乳牛について2-7歳)のデータだけが得られる。 

・肉用牛では2歳以上が約42%、乳用牛では2歳以上が52%(そのうち、2-331%、3歳代23%、4歳代17%、5歳代12%、6歳代8%、7歳以上9%)。

89年の乳用牛の平均年齢は3.8歳。

(屠殺時)

85-97年のデータが利用できる。

・屠殺総数は803630万から913110万に減少。91年から再増、963930万、973630万。

・肉用牛・乳用牛の区別は不能。

・屠殺された牛の17-19%が2歳以上。乳用牛の屠殺時平均年齢は4歳から5歳の間。

3)飼育システム

・米国専門家によると複合農業は存在するが少数(または減少している)。

・主要飼育システムは牛肉生産(82.4%)と酪農(17.6%)の二つのシステム。

・両システム内にはすべてのレベルの集約度があるが、今はどちらも大規模で集約的な事業で特徴付けられる。酪農では、大機規模化、効率化の明確な趨勢を見ることができる。

平均牛郡規模(頭数)と平均泌乳量(年1頭当たり、1000ポンド)

87

88

89

90

91

92

93

94

95

96

規模

91.8

93.1

95.8

97.8

99.9

103.8

102.2

107.0

111.5

118.5

乳量

17.0

17.4

17.6

18.0

18.4

18.8

18.7

19.1

19.3

19.2

・米国専門家により提示された地図では、一定の地理的地域で、集約牛・豚・鶏産業の重複が示されている(→これら地域では牛飼料への豚・鶏飼料の混入のチャンスが増える)。

4)牛識別と監視のシステム

・既存の家畜識別システムは州と連邦の代表者が共同で運営、各州につき個別に維持されている。中央に集中された家畜識別システムは存在しない。

・各州内では、家畜は、ブルセラ病や結核のような病気の防除・撲滅計画で登録されるに際して、二桁の数字と唯一の番号をもつ金属耳タグを付けられ、州のデータベースに登録される。

・加えて、家畜が州間を移動するときには移動許可(適切な識別を伴う)が必要である。

・米国の専門家によれば、このシステムによって、すべての牛のおよそ95%が公的タグをもち、州のデータベースに登録されることになると推定される。

・州のデータベースは連邦のデータベースに連結されていないが、同等なデータの抽出は十分に可能である。

・繁殖団体はそれぞれが自身の識別システム(典型的には耳タグ)をもち、これらのデータベースは追加的情報源となる。

・また、牛群はそれぞれの固体識別システム(タグ付けまたは焼印または入れ墨)をもつ。市場/販売の間には背中のタグ(一回かぎりの紙登録ナンバー)が使われ、牛が他の適切な識別標識をもたないで屠殺に出されるときに履歴を辿る情報源を提供することになる。

・個別の牛の履歴を辿ることは、当該の牛が特定の州の内部で何回か移動しなかったときには、いつでも可能である。

州内移動はいかなるタイプのデータベースにも記録されず、履歴を辿るためには文書記録または各オーナーの記憶に頼るしかない。

80年から89年の間に英国とアイルランドから輸入された496頭の牛のうち、32頭(995月段階)を除く牛を突き止めることができた。

 

2.サーベイランス

 [サーベイランスの重要な要素は、BSEを疑われるケースを発見した場合の通報義務、現場の関係者のBSEに関する教育・訓練、適切なサーベイランス計画と検査である。]

1)サーベイランスのシステムとその発展

・すべての外国動物病は連邦法により通報可能で、BSEもそれが新種の病気として認められて以来、外国動物病として通報可能である。 

・BSEの症候を認め、確認調査のための供試体を提出するための現場関係者の教育は89/90年に始まった。情報資料が州と連邦の獣医、民間現場関係者、その他の関連産業に配られた。BSEサーベイランスの重要性とその典型的症候を示すビデオテープが作られ、配布された。州試験所職員は組織病理学訓練を受け、94年からはBSEを確認するための脳サンプルの免疫組織化学的検査の訓練も受けている。

・BSEに合致する臨床症候をもつ牛を標的とするサーベイランスは89/90年から設けられ、97年からは標本サイズが増やされている(年に900から1600)。その基本的要素は、現場獣医に報告された中枢神経系異常をもつ成牛(2歳以上、最高齢は14歳)からの脳サンプルの検査とBSEを示唆する臨床症候をもつ牛の追跡である。サンプル採取は、様々な州からの牛が集まる可能性のある屠畜場に関連付けられている。

・この計画は90年にスタートしたが、このシステムの下で検査されたサンプルは86年まで遡る。サンプルは、

−神経病症候を示す農場のケース、

−屠畜場の生前検査で神経症の症候が認められた牛、

−公衆衛生試験所に提出された狂犬病陰性の牛、(サンプルは適切に取られ、BSEが存在するとすれば発見は可能であった)

−獣医診断試験所と獣医学校/教授病院に提出された神経症のケース、

から取られ、

−サンプルの牛の25%から33%は屠畜場で歩行困難な高齢乳用牛(“ダウナーカウ”)であった。これらの牛の年齢分布に関する詳細な情報はない。

・組織病理学検査に加え、94年からは、診断が確定できなかった牛に免疫組織化学的検査(IHC)が適用されている。これは97年からはサーベイランス計画に完全に統合され、年間およそ900から1,160のサンプルが両方の検査で検査されている。89年から20004月までの間に、10,499のサンプルが収集された。

・いわゆる“ダウナーカウ”、すなわち屠畜場で起立・歩行が困難な乳用成牛はサンプルの重要部分を占めている。ダウナーカウは年に35千頭から4万頭が屠畜場に来るが、そのうち、9395年には約250頭(サンプル数は700)、9698年には354-400頭(サンプル数は700-1000)が検査された。

2)サーベイランス・システムの質(評価)

90年以前は、BSEが通報可能になっていたとしても、いかなるBSEサーベイランスも存在しなかった。

90年以来、BSEサーベイランスは、通報の義務化と90年以来保証された[農家への]基本的損害補償、89年にスタートした啓蒙措置と獣医の教育、BSEに合致し得る診断症候を示す牛を標的とするBSE特別サーベイランス計画により、相当に改善された。

・現在、BSEサーベイランスは、大部分は受動的サーベイランスの限界内で、典型的または非典型的な臨床症候または病変をもち、組織病理学的検査またはIHCにより確認できるBSEのケースを確認できるであろうが、少数のケースは通報されない可能性がある

輸入牛に標的を絞ったサーベイランスは、80年代に英国及びアイルランド原産の牛の大部分は発見し、その行方を突き止めることができたが、すべてについてではない90年に未だ生きており、発見された牛は、90年から95年の間に加工から排除された。

 

3.淘汰

・BSEのケースに適用される非常時計画が90年に策定され、その後何度か改訂された(最終版は98年)。この計画は、感染牛牛群の廃絶と出生時コーホート(EUの定義では、「BSE感染牛出生の前後12ヶ月の間にこの感染牛が生まれた牛群内で生まれた牛、または生後12ヶ月の期間中の何らかの期間に感染牛と共に育てられ、また生後12ヶ月の間に感染牛が消費したのと同じ飼料を消費した可能性がある牛のすべて」)及び感染牛の子の追跡と屠殺を想定している。

・ヨーロッパからの追跡可能な輸入牛のサーベイランスは、90年以来強化され、96年に隔離下に置かれた。これらの牛は、更新時に政府が買い入れ、検査し、廃棄した。検査結果はすべて陰性であった。

 

4.BSEのケースの発見と感染しているリスクのある動物を加工前に排除する能力の全体的評価

89年以前は、BSEのケースを発見(排除)するシステムの能力は限定されていた。

90年以後、良好なサーベイランスと淘汰のシステムにより、この能力は大きく改善された。

・現在、サーベイランスは、症候を示すBSEのケースを、基本的には受動的なサーベイランス・システムの限界内で、発見できる。すなわち、若干のケースは発見されない可能性がある

 

U BSE感染牛が加工に入り、感染性がリサイクルされるのを回避する能力

 

[これには@国内肉骨粉(MBM)の生産と利用、A特定危険部位(SRM)の禁止と処理]、Bレンダリング(動物の骨・皮・内臓等、食用にならない「動物副産物」を原料として動物性油脂と動物性蛋白質(肉骨粉等)を製造する過程)と飼料生産、C他の動物の飼料に使われるMBMが牛の飼料に混入する、いわゆる「交差汚染」防止対策が関係する。]

1.国内MBMの生産と利用

1)MBMの国内生産

・年平均300万トン。

・MBMのほぼ60%はBSEに感染する可能性をもつとされる反芻動物(牛、羊、山羊等)起原のものである(牛59%、羊0.6%、豚20%、鶏20%)。

2)肉骨粉飼料禁止とその遵守状況

・[BSE感染性をもつ可能性があるのは「反芻動物」由来のMBMであるが、EUは、現実には他の哺乳動物蛋白質との区別が難しいことや、「混入」のリスクを防ぐために、「哺乳動物」MBMを含む飼料で反芻動物を飼育することを禁じてきたが]米国飼料産業により認められた哺乳動物MBMの反芻動物飼料からの排除(フィードバン)が978月から実施された。ただし、指定された単一種レンダリング工場で生産される豚とウマ科動物の蛋白質(MBM)はこの禁止の例外とされた。

・飼料生産者により提供された情報に従えば、遵守状況は98年以来良好(>70%から90%)、それ以前は平均的(>30%、≦70%

3)MBMの利用

97年まで、反芻動物MBMは様々な年齢とタイプの牛を飼育することが許されており、またそれにより飼育されるのが一般的であった。フィードバン以前、すべてのMBMの10%だけが牛の飼育に使われていたと推定される。

97年以来、反芻動物由来の牛飼料中の動物蛋白質は、豚・ウマ・鶏由来のMBMを含む他の蛋白源に置き換えられた。

 このアセスメントは提供された次の情報に基づく。

−肉用子牛(0-1歳)は、通常は母乳で育てられるから、濃厚飼料は与えられない。

−肥育のためのすべての肉用牛は、肥育期間の12ヵ月(1-2歳)を通して濃厚飼料を与えられる。

−肉用(繁殖)牛(2歳以上)と乳用未経産牛(1-2歳)のおよそ50%が濃厚飼料を与えられている(場所と気候による)。

−すべての乳用子牛(0-1歳)は子牛スターター飼料(哺育専用飼料)と濃厚飼料を与えられている。

−すべての乳用成牛(2歳以上)は濃厚飼料を与えられている(89年、1頭当たり年に約2,400s)。

−配合飼料配合物の約6%が動物性蛋白質。この動物蛋白質の約50%がMBM。年々生産されるMBMの約60%が反芻動物由来。

−従って、978月までは、標準的配合飼料配合物は1.5%以上の反芻動物MBMを含んでいた。他方、子牛のスターターは肉粉、血粉、血清を含んでいたが、MBMは含んでいなかった

9710月以降、反芻動物用飼料中の蛋白質の反芻動物成分は、豚・ウマ・鶏由来のMBMを含む他の蛋白源に置き換えられた。

消費者と市場(価格)が配合飼料内の蛋白質成分の地方における混合(自家配合)を駆り立てた

−植物蛋白質(50%大豆混合物)とMBMの市場価格は、時期を通じて大きくは変わらない。

88年、米国の家畜と鶏の与えられた濃厚飼料の総量は18290万トンであった。この総量に含まれるMBMは1.3-1.9%で、約300万トンであった。MBMの大部分、すなわち70%はペットフードか鶏の飼料に使われ、約15%(45万トン)が牛の飼料に使われた。

 

2.SRMの禁止とSRMの処理

・米国にはSRM禁止は存在しない

SRMは他の屠殺された家畜や病気・斃死家畜(fallen stocks)と共に、レンダリングされる

 

3.レンダリングと飼料生産

1)レンダリングに使用される原料

・屠殺場に連結された大部分のレンダリング工場の原料は、様々な家畜からのSRMを含む屠殺後の内臓である。

・これらの工場の一部は、一種類の動物からの原料だけを加工している。

・その他のレンダリング工場は、農場から病気・斃死家畜を集める独立施設である。

2)レンダリング工程

・米国の約280のレンダリング工場で四つのレンダリング・システムが利用されている。すべてのシステムは、110℃から150℃の温度の様々な時間の加圧熱処理をしている。

−一括処理工場(46ヵ所):115-125℃、30-240分。

−継続チューブ・ディスク処理システム(220ヵ所): 131-150℃、45-90分。

−継続多段階蒸製システム(10ヵ所):115-125℃、20-40分。

−継続予熱/加圧/蒸製システム(4ヵ所):87-120℃、240-270分。

[EUでは、96年以来、50o未満の粒子につき133-20-3気圧の加圧熱処理を一まとめにし、連続して行うことだけがBSE感染性を減らすのに有効としている]

3)原料のあり得るBSE感染性を減らすレンダリング・システムの能力

 米国におけるレンダリング・システムは、一見してBSE感染性を大きく減らしていないし、減らしていなかった。BSEに汚染された原料がレンダリングに入っているとすれば、生産されたMBMは含まれる感染性の大部分を持っていたし、今なお持っている可能性がある

 

4.交差汚染

1)あり得る交差汚染のタイプ

・[レンダリング工程での交差汚染]反芻動物物質が他の動物種からの物質と一緒にレンダリングされるところ(全体の工場の約50%)では、すべてのケースにおいて原料が感染している可能性のある物質に汚染される可能性がある。これはSRMが含まれるから、とくに重大である

・[飼料工場での交差汚染]多くの工場は多種の動物のための配合飼料を生産するから、飼料工場における交差汚染があり得る。食品医薬局(FDA)の規則は、反芻動物飼料の生産に別のラインを使うか、生産バッチ間で使用される詳細な洗浄手続を定めている。反芻動物MBM(RMBM)が豚と鶏の飼料に含まれることはなお許されており、また非反芻動物(特定工場からの豚とウマのMBM)が反芻動物飼料に含まれることはなお許されている。飼料工場における交差汚染は完全には排除できないし、反芻動物とその他の哺乳動物のMBMを区別する検査は行なわれていないから、交差汚染のレベルを推定することは不可能である

・輸送中及び農場での交差汚染が想定される。

2)交差汚染防止のために取られた措置

・レンダリング工場と飼料工場を対象とする多要素検査業務が国全体に設けられている。

3)あり得る交差汚染レベルの評価

 牛飼料のRMBMとの交差汚染は排除できない。従って、リーゾナブルな最悪のケースのシナリオとして、牛、とくに乳牛がなおRMBMに、従ってBSE感染性に曝されていると想定しなければならない

 

5.BSE感染牛が加工に入り、感染性がリサイクルされるのを回避する能力の全体的評価

97年以前、米国のレンダリング及び飼料生産のシステムは、BSE病源体のリサイクル回避できなかった。その程度は測りしれない。BSE病源体が飼料連鎖に入ったとすれば、恐らくは牛に到達することができた

978月のフィードバン以後、この能力は多少なりとも改善された。だが、反芻動物のレンダリング・システム(SRMと病気・斃死家畜を含む)と、牛飼料の他の飼料、従ってRMBMとの交差汚染の可能性が継続しているために、改善の程度は依然として低い

 

総括

このようにして、EUは、もしもBSE病源体が飼料連鎖に入ったとすれば、米国内でBSEが再生産される可能性を排除できないとしたのであるが、BSE病原体の飼料連鎖への侵入については、88年以前に英国から輸入された266頭、及び88/89年に直接輸入された47頭、90-93年にカナダを通して輸入された10頭を通して侵入した「中位」のリスクがあるとした。これにより、EUは米国のBSEリスクを「国産牛がBSE病源体に感染していることはありそうもないが、排除はできない」と結論した。

 このとき、EUはとりわけ、@SRMと病気・斃死家畜のレンダリングからの排除、Aレンダリング工程の改善、B交差汚染の抑止と削減を含むMBM禁止の遵守の改善を勧告している。

 

 EUのこの勧告にもかかわらず、米国は、以後、ほとんど何も行動を取らなかった。それでいて、米国牛肉の早期輸入再開を求めて来日したベン農務次官は22日、「たった一頭の牛が感染していたが、カナダからきたものだ」、97年に導入した飼料規制の措置と昨年末に発表した追加規制によって「米国牛肉は十分安全性が確保されている」と語ったという(日本農業新聞、1.22)。だが、農水省が指摘するまでもなく、米国とカナダの牛飼料と家畜の流通は国境がないも同然である。EUは、BSEがカナダから侵入し、米国内で再生産されている可能性を、既に示唆していた。新措置はようやくSRMの除去を定めたが、脳・脊髄等中枢神経組織は30ヵ月以上の牛のものだけがSRMだとされている。30ヵ月未満の牛のこれら組織のBSE感染性は無視できるという米国の主張の根拠は薄弱だ(⇒米国のBSE(第七報):監視・検査の強化、特定危険部位除去の問題点,04.1.13)。今後も、BSE感染性をもち得る30ヵ月未満の牛の脳や脊髄、ズサンな監視の目を逃れた「ダウナーカウ」などがレンダリングに入るだろう。新措置はレンダリング工程の改善や交差汚染防止については何も触れていない。EUの評価は、依然として現在も当てはまる。

 わが国はEUのリスク評価の公表を拒否した数ヵ月後にBSE発生を見ることになった。業界が米国牛肉の安全性の宣伝に走ったとき、EUの米国BSEリスク評価が公表されて既に1年以上経っていた。だから、筆者はその危険性を指摘、このリスク評価の概略を紹介したのである。わか国政府がEUのリスク評価を尊重、米国でのBSE発生を見越した対応策を講じていれば、現在のような混乱は避けられたであろう。過ぎたことは言っても仕方がないが、遅ればせでもEUの評価に学ぶところは多いはずである。